医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3336号 2019年09月02日



第3336号 2019年9月2日


臨床研究の実践知

臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイトFacebookを参照してください。

[第6回]臨床研究のアウトカムにPROを利用する

前田 一石(JORTC外来研究員/ガラシア病院ホスピス)


前回よりつづく

 前回(第5回・3333号)に続き,がんの神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬の研究1)を実例として,臨床研究におけるアウトカムの設定方法について説明したいと思います。

 本研究は,がんによる神経障害性疼痛を有する患者さんを,デュロキセチン投与群,またはプラセボ群に割り付けて,鎮痛効果を比較したランダム化比較試験です。主要アウトカム指標は,Brief Pain Inventory (BPI)2)の中から,item 5(評価前24時間の平均の痛み average pain)が用いられ,「 0:痛みなし~10:想像できる最も激しい痛み」の11段階の痛みのうち「4」以上を示す患者が対象とされました。

 治療効果は治療開始後10日目に評価されました()。群間差は-0.84(90%信頼区間:-1.71 to 0.02)とデュロキセチン投与群で鎮痛効果が大きかったのですが,主解析である2標本t検定(片側検定)を実施した結果,P値は0.053とわずかに有意水準に届かず,ネガティブ・スタディとなりました。なお,臨床的に意味のある鎮痛効果(痛みが30%以上減少)が得られた人の割合は,デュロキセチン投与群44%に対しプラセボ群は18%と有意な差が検出されました(P=0.02)。

 痛みのスコアの変化

評価尺度の選択には妥当性と信頼性が重要に

 さて,臨床研究のアウトカムはどのように定めれば良いのでしょうか。オンコロジーの分野では全生存期間(overall survival;OS)や無増悪生存期間(progression free survival;PFS)などの客観的かつ確立したアウトカムが多く用いられます。一方,緩和ケアの分野では治療の対象としているのが痛みなどの症状やQOLであり,時間の経過とともに変化するアウトカムを,いつ,どのように評価するかは難しい問題です。

 緩和ケアが対象とする症状やQOLは代表的なPRO(Patient-reported outcomes;患者報告アウトカム)です。PROとは,患者から直接報告される患者自身の健康状態に関する情報で,臨床医や他の者による解釈を介在しないものとされます。PROの利用については米食品医薬品局(FDA)がガイダンスを出していますし3),緩和ケア領域でもEUが中心となってPRISMAというワーキンググループが作られ,ガイダンスを発表しています4)。これらの内容をもとに,PROを用いる際の注意事項について見ていきましょう。

 臨床研究でPROを用いる場合,一般的な健康状態を評価するSF-36やEQ-5Dなどの包括的尺度が用いられることは少なく,疾患・症状特異的な尺度が用いられることが多くあります。

 例えば,EORTC QLQ C15-PALは欧州がん研究機関(EORTC)のQOL尺度を緩和ケア患者向けにアレンジしたもの,エドモントン症状評価システム(ESAS)は症状に特化した評価尺度で,それぞれ複数の症状・ドメインが含まれています。

 本研究で用いられたBPIは痛みに着目した15項目からなる尺度で,その項目の一つとして今回主要アウトカムとして用いられたitem 5のaverage painが含まれるという構成になっています。

 評価尺度を選択する際に最も重要なのは,妥当性(validity)と信頼性(reliability)の担保された尺度を用いることです。に示した通り,妥当性と信頼性は多方面から評価・担保される必要があります。

 評価尺度の選択の際に検討すべき妥当性と信頼性(文献3,4より作成)

 加えて,尺度が臨床的に重要な変化をとらえているか(responsiveness to change),測定結果の臨床への適応可能性(interpretability)が重要であり,質問数が多過ぎないこと,妥当性が確認された日本語版が利用できることも重要となります。

 BPIはいずれも満たしており,選択する評価尺度として適切と言えます。

実例の振り返りで見える研究の意図

 今回の実例では治療開始後10日目に疼痛効果が評価され,評価前24時間のaverage painが主要アウトカムとして用いられました。本研究では鎮痛補助薬の鎮痛効果が関心の対象ですので,痛みをアウトカムとするのは当然ですが,15項目あるBPIの中でitem 5のaverage painを選んだのにはどのような意図があったのでしょうか? BPIは痛みの強さ(intensity)に加え,日常生活への影響(interference)を評価することのできる尺度です。Intensityの評価のうち,24時間の最悪の痛み(worst pain)が痛みによる生活の支障(pain interference)と最も相関するという報告もありますが5),慢性痛の領域では鎮痛効果の評価の面で,平均値と最悪値のどちらか一方が評価として優れているわけではないとの報告もあります6)。これらを考えるとBPIのaverage painを主要アウトカムとしたことは概ね妥当と言えそうです。

 また鎮痛補助薬の効果のように,効果の出る人と出ない人がはっきり分かれるような介入の場合に,集団の平均値として痛みの変化を見るのが良いのか,臨床的に重要な変化(minimal clinically important difference;MCID)を生じた人の割合を見るのが良いのかについても検討しておくことが重要になります。

 今回の実例では,集団の平均値ではデュロキセチン投与群の有効性は示されませんでしたが,有効であった人の割合では群間に有意な差を認めました。本研究の結果を解釈する際に知っておきたい点だと思われます。

 治療開始後どのくらいの期間をおいて効果を評価するかは,急性痛か慢性痛か,あるいは治療方法などによって適切な評価のタイミングが異なるため,研究ごとに決定することが必要です。緩和ケアでは患者さんの状態が悪化していくことが多いため,治療効果を検出できる最短の期間を設定することが,状態悪化による脱落や治療効果の減弱を予防するために重要とされています7)。今回は治療開始後10日目に評価することにしましたが,一般的な鎮痛補助薬の研究に比べると短い観察期間であったのはこのような理由によるものです。

今回のポイント

・緩和ケアのアウトカムである症状やQOLは,代表的なPRO(患者報告アウトカム)と言える。
・評価尺度を選択する際は妥当性(validity),信頼性(reliability)の担保された尺度を用いることが重要である。

つづく

謝辞:本研究の研究責任者である近畿大心療内科/緩和ケアセンターの松岡弘道氏に資料提供と助言をいただきました。感謝の意を表します。

参考文献
1)Matsuoka H, et al. J Pain Symptom Manage. 2019[PMID:31254640]
2)Uki J, et al. J Pain Symptom Manage. 1998[PMID:9879161]
3)FDA. Patient-Reported Outcome Measures;Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims;2009.
4)Bausewein C, et al. Outcome Measurement in Palliative Care――The Essentials. PRISMA;2011.
5)Atkinson TM, et al. Pain Med. 2010[PMID:20030743]
6)Smith SM, et al. J Pain. 2018[PMID:29597081]
7)Hui D, al. Cancer. 2013[PMID:23132290]

連載一覧