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第3358号 2020年2月10日


流行期のインフルエンザ診断

インフルエンザの季節です。今シーズンもまた,インフルエンザの迅速検査が大量に行われるのでしょう。いくら何でもやり過ぎですが,患者は希望するし,保育園や学校・職場からも依頼されるし,医療機関はもうかるし,という中でそれ以外の要因は無視されがちです。本来は,臨床疫学的なアプローチで判断することが,検査を利用する医師の大きな役割です。その役割を十分果たせるように,インフルエンザの迅速検査の使い方について解説します(全4回連載)。

[第4回(最終回)]事後確率データを生かして一歩進んだ診療へ

名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)


前回よりつづく

 インフルエンザ流行時に重要なことは,確率が低いながらも無視できない「インフルエンザ以外の重要な疾患」の可能性を常に考えておくことです。流行期の風邪との鑑別においてメリットが少ないインフルエンザの迅速診断検査も,この部分では大きな威力を発揮します。結果が陰性なら,その他の重要な疾患でないかどうか確かめるための検査をすべきという判断ができるからです。

 それでは,具体例をみながら,迅速診断検査の使い方をさらに深めていきたいと思います。

インフルエンザ以外に鑑別すべき疾患,溶連菌を鑑別する

 ここでもまた,前回(第3354号)同様,18歳の健康な男性を例に考えてみましょう。発熱と咳以外に咽頭痛がある患者です。

 咳があるとはいえ,咽頭痛と発熱ですから,溶連菌感染は考慮してもいいでしょう。溶連菌を疑うとなると,インフルエンザ陰性の場合には溶連菌の迅速診断検査を行うかどうか検討する必要があるでしょう。

 ここでの溶連菌感染の事前確率を,インフルエンザでない可能性35%のうちの4割くらいと見積もると,14%となります。4割は当てずっぽうです。センタースコアが,扁桃炎なし,前頸部リンパ節腫脹なし,咳あり,38℃以上の発熱ありで計1点なら,事前確率12%という報告1)がありますから,まずまずの推測でしょう。

 溶連菌の迅速診断検査の感度を86%,特異度を97%とすると2),陽性尤度比と陰性尤度比がそれぞれ29,0.14と計算されます。

 事前確率14%はオッズにすると0.16ですから,陽性の時の事後オッズは4.64,事後確率は82%になります。陰性の時の事後確率は同様に2%と計算されます。陽性の場合には82%が溶連菌ですから,ペニシリン系抗菌薬を投与するという判断でよいと多くの人が考えるのではないでしょうか。陰性ならほとんど溶連菌感染を除外できます。

 ここでは結果が陰性にしろ,陽性にしろ,検査が有用な状況です。インフルエンザ流行期の溶連菌感染の迅速診断検査は意外に役に立つことがわかります。

 しかし振り返って考えてみると,溶連菌感染症の確率82%というのは,流行期の咳と熱でインフルエンザ80%という数字とほぼ同じです。インフルエンザについての確率80%は診断確定でなく,溶連菌では82%で診断確定というのは整合性が取れていません。つまり最初の時点でインフルエンザについても溶連菌についても迅速診断検査をして,というのは論理的には矛盾がある行為です。そうなると,今度はさらに溶連菌を確定させるための次の検査ということになりますが,それもまた違和感のある行為です。

 この矛盾を解くには,初診の時点で迅速診断検査は行わずインフルエンザと診断し,外来フォローする中で,鼻の所見や咳よりも咽頭痛が前面に出てきて解熱しないような場合に再診してもらって溶連菌の検査をする,というほうが現実的な対応でしょう。インフルエンザ流行中において検査をしなくても,初診の時点で溶連菌の可能性について説明し,その後状況に応じて溶連菌の検査を行うのは重要なことだと思われます。

高齢者ではインフルエンザ迅速診断検査は有用

 これまで基礎にしてきた流行期の熱と咳でインフルエンザの事前確率が80%というデータは,あくまで平均年齢35歳の健康な成人が大部分という対象での結果です。当然これは,高齢者,喘息や心肺疾患を持つ患者などでは大きく異なります。

 またインフルエンザ以外の疾患の中身も大きく異なっています。風邪以外の多くの種類の重要な疾患を考慮する必要があります。そうした状況で,インフルエンザ迅速診断検査をどう使うかは,健康な成人を対象にした場合とは異なるのが当然です。

 高齢者になると状況は複雑ですが,検査結果の解釈やそれにつながる次の検査の決断という意味ではかえって単純です。

 発熱の高齢者では風邪の可能性はむしろ低く,風邪以外の,肺炎や胆石胆嚢炎,尿路感染,軟部組織の感染など,治療が必要となる重要な疾患の可能性を常に考慮する必要があります。認知症があり病歴が十分取れない患者では,病歴や診察で十分な情報収集ができない場合も多く,検査に頼る状況も珍しくありません。

 風邪とインフルエンザとの鑑別ではなく,重症感染症とインフルエンザの鑑別という状況では,インフルエンザの迅速診断検査は有用です。陰性ならそれらの疾患を診断するための検査が必要と判断できるからです。

 流行期には臨床診断で大丈夫というのは,高齢者の場合,必ずしも正しくない場合は多いのです。陽性ならインフルエンザとして治療,さらにはインフルエンザに他の重症疾患が重なっている可能性も考えながらフォローするのが現実的です。また陰性の場合には,胸部X線写真,腹部エコー,採血などの次の検査を計画していくことになります。

臨床の現場に即して流行期のインフルエンザ診断

 これまでの話を整理します。

 合併症のない健常成人に対して,流行期にインフルエンザ迅速診断検査を施行することは,インフルエンザと風邪以外の疾患を疑わない状況では,ほとんど意味がないばかりか,陰性の時にむしろ対応に困ることになります。

 溶連菌や肺炎を疑うような場合には,「インフルエンザ迅速診断検査で陰性の時に次の検査として,溶連菌の迅速診断検査や胸部X線写真撮影をする」という決断につながるなら,検査をしてもいいと思います。逆に言えば,「インフルエンザ迅速診断検査で陰性の時に次の検査を検討しない」ような場合には,検査をすべきではないということです。

 以上から,インフルエンザ流行期に健康成人に対して検査をする割合は極めて低い,ほとんどの場合は検査をしないのが普通のプラクティスでしょう。逆にインフルエンザ以外の重要疾患をきちんと除外したい高齢者では,流行期といってもインフルエンザの迅速診断検査は必須でしょう。ただその場合には,インフルエンザ以外の疾患を診断するための検査が必要という状況に他なりません。

臨床で簡便に事後確率を計算する方法

 現実の臨床で,事前確率と尤度比から事後確率を求めるのは,オッズに変換して正比例の式で計算してもかなり面倒な作業です。そこで,オッズへの変換を介さず,確率から確率を求めるノモグラムの使用は,こうした面倒な作業を省略することができます()。白衣のポケットに入れておけばいつでも必要な時に取り出して使うことができます。

 事前確率と尤度比から事後確率を計算するノモグラム

 一番左のメモリが事前確率,真ん中が尤度比,その2点を通る直線を引いて一番右のメモリを読めば事後確率です。図の矢印で示す通り,事前確率80%の状況で陰性尤度比0.4のインフルエンザ迅速診断検査が陰性でも,インフルエンザの事後確率は60%を超えることがすぐわかります。

 このノモグラムはWebサイト上で公開されておりダウンロードして使うことができます。

今回のまとめ

●健康な成人に対しては,流行期に迅速診断検査を行うケースは限られる(検査陰性の時には別の検査が必要,と考える時のみ検査を行う)。
●高齢者に対しては積極的に迅速診断検査を行い,インフルエンザ以外の重篤な疾患を常に考慮する。
●事後確率の計算にノモグラムが有用。

(つづく)

参考文献
1)Arch Intern Med. 2012 [PMID:22566485]
2)PLoS One. 2014 [PMID:25369170]

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