医学界新聞

一歩進んだ臨床判断

連載 谷崎 隆太郎

2020.05.25



一歩進んだ臨床判断

外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。

[第11回]末梢静脈カテーテル関連血流感染症

谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院 内科・総合診療科副部長)


前回よりつづく

こんな時どう考える?

 尿路感染症で入院し,現在も静注抗菌薬を投与中のNさん(82歳,女性)が発熱した。発熱以外のバイタルサインは正常で,会話も普通にできる。診察に来た医師は「熱源がよくわからないなあ。とりあえず,血液培養2セットと尿培養,痰培養お願いします」と言って去って行った。よく見ると,患者さんの末梢静脈カテーテル刺入部が赤い……?

 固定テープには留置針が挿入された日付が記載されていない……。さて,どのように考え,どう行動すべきだろうか。

 看護師の皆さんにとって,末梢静脈カテーテル挿入は,最も身近な手技の一つですよね。あまりに身近過ぎて,初対面の人と会うとその人の顔ではなく,前腕の血管についつい目が行ってしまう,なんてこともあるそうですが,あれは本当なのでしょうか……?

 さて,そんな話はさておき,基本手技である末梢静脈路確保にもさまざまな合併症がついて回ります。穿刺時の動脈誤穿刺や神経損傷はもとより,静脈路を無事確保した後でも,点滴液の血管外漏出やカテーテルの閉塞・脱落,静脈炎など,起こり得るこれらの合併症を想定し,予防に努めることが重要なのは言うまでもありません。ちなみに静脈炎は,局所の炎症だけで収まるものもあれば,血栓を形成したり,まれに全身の菌血症を合併したりするものもあるので要注意です。

合併症を未然に防ぐアセスメントのポイントは

 カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)は中心静脈カテーテル関連で起こるものが有名ですが,末梢静脈カテーテルでもCRBSIを起こすことがあります。中心静脈カテーテルによるものよりも頻度は低いですが,起こってしまえば血液培養検査や点滴での抗菌薬治療が必要になるのは同様です。一般に感染症診療では,肺炎なら発熱+呼吸器症状,蜂窩織炎なら発熱+皮膚の発赤といったように,発熱「+α」の所見を探しにいくのが定石です。ところが,CRBSIでは発熱以外の臨床所見が乏しいことが特徴の一つなので,時に「熱源不明の発熱」になりがちです。

 中心静脈のCRBSIでは刺入部の発赤をほとんど認めないので1),刺入部が赤くないからといってCRBSIを否定することはできませんが,末梢静脈のCRBSIでは局所の静脈炎症状を認めることが多いので,感染しているかどうかの手掛かりになります。

 とはいえ,やはりCRBSIの多くは発熱以外の症状に乏しいため,アセスメントのポイントは,「カテーテルが挿入されている患者」の発熱ではCRBSIも考える,ということになります。主な診断方法は血液培養ですので,疑ったら血液培養2セットが基本です(第2回・3335号)。もちろんカテーテル抜去または入れ替えも必要になります。CRBSIは基本的には医原性ですし,原因微生物によっては1か月程度の長期の治療期間を要するものもありますので,できれば未然に防ぎたい合併症の一つと言えます。

■備えておきたい思考回路
末梢静脈カテーテル挿入中の患者さんが発熱し,発熱以外の臨床症状がなければCRBSIの可能性を考える!

末梢静脈カテーテルを交換する適切な時期はいつか

 さて,そんな末梢CRBSIを予防するために多くの医療機関でさまざまな働き掛けがなされています。中でも,「末梢静脈カテーテルが必要かどうか毎日検討する」「ポスターなどで繰り返し啓発する」「刺入部をチェックする」「72時間ごとに入れ替える」といった方略を取り入れている施設が多いようです2)

 カテーテルは長期に留置すればするほど,感染をはじめとした合併症のリスクが高まります。よって,感染が成立する前に早めに入れ替えることでこれらの合併症リスクを下げることが期待されます。でも,頻回に末梢静脈カテーテルを入れ替えることは手間やコストが掛かる上に患者さんの苦痛も増やしてしまうので,できる限り最小限にしたいですよね。特に,苦労して入れた末梢静脈カテーテルならなおさらです。かと言って,長期間留置することで局所の静脈炎や全身性の血流感染症を起こしてしまえば元も子もありません。では,どのような対策が有効か,先行研究から見ていきましょう。

 過去の研究では,留置期間と静脈炎の発生率は48時間で1.9%,72時間で4.1%,96時間で3.9%でした3)。その後いくつかの観察研究が加わり,米国疾病予防管理センターのガイドラインでは72~96時間より頻繁に入れ替える必要はない,と記載されています4)

 次いで,2012年に発表された,「約3日ごとに定期的にカテーテルを交換する群」と「臨床的に入れ替える必要が生じたら交換する群」とを比較した研究では,両群で静脈炎の発生率に差は認められませんでした5)。この結果をもって,「なーんだ,じゃあルーチンの交換じゃなくて,何か起きてから交換すればいいのね」と一安心してはいけません。これは前提として,毎日入念にカテーテル刺入部の所見や使用物品の破損などがないかチェックできること,異常を発見したら速やかに抜去する,適切な対応が可能であることなど,合併症が出ていないか常に目を光らせておける状況下での話なのです。多忙な日々を過ごしている日本の看護師の皆さんの中で,末梢静脈カテーテルのみにそこまで注力できる人が,果たしてどれくらい存在するのでしょうか……?

 ちなみに,上記の研究でも「臨床的に入れ替える必要が生じてから交換する群」の留置期間の中央値は84時間(四分位範囲64~118時間)でした(96時間に達していない!)。

 以上より,きっちり観察してもルーチンに交換しても,留置期間にあまり差が出ないのであれば,一律で96時間を上限として定期的に交換しようという院内ルールを作っている医療機関も多いのではないでしょうか。一方で,さまざまな事情で96時間を超えて留置せざるを得ない患者さんもいるかもしれません。それならそれで,「長いこと粘ってきたけれど,いよいよ今日にもCRBSIを起こすかもしれない」と思いながら慎重に刺入部の観察を続けましょう(なお,小児では,定期的に交換することが推奨されておらず,留置期間のみを根拠とした交換時期も定められていません)。

【末梢静脈カテーテル確認ポイント】

●カテーテルの刺入部に異常はないか。
●使用物品に破損はないか。
●異常を発見したら速やかに抜去する。
●患者が発熱した際にも,刺入部の異常がないか必ずチェックする。

■備えておきたい思考回路
留置期間に関係なく,末梢静脈カテーテルが挿入されている患者さんに異常が出ていないか,毎日慎重に観察すること!

 さて,冒頭の患者Nさんについて,末梢静脈カテーテル刺入部の固定テープに日付の記載がなく,いつ留置されたかは不明であったが,明らかに静脈炎の所見を認めたので,医師に報告して直ちに抜去しました。幸い,血液培養は陰性で,末梢静脈カテーテル抜去後はNさんも速やかに解熱しました。

今日のまとめメモ

 末梢静脈カテーテルは日常的に行われる医療処置ですが,交換すべき時に交換しなければ上記のような合併症で患者さんを苦しめることになりますし,逆に交換しなくて良い時に交換すれば,不要なコストと,患者さんの余分な苦痛を増やすことにもつながります。

 この辺りのバランスが大変だと感じるかもしれませんが,そんなに難しく考える必要はなく,要は,日々患者さんとカテーテル刺入部を観察し異常があればすぐに対応する,という基本的なケアの姿勢を保ち続ければ良いのです。末梢静脈カテーテルに限らず,医師も看護師も,何らかのデバイスが患者さんに挿入された際には,「なぜこれが今日抜去できないのか?」について毎日検討することも大切です。

つづく

参考文献
1)Crit Care Med. 2002;30:2632-5.[PMID:12483050]
2)Infect Dis Health. 2019;24:152-68.[PMID:31005606]
3)Am J Epidemiol. 1983;118:839-51.[PMID:6650485]
4)Clin Infect Dis. 2011;52:e162-93.[PMID:21460264]
5)Lancet. 2012;380:1066-74.[PMID:22998716]

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