乳がん超音波検診
精査の要・不要,コツを伝授します

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乳がん検診における超音波検査において、精査の要否の選別、そして見極めが検者によって様々で、現状では拾い過ぎの傾向が見られている。本書は、きちんと要精査所見を拾い上げる「眼」を養うために、要精検の判定が難しいところを特にピックアップして考え方・読み方をまとめ、さらに実際の症例を提示して、判別のコツ・ポイントを解説している。
角田 博子 / 尾羽根 範員
発行 2016年10月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-02814-1
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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序文

 わが国の対策型乳がん検診に,死亡率減少効果の証明されているマンモグラフィが取り入れられてから10年以上が経過した。マンモグラフィ検診が開始される前,多くの研究者による討論があったが,日本放射線科専門医会・医会から,実際に北欧のマンモグラフィ検診を学んでくるようにと研修を受ける機会をいただき,フィンランドのトゥルクにて研修したのが20年以上前になる。あのとき一般の女性がマンモグラフィという意味を知っているのに驚いた記憶があるが,現在,わが国でもマンモグラフィという用語は一般的となり,誰もが知っている用語になった。マンモグラフィの限界もまた知られるようになり,特に閉経前の高濃度乳房における超音波検査の検出能力の高さが注目されることになった。さらに,検診に関するメリットとともにデメリットについての論文も多く出されるようになった。単に早期癌を検出すればいいということだけではなく,乳がん検診について,謙虚に誠実に,そして論理的に研究し,再考すべき時期にきているように感じる。
 わが国においては,以前より超音波による任意型乳がん検診が行われており,その要精査基準は,日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)で議論を重ねて作成し,次第に普及してきた。しかしながら,精査機関で紹介されてきた女性たちを診療していると,議論を重ねたわりには,この基準の意図が理解されていないのではないか?と思われるケースも多く経験してきた。なにか,基準に沿って症例を提示し,理解を深められる本があったらいいのではないかと思いついたのが本書の出発である。
 現実には,任意型検診での超音波検査の使用が全国に普及している一方で,超音波検診の死亡率減少効果は証明されておらず,本当に有効であるかどうかのエビデンスはない。検診を受診するかどうかは受診者個人の判断に任されるということになるが,その前に医療者が正しく検診を理解する必要がある。そこで,まず第Ⅰ章として,検診を理解する10の項目を設けた。検診に関わるすべての医療者に知っていただきたいと考えた事柄を凝縮し,理解しやすく配列したつもりである。
 そして,第Ⅱ章からは,要精査基準に則り,精査不要とするものを正しく理解して,要精査率を上昇させない(偽陽性を少なく)努力を,そして,拾い上げるべき所見は正しく(偽陰性を少なく)判断できるように章立てした。また,要精査基準に入っていない症例で,検診でもよく見かける皮膚の所見などについても,その画像を示した。
 今後,超音波検診がどのような位置づけになるか,厚生労働省のあり方委員会では引き続き検討を続けるという方針である。少なくとも任意型検診で超音波を使用するという状況においては,精査要・不要の判断を正しく行うのは必須である。本書がそうした状況で役に立つことができるとしたら嬉しい。
 最後に,この本のコンセプトを思いついてから,多忙を言い訳に,実際に取り組みここまでくるのに数年が経過してしまったにもかかわらず,辛抱強くサポートくださった医学書院の阿野慎吾氏に厚く御礼申し上げます。

 2016年 夏
 角田博子・尾羽根範員

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Ⅰ 検診についての10の基本
 1 検診についての基本的な考え方
 2 対策型検診と任意型検診
 3 わが国における対策型乳癌検診のあゆみ
 4 検診におけるマンモグラフィという手法の利点と欠点
 5 乳房超音波検診の特徴
 6 検診の利益と不利益の考え方
 7 乳癌検診の不利益-過剰診断
 8 乳癌検診の不利益-偽陽性と偽陰性,陽性反応適中度と陰性反応適中度
 9 乳癌検診におけるマンモグラフィと超音波検査の総合判定
 10 癌検診の有効性評価とバイアス

Ⅱ 腫瘤
 Ⅱ章の使い方
 1 単純性嚢胞(1)
   正しくカテゴリー2判定として精査不要とする
 2 単純性嚢胞(2)
   点状高エコーを有する嚢胞は単純性嚢胞として扱う
 3 混合性パターン(1)
   嚢胞内腫瘤で5mm以下のものはカテゴリー2として精査不要とする
 4 混合性パターン(2)
   嚢胞内乳頭腫を考えるものはカテゴリー3として要精査とする
 5 混合性パターン(3)
   立ち上がりの平坦なものは嚢胞内乳癌を考えてカテゴリー4とする
 6 混合性パターン(4) 液面形成
   液面形成のみの腫瘤で,
   上層が無エコー,下層が低エコーの場合は,カテゴリー3
   上層が低エコー,下層が無エコーの場合は,カテゴリー2とする
 7 嚢胞内腫瘍か充実性腫瘤か迷う場合
   嚢胞内腫瘍か充実性腫瘤に嚢胞性部分が生じたものか判断に迷う場合,
   混合性パターンで評価せず,充実性パターンで評価してよい
 8 典型的な粘液浮腫状の線維腺腫
   カテゴリー2と判定して精査不要とする
 9 典型的な硝子化した線維腺腫
   カテゴリー2と判定して精査不要とする
 10 典型的な濃縮嚢胞
   カテゴリー2と判定して精査不要とする
 11 明らかな浸潤所見を有する腫瘤
   境界部高エコー像あるいは乳腺境界線の断裂のどちらかが断定できる場合は,
   カテゴリー4あるいはカテゴリー5として要精査とする
 12 微細・点状エコーが複数存在する腫瘤
   カテゴリー4または5として要精査とする
 13 腫瘤の大きさと縦横比で評価される腫瘤(1)
   5mm以下の腫瘤は精査不要とする
 14 腫瘤の大きさと縦横比で評価される腫瘤(2)
   5mmより大きく10mm以下の腫瘤は原則として縦横比で評価する
 15 腫瘤の大きさと縦横比で評価される腫瘤(3)
   10mmより大きい腫瘤は原則として要精査とする

Ⅲ 非腫瘤性病変
 1 乳管拡張に関連する所見-正常のバリエーション
   乳頭下の無エコーの乳管は正常のバリエーション
 2 乳管拡張に関連する所見-要精査とすべき乳管
   乳管内部に充実エコーがみられた場合は要精査とする
 3 乳腺内低エコー域-正常のバリエーション,精査不要の低エコー域
   両側,多発して見える低エコー域は正常のバリエーションのことが多い
 4 乳腺内低エコー域-要精査とすべき低エコー域
   区域性あるいは局所性に存在する場合は要精査とする
 5 構築の乱れ
   US単独で要精査とできる症例は少ない
 6 多発小嚢胞
   多発小嚢胞単独病変は精査不要とする

Ⅳ その他
 乳腺内外の明らかな精査不要所見
   腫瘤や非腫瘤性病変として分類できない精査不変な所見を知っておこう

索引

Column
1 走査のコツを教えて
2 フォーカス1つで大違い
3 ドプラの使い方を教えて
4 エラストグラフィの使い方を教えて
5 エラストグラフィの評価について教えて
6 「ビームコンパウンド」とは
7 検査の環境について考えよう
8 どんな画像を記録すればいいの?
9 「ゲイン」と「ダイナミックレンジ」とは
10 「ティッシュハーモニックイメージ」とは

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所見を拾い上げる「眼」を養う書
書評者: 森本 忠興 (徳島大名誉教授/マンモグラフィ検診精度管理中央委員会・前理事長)
 このたび,角田博子先生・尾羽根範員先生の著書 『乳がん超音波検診-精査の要・不要,コツを伝授します』 が医学書院より刊行された。マンモグラフィ検診の精度管理にかかわってきた者として,本書は超音波検診の精度管理の著書として大変に期待するものである。本書に対する推薦文を述べる。

 マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(精中委)は,1997年の設立以来,マンモグラフィ精度管理について長年にわたり携わってきた。2013年3月より,超音波関連3学会からの要請により,将来を見越して超音波検査の検診・精密検査に関する精度管理システムづくりも精中委管轄で行うこととなり,名称も日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)と変更した。超音波検査の精度管理については,2004年に日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)が 『乳房超音波診断ガイドライン』(南江堂,2004年)を出版し,改訂が重ねられ普及に努められてきた。このガイドラインの中に超音波検診の項目があり,角田博子先生・尾羽根範員先生がその責任者を務められ,超音波検診の要精検基準の作成に携わってきている。

 本書の第1章においては,癌検診の基本が述べられている。対策型検診・任意型検診の違い,癌検診の利益・不利益,不利益の種類,過剰診断,マンモグラフィと超音波検査の総合判定などである。

 本書の第2章では,超音波検診の要精検基準に従い,所見を拾い上げる「眼」を養うための判別のコツ・ポイントが詳細に述べられ,さらに実際の症例が提示・解説されている。初心者や熟練者にも良いメッセージとなリ,役立つものと思われる。

 2015年,Lancet誌に発表されたJ-STARTの結果から,40歳代の女性に対するマンモグラフィ・超音波併用群では乳癌発見率が1.5倍高い。特にⅠ期の浸潤癌が約2倍の検出,0期の非浸潤癌は同率の検出(27%前後)などの結果が示された。死亡率減少効果はまだ不明であるので,超音波検査が高濃度乳房に対して住民検診である対策型検診へと導入されることはないが,人間ドックなどの任意型検診への導入がさらに進むものと予想される。

 欧米では,癌検診の評価は死亡率減少効果という利益のみでなく,偽陽性,過剰診断,被曝などの不利益も考慮する必要があるとされ,不利益のうちの特に過剰診断を問題視している。過剰診断とは偽陽性を増加するのでなく,その人の生命予後に影響を及ぼさない癌を発見・診断することである。前立腺癌,甲状腺癌などの検診で知られている。欧米のデータから,乳癌検診において乳癌罹患・早期癌比率の増加がみられるが,進行癌の減少はあまりみられていない。死亡率減少効果は20%程度であるが,検診発見乳癌の約20~30%が過剰診断であると推察されている。癌検診の目的が,癌死亡率を下げるための癌の早期発見という点に集中しすぎて,発育の非常に遅いタイプの癌発見が過剰診断に繋がり,放置してよい癌を発見していることになっている。したがって,過剰診断となる可能性のある乳癌は,非浸潤性乳癌(特に低グレードDCIS),浸潤性乳癌でも発育速度の遅いもの(ルミナールA)などがその候補である。今後,過剰診断となり得る乳癌の臨床病理学的研究,日本における過剰診断のデータ蓄積も必要である。これらのこともよく理解の上で,本書が超音波検診に有効に活用されることを望みたい。
日々悩んでいる検診の現場が切望していた本
書評者: 白井 秀明 (札幌ことに乳腺クリニック統括管理部長)
 近年乳がん検診の必要性はメディアやピンクリボン運動などによって広く示され,その普及が進むにつれ,これまで行われてきたマンモグラフィのみでの検診に限界があることが指摘されており,超音波検査を併用した乳癌検診へ注目が集まっています。そのような中,実に良いタイミングで 『乳がん超音波検診-精査の要・不要,コツを伝授します』 が医学書院から出版されました。本書は,日々精密検査の可否に悩む検診の現場が切望していた本だといえるでしょう。

 まず乳がん検診によって起こり得る利益と不利益より,超音波検査が果たす役割を示すことから,超音波検査が問題とされている病変の拾い過ぎ,いわゆる過剰診断を減らすことを目的とした内容になっています。特に「Ⅰ.検診についての10の基本」の中で述べられている「検診は癌による死亡を回避する手法であることは確かですが,一方このような過剰診断という不利益もあるということを検診に携わる医療者は真摯に受けとめ,また受診者である一般女性にも知って頂く必要があるでしょう」(p.7)という一文は,今日の併用検診が抱えている問題を鋭くついており,“あれば何でも拾っておけ”“わからないからとりあえず精査にしよう”という気持ちでは検診に臨めないことをよく指摘しているものと思います。

 「Ⅱ.腫瘤」「Ⅲ.非腫瘤性病変」では,日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)の 『乳房超音波診断ガイドライン』(改訂第3版,南江堂,2014年)で用いられているカテゴリー分類に沿って,多くの症例画像と適切なコメントがわかりやすく配置されており,どの項目から見ても理解しやすい本になっているのが特徴です。正しく要精査基準を理解し,過不足なく病変が拾い上げられる「眼」を養うため,典型例から判定が難しい症例まで多くの症例画像によって画像の読み方がまとめられており,さらにその問題点に対して,正しく判別するためのポイントやちょっとしたコツなども数多く掲載されています。

 またもう一つ本書ならではと思われるのが「Column」であり,随所に配置されています。これは実際に検査を行う場合に必要な装置の具体的な設定方法や探触子の走査方法,またBモード法以外の判定方法について解説されており,実際に検査を行う上で不可欠なコツなどが実にわかりやすく書かれ,即役立つ内容になっています。したがって本書は先ほどの 『乳房超音波診断ガイドライン』 とともに使用することで精査の可否のポイントがより理解できるものと思います。

 乳腺超音波検査は,これまで主に精査機関で活用されてきましたが,今後はますます検診施設などでも用いられることが予想されます。このような中で本書は日々の現場の疑問を解消してくれる力になるばかりでなく,これから検診機関で働く医師や技師の教育のための教本としても最適であると考えられます。本書の内容を多くの医療従事者が正しく理解し,活用できれば必ずや救命効果の高い乳癌検診が行えるものと確信いたします。
必要な知識を適切にテーマ化した一冊
書評者: 遠藤 登喜子 (日本乳がん検診精度管理中央機構理事長/東名古屋病院乳腺科・放射線科)
 現在,増加し続けている日本女性の乳がん罹患と死亡に対して,世界的に死亡率減少効果が証明されているマンモグラフィによる乳がん検診が行われているところではあるが,日本女性の乳がん罹患が40歳代後半~60歳代前半までが高率を示していること,40歳代~50歳代前半においては,“dense breast”率が高いことから,マンモグラフィによるがん検診の精度を補填する方法が模索されている。乳房超音波検査のマンモグラフィ検査との併用はその一つである。実際には従来から超音波併用検診が実施されてきたが,期待された救命効果を証明できなかったのは,その検査法や判定基準が周知徹底されてこなかった点にあると考えられる。

 現在,日本乳腺甲状腺超音波医学会のまとめたガイドライン,判定基準を日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が受け継ぎ,講習会による普及活動が進められているが,マンモグラフィに関する知識のように徹底するには,文献・資料・書籍や画像など,非常に多くの場面において間違いのない情報提供が必要である。

 本書は,こうした検診従事者が必要性を感じている知識を非常に適切にテーマ化したものと感じる。従来の検診においては,精査の必要性についてその判断を検者個人の考えや技量に任されているところがあり,ばらつきが大きくみられた。また,「よくわからないものは,とりあえず拾っておく」という偽陽性によるharmが幅を利かせてきたことによって超音波検査の精度低下の原因にもなってきた。本書は,そのタイトルからしても,その点をずばりと明瞭にすることが検診の基本であることを表している。

 実際に,本の構成として,モダリティの知識に入る前に,検診についての基本知識がコンパクトに,しかも的確に記載されており,難しいことを難しくなく解説している。検診がこうあるべきという基本は,検診従事者一人ひとりに関わっているのにもかかわらず,とかく技術だけに目を奪われることが多い中で,的確な理解に役立つと思われる。その意味で,長すぎない基本姿勢の解説は,時々読み返してみるべき章でもある。

 次に実際の画像について,腫瘤と非腫瘤,それぞれに実際の従事者が持つ疑問を含め的確に項目とし,項目別に数症例が所見のバリエーションにより展開されており,それぞれの病態の違いもわかるようになっている。画像を学ぶには画像を見ることが基本であり,なるべく多くの病理で裏付けられた症例をみることが重要である。このような基本姿勢で集められた症例集は,初心者のみならず経験者が知識の裏付けをするのに十分有用性のあるものとなっている。それは,本書の著者が非常に豊富な日常経験を持っていることに裏付けられたものであることによる。

 さらに,Column欄,実際の検査に基づいた豆知識がテンポよく,的確な表現で解説されている。こうした豆知識についても,間違いなく核心部分のみが記載されているのは,実務に携わる検者には役立つものと思われた。

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