医学界新聞


救急認定看護師が患者・家族を支援すること

寄稿 林 美恵子

2025.03.11 医学界新聞:第3571号より

 医療の進歩に伴い,とりわけ救急・集中治療では高度な治療やケアが日々提供されている。それゆえ重症・緊急患者への対応も高度になってきた。一方の患者家族は,状態説明から治療方針の説明,その同意書や入院計画書などへのサインを迫られるものの,どれほどの状態でどういった治療がされるのかを理解しきれない場合や,状態によっては大切な家族に何もできない絶望感などさまざまな心理状態におかれる。そのような患者家族への介入ができるよう,入院時重症患者対応メディエーター(以下,メディエーター)養成講習が2018年度から開始され1),22年度からメディエーターが重症患者初期支援を行うことに診療報酬が加算(重症患者初期支援充実加算)されるようになった2)

 本稿では,救急や集中治療領域で活動する専門性の高い看護師がメディエーターをすることで,重症患者の家族や医師・看護師への支援にどのように影響するかを述べていく。

 急性期における重症患者の治療と家族の心理的変化の流れは図1のように示される。入院時重症患者対応メディエーターは患者家族にできる限り初期から寄り添い,家族の不安や疑問に答え,医療者との間に入りながら十分に治療方針に納得,理解できるように支援や調整を行う。

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図1 聖隷浜松病院における入院時重症患者対応メディエーターの支援範囲
聖隷浜松病院では家族支援専門看護師,救急看護認定看護師が入院時重症患者対応メディエーターとして活動し,急性重症患者の家族と医療チームを支援している。重症患者・家族ケアサポートチームは救急・集中治療医,ICU・救命病棟担当MSW,ICU・救急救命病棟,NICU,MFICU看護師長で構成されている。

 メディエーターとしての主な活動に医師との面談やベッドサイドでの家族支援がある。医療の専門用語は家族にとって馴染みがないため,ベッドサイドにある医療機器や薬品についても一つひとつ理解を確認しながら,もしくは質問に応じながら説明している。また面談に同席したときには家族の質問を代弁することもある。実際,患者家族のほとんどは医師からの話を頷きながら聞いているが,理解が曖昧なままの場合や,記憶していないことが多い。こうした家族支援は時に医師との面談の一助になるだけでなく,現場看護師への家族情報の提供にもつながる。

 メディエーターとして活動するには医療者資格は必須ではない。多くの施設で養成講習会を受けたメディカルソーシャルワーカー(MSW)や心理職などのスタッフが,メディエーターとして多数活動している。筆者は救急看護認定看護師として救急外来での早期家族対応などに携わってきた経験だけでなく,以下に示すような院内の重症患者に対し病棟看護師と共に看護実践していた経験から,メディエーター養成講習会を受講して家族介入活動を行っている。

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・急変時迅速対応チームメンバーとして緊急要請に応じる
・院内の呼吸/循環器疾患にかかわる看護師とその患者への対応
・後方病棟への継続支援として患者介入と家族支援
・死亡退院後の家族への必要に応じた電話対応

 特に他職種と連携しながら院内を組織横断的に活動していたことで,患者・家族へ必要なリソースを速やかに紹介するなど,チームによる家族ケア支援に貢献してきた。

 救急・集中治療領域にかかわる看護師は急性期の患者家族ケアにおいて,救命から看取りまでどのステージにおいても患者および家族ケアを実施できる存在であることから,メディエーターとして活躍できる素地があると考える。

 先ほど紹介した重症患者初期支援充実加算では,「入院した日から起算して3日を限度として所定点数に加算する」2)とあるため,メディエーターによる介入体制の整備も欠かせない。当院では2018年より急性重症患者支援体制が構築され家族支援チームを結成。家族支援専門看護師,救急看護認定看護師がメディエーターとして活動し,救急・集中治療医,ICU・救命病棟担当MSW,ICU・救命救急病棟,NICU,MFICU看護師長らと共同して家族支援を実践し,その活動をカンファレンスで評価している。カンファレンスは各職場長が参加して月に 1 回開催することを基本としているものの,家族が困難に陥ったと思われるときにメディエーターと現場看護師の双方からタイムリーなカンファレンス開催を依頼できる体制も準備している。筆者は看護部管理室所属として院内をフリーに動くことができており,救急外来や集中治療領域を毎日ラウンドしたり,病棟看護師や外来看護師と顔の見える関係性を作ったりすることで,メディエーター活動の周知と現場看護師が介入依頼をしやすい体制をとっている。

 また当院では2023年から急性重症患者支援体制で構成される家族支援チームを重症患者・家族ケアサポートチームとしてその機能を強化し,組織的に毎月20~30件ほど家族へ介入している。その他にも搬送・入院時の早期介入はもちろんであるが,退院後でもメディエーターに連絡できるように患者支援センターの紹介名刺を利用し,専門看護師の欄にメディエーターの名前と連絡先などを記した名刺を手渡している(図2)。このように現場看護師と患者家族がいつでもメディエーターに相談でき,継続した介入ができることで,家族の不安を軽減させるだけでなく,場合によってはより良いグリーフケアにつながっている。

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図2 専門看護師の名前も記した患者支援センターの紹介名刺
上段が表面で,下段が裏面である。

 看護師は治療・ケアに介入する傍ら,家族への支援も実施しなくてはならない。患者本人への治療,ケアに限られた人的資源を配分するがゆえに家族への支援が治療・ケア後になってしまうことがまれに見られる。

 救急・集中治療領域の専門性の高い看護師には急性・重症患者専門看護師,クリティカルケア認定看護師,その他学会認証看護師が存在する。専門看護師の役割には「個人,家族及び集団に対する直接的な看護実践」3),認定看護師の役割には「個人,家族及び集団に対して,高い臨床推論力と病態判断力に基づき,熟練した看護技術及び知識を用いて水準の高い看護を実践する」4)と記されているように,いずれも発揮すべき専門性の中に家族支援が含まれている。治療と並行して救急・集中治療領域に卓越した看護師がメディエーターとして家族支援などの実践活動することは,患者・家族にとって,または医療者にとっても心強い存在となるだろう。


1)入院時重症患者対応メディエーター養成講習.入院時重症患者対応メディエーター養成講習会.
2)厚労省.令和4年度診療報酬改定の概要 入院Ⅰ(急性期・高度急性期入院医療).2022.
3)日本看護協会.専門看護師.
4)日本看護協会.認定看護師.

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聖隷浜松病院看護部管理室

1985年聖隷浜松病院に入職する。脳神経外科などの病棟を経て,2001年よりICU,09年よりERにて勤務する。11年から看護部管理室所属の救急看護認定看護師として院内を組織横断的に活動する。01年救急看護認定看護師取得。22年看護師特定行為研修修了。

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