一般眼科医にも広くお薦めしたい名著
書評者:高橋 寛二(関西医科大主任教授・眼科学)
《眼科臨床エキスパート》シリーズの最新巻として,『眼形成手術――眼瞼から涙器まで』が上梓された。このシリーズの中でも最も厚みがある,力のこもった眼形成の手術書の誕生である。
眼科のさまざまな領域にあって,眼形成の領域は,整容面や視機能の改善はもとより,場合によっては悪性腫瘍を取り扱うことか...
一般眼科医にも広くお薦めしたい名著
書評者:高橋 寛二(関西医科大主任教授・眼科学)
《眼科臨床エキスパート》シリーズの最新巻として,『眼形成手術――眼瞼から涙器まで』が上梓された。このシリーズの中でも最も厚みがある,力のこもった眼形成の手術書の誕生である。
眼科のさまざまな領域にあって,眼形成の領域は,整容面や視機能の改善はもとより,場合によっては悪性腫瘍を取り扱うことから,生命予後にも直結することもある重要な一領域である。その反面,「好きこそものの上手なれ」の領域であるとも言える。眼形成に携わっておられる先生方は,手術が大好きで,しかもご自分の手術に強いポリシー,すなわち「こだわり」と「こつ」を持って日頃手術に臨まれている。本書の執筆陣は45人に及ぶが,一般形成外科を専門としておられる専門家(形成外科医)は7人のみで,他は眼科の中にあって形成手術をサブスペシャリティとして熱心に勉強された上で活躍しておられる先生ばかりである。このような眼形成の専門家は,日本眼形成再建外科学会をはじめ,日本眼窩疾患シンポジウム,日本涙道・涙液学会,日本眼腫瘍学会などのさまざまな学会や研究会において,常に熱く語り合いながら,手術の考え方,手術適応や手技について切磋琢磨しておられる先生方が多く,誠に頭の下がる思いである。
まず本書の特徴として,一般眼科医にとっても非常に丁寧でわかりやすい実践的な編集がなされていることが挙げられる。編者の一人である金沢大学の高比良雅之先生が眼形成手術の基本的な考え方,解剖,手技を解説されている第1章「総説」に始まり,第2章の「総論」では,眼瞼,眼窩,涙道の眼形成三大領域について,疾患の概説と手術に必要な解剖,初診時の外来診察(どう診てどう考えるか),診断・治療に必要な検査,手術の概説が列記されている。第3章の各論のパートに入ると,筆者のポリシーを交えて各疾患に対する具体的な手術方法が写真やシェーマを多用して詳しく述べられている。第3章の各術式の記載の最後には,「一般眼科医へのアドバイス」というコラムがあり,一般眼科医が患者説明や眼形成専門医に患者を紹介する際に役立つひと言が記されている。
本書を通読される一般眼科医や眼形成初心者の先生方には,まず「総説」で眼形成手術の精神と概念を学び,「総論」で手術が必要な疾患の正確な診断と治療方針がわかるようになっている。さらに,各論では実際にさまざまなレベルの術者に役立つ手術手順が,手に取るような細かい記載と視覚に訴える図譜で表わされている。もちろん本書は,実際に多数の眼形成手術を行っておられる先生方にとっても,新しい手術への挑戦,各術式における手術前の細かい手技の再確認,そして目前に迫った手術のイメージトレーニングを行うためにも大いに役立つ専門的かつ辞書的な手術書でもある。
なお本書では,眼瞼,眼窩,涙器の領域別に総論と各論を合わせると,眼瞼では約80ページ,眼窩では約140ページ,そして涙器では約90ページが割かれている。同じ事項についての記載が複数の著者から行われている箇所もあるが,これは,いくつもの教科書を合わせた「おトク」な教科書であると考えればよい。本書は,日頃眼形成手術に意欲的に取り組んでおられる先生方ばかりでなく,眼形成に興味のある初心者や一般眼科医にも広くお薦めしたい名著である。