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第3222号 2017年5月8日


Medical Library 書評・新刊案内


《眼科臨床エキスパート》
眼形成手術
眼瞼から涙器まで

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
高比良 雅之,後藤 浩 編

《評 者》三村 治(兵庫医大特任教授・神経眼科治療学)

眼形成をサブスペシャリティにする上で必読の書

 手術関係の学会に行くと今や「眼科医総白内障surgeon時代」または「眼科医総硝子体surgeon時代」が到来したかの印象がある。確かに手術器械や手術手技が劇的に進化し,これまでよりはるかに低侵襲で,短時間で確実に手術が終了する時代になっている。しかし,内眼手術はあくまで眼科手術の一部であり,いくら白内障手術や硝子体手術が短時間で終了できてもそれが全てではない。これからの眼科専門医は白内障手術や硝子体手術以外の分野で,もう一つのサブスペシャリティを持つ必要がある。その中で眼科医にとって大きな割合を占めるものは緑内障や眼表面疾患,メディカルレチナの分野であるが,患者側からのニーズの割にサブスペシャリティとして選ばれていないのが眼形成の分野である。高齢者になると加齢性眼瞼下垂や上眼瞼皮膚弛緩症は必発と言ってよいほど高率にみられる。また,涙器の異常や眼窩の異常は年齢を問わず出現してくる。しかもこれらの患者は眼科専門医なら当然診療ができるはずとの認識で,まず眼科医を受診する。これらの患者に対応するためにも,眼形成手術の対象,基本的な手術手技,専門医へ送る基準などを知っておくことは極めて重要である。

 本書は眼形成手術のそれぞれの分野のエキスパートが,豊富な臨床経験に基づいてさまざまな手術手技の解説を行うものであるが,まず総説と総論とで約140ページを費やし「解剖」や「初診時にどう診てどう考えるか」「診断・治療に必要な検査」「形成手術概説」を「眼瞼」「眼窩」「涙道」それぞれについて解説している。もちろん対象患者が受診した際に,本書の「各論」を疾患ごとに読むのも一つの読み方であるが,ぜひ時間があるときには「総論」をお読みいただきたい。これを読むだけでも十分本書を購入する価値がある。

 このシリーズの中でも本書の最大の特徴は「各論」の項目の中で,特に患者数が多く,手術手技が多く施行されている眼瞼疾患や眼窩疾患では,複数の執筆者が自身で熟達している手技ごとに解説していることがある。特に一般眼科医が最も身近に感じる退行性眼瞼下垂ではうれしいことに3人のエキスパートがそれぞれ「挙筋群短縮術」「Müller Tuck法」「挙筋短縮術」を執筆しておられる。多くの眼科医は複数の手技があっても実際には得意な1つの手技しか使っていないことも多いはずであり,本書はその欠点をカバーしてくれる。さらに各項の最後にはこのシリーズの定番となった「一般眼科医へのアドバイス」で各執筆者からの診療の注意やコツが記載されている。

 繰り返しになるが,加齢性眼瞼下垂などは眼科医であれば必ず毎日のように診察しているはずである。適切な検査を行い,患者のQOLを改善するためにも眼形成の知識・手技を修得する必要がある。本書は眼形成をサブスペシャリティにする上でまさに必読の書である。

B5・頁480 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02811-0


ネルソン小児感染症治療ガイド
第2版

齋藤 昭彦 監訳
新潟大学小児科学教室 翻訳

《評 者》大曲 貴夫(国立国際医療研究センター病院副院長・総合感染症科長・国際感染症センター長・国際診療部長)

経験豊かな指導医による回診時の小講義を思い出す

 評者自身は成人の感染症を専門としているが,修練の過程で,そして感染症医となってからも3~4歳以上の小児の感染症診療にはコンサルテーションを通じて時折かかわってきた。しかし評者は小児感染症の全体像を学んでいるわけではなく,本物の小児感染症医の先生方とは知識も経験も比較しようもない。本来この書籍はポケットに入れて日常診療の中で日々役立てるものだが,このような評者の背景もあるため,評者自身は本書を「小児感染症を知るための手引き」として読ませていただいた。

 本書全体に一貫しているのは,現在わかっているエビデンスと,エビデンスのない領域を徹底して意識し,それを指針にきちんと反映している点である。特に参考となるエビデンスのない事項に関しては,それを明確にコメントとして示している。例えばマイコプラズマによる下気道感染の項目では「小児における前向きのよくコントロールされたマイコプラズマ肺炎の治療のデータには限りがある」との記載がある(p.83)。マイコプラズマ肺炎の治療薬を丸暗記することは誰でもできるが,このような記載に,編集された先生方の臨床医としての良心的な姿勢を感じる。また多くの感染症の治療期間は慣習的に定まってきたものでエビデンスに欠けるが,これもきちんと書いてある。治療期間の設定についてのマニュアルの書きぶりがあまりに断定的であれば,教条的になってしまう。読者がその記載に盲目的に従ってしまえば診療に悪影響を及ぼす。「定まっていない」ことが明確に書かれていれば,最終的にはやはり全体像を踏まえての医師の判断が必要であることを意識できる。

 また本書では,疾患の自然経過についても各所に示してある。診断と経過観察を行う上で自然経過を知っておくことは大前提と言えるが,それを学べるテキストやマニュアルは少ない。

 また患者の管理上,さまざまな判断が必要となる場合は,いわゆるコツが必要となる場合もある。それがコメントとして随所に記載されているのも本マニュアルの特徴である。読んでいると,経験豊かな指導医と共に回診を行っていたときの,歩きながらの小講義を思い出す。本書はマニュアルだが,その記載内容は何度も読んでかみしめて,そして考えるべきものであると感じた。中にはそれを契機に自ら研究して答えを求めにいく人もいるのではなかろうか。

 本書を監訳された齋藤昭彦先生は,評者の研修先である聖路加国際病院での先輩であり,評者が感染症医をめざし始めた頃からずっとお世話になっている。初版の監訳の序からは先生の小児感染症医としての修練と,そこで培われた矜持が伝わり,一感染症医として評者も背筋が伸びる思いである。

B6変型・頁312 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02824-0


乳がん超音波検診
精査の要・不要,コツを伝授します

角田 博子,尾羽根 範員 著

《評 者》遠藤 登喜子(日本乳がん検診精度管理中央機構理事長/東名古屋病院乳腺科・放射線科)

必要な知識を適切にテーマ化した一冊

 現在,増加し続けている日本女性の乳がん罹患と死亡に対して,世界的に死亡率減少効果が証明されているマンモグラフィによる乳がん検診が行われているところではあるが,日本女性の乳がん罹患が40代後半~60代前半までが高率を示していること,40代~50代前半においては,“dense breast”率が高いことから,マンモグラフィによるがん検診の精度を補填する方法が模索されている。乳房超音波検査のマンモグラフィ検査との併用はその一つである。実際には従来から超音波併用検診が実施されてきたが,期待された救命効果を証明できなかったのは,その検査法や判定基準が周知徹底されてこなかった点にあると考えられる。

 現在,日本乳腺甲状腺超音波医学会のまとめたガイドライン,判定基準を日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が受け継ぎ,講習会による普及活動が進められているが,マンモグラフィに関する知識のように徹底するには,文献・資料・書籍や画像など,非常に多くの場面において間違いのない情報提供が必要である。

 本書は,こうした検診従事者が必要性を感じている知識を非常に適切にテーマ化したものと感じる。従来の検診においては,精査の必要性についてその判断を検者個人の考えや技量に任されているところがあり,ばらつきが大きくみられた。また,「よくわからないものは,とりあえず拾っておく」という偽陽性によるharmが幅を利かせてきたことによって超音波検査の精度低下の原因にもなってきた。本書は,そのタイトルからしても,その点をずばりと明瞭にすることが検診の基本であることを表している。

 実際に,本の構成として,モダリティの知識に入る前に,検診についての基本知識がコンパクトに,しかも的確に記載されており,難しいことを難しくなく解説している。検診がこうあるべきという基本は,検診従事者一人ひとりにかかわっているのにもかかわらず,とかく技術だけに目を奪われることが多い中で,的確な理解に役立つと思われる。その意味で,長すぎない基本姿勢の解説は,時々読み返してみるべき章でもある。

 次に実際の画像について,腫瘤と非腫瘤,それぞれに実際の従事者が持つ疑問を含め的確に項目とし,項目別に数症例が所見のバリエーションにより展開されており,それぞれの病態の違いもわかるようになっている。画像を学ぶには画像を見ることが基本であり,なるべく多くの病理で裏付けられた症例をみることが重要である。このような基本姿勢で集められた症例集は,初心者のみならず経験者が知識の裏付けをするのに十分有用性のあるものとなっている。それは,本書の著者が非常に豊富な日常経験を持っていることに裏付けられたものであることによる。

 さらに,Column欄,実際の検査に基づいた豆知識がテンポよく,的確な表現で解説されている。こうした豆知識についても,間違いなく核心部分のみが記載されているのは,実務に携わる検者には役立つものと思われた。

B5・頁176 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02814-1


精神疾患・メンタルヘルスガイドブック
DSM-5から生活指針まで

American Psychiatric Association 原著
滝沢 龍 訳

《評 者》野村 俊明(日医大教授・心理学)

アメリカ精神医学会の到達点 平易かつ体系的な記載

 本書はアメリカ精神医学会が発刊した精神疾患(mental disorders)の当事者とその家族のための診断や治療の解説書の翻訳である。精神医学に関連する書籍はちまたにあふれているが,本書はその中でも特色ある一冊であり高い価値を持っている。

 本書は,原書の副題にYour Guide to DSM-5とあることからもわかるように,DSM-5に準拠して構成されている。簡単な序章の後に,DSM-5と同様に神経発達症群/神経発達障害群から始まり,以下,統合失調症スペクトラム障害,双極性障害,抑うつ障害群……という順番で19の項目が扱われている。統合失調症や双極性障害などの精神科臨床の中核をなす疾患だけでなく,排泄症群,性機能不全群,性別違和などの領域にも相応のページを割いているのも特徴の一つであるが,これはおそらく当事者やその家族が利用することを意識しているからであろう。

 各章では,当該疾患の概説に続いて診断基準がわかりやすく述べられ,症例,リスク因子,治療法が紹介されている。適宜挿入されている「心身の健康を保つためのアドバイス」や「家族へのアドバイス」も役に立つ。

 コラム「BOX」で扱われている話題(例えば「うつ病と悲嘆の違い」など)も興味深い。各章の末尾には「キーポイント」として簡潔な要約が記載されている。どの章も明快でわかりやすく,しかもしっかりした内容を持っている。

 最終章は「治療の要点」と題されており,メンタルヘルスケアに携わる職種の紹介,診断と治療の概略の解説,主な精神療法や精神科で使用される薬物の説明などが記述されている。

 本書はアメリカ精神医学会が初めて当事者や家族のために作成したガイドブックだということである。評者は一読して,こうした書物を刊行できるアメリカ精神医学会の底力とでもいうべきものを痛感させられた思いであった。今日のアメリカ精神医学の到達点が,平易に,しかし体系的に記載されている。これなら当事者や家族にもわかりやすいだろうと思う。こうした書籍は,残念ながらまだわが国にはないのではあるまいか。

 訳文はよく練られており,日本語としてわかりやすい良訳である。翻訳にありがちな生硬な表現がないのは,本書が当事者向けであって英文自体が平易であるからだけでなく,訳者の才能と努力によるものであろう。訳者は助教という肩書きからすると若い世代に属する精神科医なのだろうが,今後の活躍が大いに期待される方だと思われる。原著の各章にある印象的な写真が掲載されていないのは少し残念だが,本文の部分は随所に編集上の工夫が感じられ読みやすく仕上がっている。訳者と編集者の意気込みが感じられる一冊である。

 本書は,既に述べたようにDSM-5の解説書としても十分な水準を保っている。当事者とその家族だけでなく,メンタルヘルスケアにかかわる専門家,とりわけ研修医,他科の医師,心理職などに強く薦めたい一冊である。

A5・頁360 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02823-3

関連書
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