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第3374号 2020年6月8日


遠隔教育のABC

「遠隔での教育実践が求められた。さて,何から準備すべきか?」。新型コロナウイルス感染症による学修環境の変化を踏まえ,遠隔教育を行う上で押さえたいツールの選択と授業設計のエッセンスを3回にわたり紹介します。

[第1回]「遠隔教育」の区分とツールの選択

淺田 義和(自治医科大学情報センターIR部門 講師)


 新型コロナウイルスの影響による休校で,ICTを活用した遠隔教育によって授業をスタートしている教育機関も多いのではないでしょうか。第1回は,遠隔教育とはそもそも何か? という観点から,その講義形式やツールの選択方法などについて説明したいと思います。

同期型と非同期型 授業形式の違いを押さえる

 「オンライン教育」「eラーニング」……。さまざまな言葉が飛び交う遠隔教育で,まず押さえたいのが「同期型(synchronous)」と「非同期型(asynchronous)」の区分です(表1)。両者の定義が曖昧なままでは,その先の授業設計に影響を及ぼします。

表1 同期型・非同期型の特徴(クリックで拡大)

 そこで,教授法の一つ「反転授業」を例に両者の違いを見てみましょう。反転授業では学生が各自,講義動画や課題などを用いて知識を予習します。それを踏まえ対面式の場でディスカッションなどの応用課題を行う流れが一般的です。このうち,予習が「非同期型」,応用課題が「同期型」に該当します。同期型は,反転授業では対面で行われますが,遠隔教育ではオンラインで行われることになります。

 当然ながら両者にメリット・デメリットが存在します。反転授業の例のように,両者を合わせたハイブリット型として行うことも可能です。それぞれの特徴を踏まえ,今求められる形式を検討してみてください。なお,本連載では,同期型・非同期型を合わせて「遠隔教育」と呼びます。

利用可能なツールとリソースは

 遠隔教育にはさまざまなツールやリソースが利用可能です。数あるツールの中からどう選べばよいでしょうか。

 同期型では,学生と教員を「リアルタイム」につなぐツールが求められます。ZoomのようなWeb会議システムを使えば同時かつ双方向の接続が可能です。音声だけであればLINE等のグループ通話でも不可能ではありません。

 同期型に対し非同期型では,教員による教材や課題の掲載,学生による閲覧・課題提出,教員による評価などをMoodleのような学習管理システム(Learning Management System:LMS)上で運営することになります(表2)。同期型でも課題提出の際にはLMSがあると便利です。手間は少しかかりますが,非同期型はメールにリンク先のURLやファイルを添付する(極端な例では郵送)だけでも開講可能です。

表2 Web会議システムとLMSとの比較(クリックで拡大)

 学修用リソースは教科書をはじめPDFや動画,オンライン上で公開されている資料(動画であればYouTubeやVimeo,スライドであればSlideShareやSpeaker Deckなど)も,同期型・非同期型の双方で利用可能です。自身の教材を公開し共有することもできます。タブレット上のアプリやMOOCsの教材も活用検討の余地があります。

ツールと目的を混同させない

 ツールを検討する際は,その使い方にも焦点を当てる必要があります。筆者は以前,「PowerPointでうまく録画できないのでZoomを使おうと思うが,大丈夫か?」との質問を受けたことがあります。この質問の意図には,以下の3つの可能性があります。

A.自分の講義を生中継・配信したい
B.課題解決型学習(Problem-Based Learning:PBL)など,学生参加型で進めたい
C.Zoomを用いて講義を録画したい

 このうち,AとBは同期型での利用,Cは教材作成のための利用と,目的が異なります。先の質問はCの事例(=非同期型の教材を作りたい)でしたが,教育者とシステム管理者との間での情報伝達のミスを避けるためにも,①「何をしたいか」という利用するツールの話と,②「何のためにするか」という利用目的の話を区別することが不可欠です。

 LMSも同様です。「同期型を行いたいのでLMSは使えない(使いたくない)」との意見が寄せられることもありますが,これも手段と目的を混同してしまっています。確かに,LMSは非同期型での利用が基本です。しかし,チャット機能などを用いれば同期型に近い実践もできます。また,Web会議システムの機能が組み込まれていれば,同期型を行うことも可能です。

 なお,AとBの相違点や従来の講義との比較は,次回以降,学修目標や教育方法と共に触れる予定です。

事前に必ず確認したい7つのポイント

 遠隔授業開始までの概論を紹介しました。同期・非同期を問わず遠隔授業を実際に始めるには,以下7項目の検討が重要になりますので,ぜひチェックしてみてください。

1)学生(テレワーク時の教職員も含む)の学修環境・通信環境の把握
2)機関全体としての遠隔教育に対する方針の策定
3)各授業の学修目標と評価方法の再確認
4)1)~3)の検討を踏まえた各授業内容の準備(LMSへの教材・課題アップも含む)
5)実際の授業運営
6)学修成果の評価
7)遠隔教育そのものの評価(今後の改善につなぐ)

 欠かせないのが1)の学修環境の把握です。通信環境が整わない場合,同期型の授業はもちろん,非同期型でも動画の再生時などにトラブルが生じかねません。また,携帯電話の回線のみを利用している場合,月額の通信費と通信容量の限度もあるでしょう。場合によってはその補填も想定する必要があります。2020年4月6日の文科省通知(2文科高第36号)でも「学生の通信環境に十分配慮すること」が示されています。また,国立情報学研究所からも「データダイエット」として通信量への配慮が提言されています。遠隔教育の実施に当たり継続的に検討すべき課題と言えます。

 ハード面の配慮も欠かせません。例えばタブレット端末しか持っていない学生の場合,WordやExcel,PowerPointの課題提出が困難になる場合があります。一方,スマートフォンやタブレット端末などを保有しない学生は,スケッチを写真で提出するような課題が実施できない可能性があります。OSによっては動画を再生できない事態も起こり得ますので,注意が必要です。

 遠隔授業を行う前提条件・環境を考慮した上で,教育機関全体としての方針(同期型メインか,非同期型メインか,など)に沿った教育実践が求められるでしょう。

 3)以降は,従来の対面形式でも必要とされる授業設計(インストラクショナルデザイン)と関連する部分です。そこで次回は,遠隔教育における授業設計を主に解説したいと思います。

チェックポイント

☑同期・非同期の特徴を踏まえたか
☑ツールの選択と使い分けは適切か
☑学生の学修環境に配慮しているか

つづく


あさだ・よしかず氏
2005年東大工学部卒。10年東大大学院工学系研究科システム量子工学専攻博士課程修了。15年熊本大大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻修士課程修了。16年より現職。専門は教育工学。eラーニングのプラットフォームであるMoodleの運用などICT活用教育の導入支援に取り組む。日本ムードル協会会長,日本シミュレーション医療教育学会理事。

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