医学界新聞

連載

2019.11.25



未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 5]筑波会議

新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)


前回よりつづく

 2019年10月2~4日,世界の産官学の優秀な若手人材を主役とする討論の場として設けられた「筑波会議」が開催されました。私は日本学術会議若手アカデミーとGlobal Young Academy(GYA)を代表して企画委員に入っていたため,プログラムの内容をいくつか担当しました。

 今回のテーマはSociety 5.0とSDGsであったため,開会式ではGYAのKoen Vermeir共同代表が国連の気候変動サミットでのGreta Thunbergさんのスピーチを例に挙げ,この会議で持続可能性と科学の未来を話し合うことへの期待を語りました。

 その後,落合陽一先生が会議への期待やコメントを会場の参加者から集めるセッションがあり,私が最初に手を挙げました。これまで若手代表としてこの会議を準備して迎えた初日の朝,満席となった会場を見て期待が高まったこと,今回の議論も楽しみだけれど,この先もずっとつながっていけるようなネットワークを作っていきたいことを述べました。落合先生に「パーフェクトスピーチ」と言ってもらって,この会議が若手を主役にしたものであることを象徴付けられたと思います。

 2日目のプレナリーセッションでは,モデレーターとして,ノーベル賞受賞の先生方4人(江崎玲於奈先生,小林誠先生,山中伸弥先生,John Ernest Walker先生)を迎え,若手科学者4人と横に並んでもらい,若手科学者が本当に成功するにはどうしたら良いのか,というテーマで議論しました。ノーベル賞につながった研究環境として,そもそも新しい発見につながる題材が多く残っていた時代であったこと,自由な発想で使用できる研究費の潤沢さ,意見を言いやすい環境など,現在の日本において若手が得られていないものも多く,ノーベル賞級の発見をするには研究環境から変えていかねばならないと改めて感じました。また,社会に即時的に役立つ応用研究が期待される傾向に流されず,興味関心から幅広い可能性にチャレンジする基礎研究と,若いうちにリーダーシップを経験する重要性が語られました。

 その後若手アカデミーとGYAのセッションとして,SDGsの17ゴールの中で,立場が違うとめざす方向が異なるケースについて,どのように科学的助言をしていくか,という議論を国も専門分野も違う若手科学者7人で話し合いました。現在サイエンス20会合での議論から海洋プラスチックごみ問題がメディアでも多く取り上げられています。プラスチック自体は人類にこれまで大きな貢献をしてきたもので,急に悪者扱いするのではなく,ごみの捨て方やシステムの構築を考えるべきで,物質材料科学の発展を阻害しないような議論の方向性の大切さを話し合いました。

 最終日にはG7各国の若手科学者が集まり,今年G7科学アカデミー会合(DAY3・3339号参照)で扱われたトピックのひとつであるシチズンサイエンスについて話し合い,会場の参加者とも小グループで議論をするセッションを行いました。すでにインターネットやICTの普及拡大で市民を巻き込んだ研究や市民が主体的に行う研究が進んでいる中で,良い悪いの議論では既になく,科学者が研究の質を保ち,科学の信頼を失わないようなルール作りをしていく必要があることが語られました。

 最後には会議での議論を参考に作成した筑波宣言を,五十嵐立青・つくば市長と共に調印し,閉会しました。若手科学者同士,またシニアの科学者や他のステークホルダーとさまざまな議論ができ,学際的かつ年代や立場を超えた包摂的な議論の重要性,および若手が主体的に社会を動かしていく必要性を感じた3日間でした。

ノーベル賞受賞者4人とのプレナリーセッションにて(写真右から2人目が筆者)

つづく

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