医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第2851号 2009年10月19日

第2851号 2009年10月19日


医長のためのビジネス塾

〔第9回〕論理的思考(1)思考技術の基本

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

 今回からは,論理的思考(ロジカルシンキング)について紹介します。論理的思考は,これまでのマーケティングや戦略と比べれば,私たち医師にとって非常に親和性の高いものです。なぜならば,日常の業務で使用している思考技術そのものだからです。例えば,鑑別診断,診療方針の選択・実行,臨床研究などの主たる場面で,頻繁に活用しています。ですから,この機会に論理的思考に対する興味を深めて,会議,教育,交渉,業務企画などの診療以外のあらゆる場面においても,この技術が有用であることを理解していただければ幸いです。

4つの基本をマスターする

 論理的思考の技術には,4つの基本があります。ひとつは「論点から外れない」ようにするということです。そのほか,「論点を分解する」こと。さらには「論理展開の基本を理解しておく」こと。そして「因果関係の確認をする」ことです。

論点から外れない
 論点とは「何を考えるべきか」ということです。論点が外れるパターンは2つあります。ひとつは,論点がずれていく場合です。病院会議においても例外でありません。例えば「新型インフルエンザ受診者増加への対策」という議題の会議では,本来は「地域住民への情報提供や啓蒙」「対応できるマンパワーの調整」「重症患者の受け入れプロセスの設定」など,早急に具体策を画策しておくための会議だったにもかかわらず,参加メンバー全員がその議題に参画することを怠っていると,いつしか「予防効果の是非の医学的知識の確認」などの異なる視点にずれてしまっていることがあります。このようなずれは,意識していないと意外と多発しているのではないでしょうか。

 もうひとつは,論点が不明瞭な場合です。研修医の鑑別診断やサマリーの考察で,このパターンによく出合います。症例の情報やデータはきれいに整っていても,それをどう解釈して何を提言したいのかまで踏み込めていないため,聞き手は「結局あなたの考えはどうなの?」という疑問を抱いてしまいます。調査結果をきれいにまとめただけで,結論が欠落しているからです。

論点を分解する
 論点を分解することで,結論を導くための根拠を過不足なく提示できるようになります。論点を上手に分解するための手段として,枠組み(前回・前々回に紹介したフレームワークのことです)がよく利用されます。

 例えば,後期研修プログラムを準備して募集開始したにもかかわらず,十分な応募が得られない場合には,「後期研修医の応募者数が伸びない原因は?」という論点について検討が必要です。しかし,個々の検討課題が多数あるため,どこから手をつければいいのかわからず途方にくれることや,手当たり次第に策を講じてみるけれども効果につながらない,という顛末にいたることも少なくありません。

 まずは,論点を分解して整理してみましょう。以前に,マーケティングの中で紹介した4Pを使ってみます(図1)。教育のプロダクトの問題について検討するならば,「教育内容やカリキュラムは妥当で十分なものなのか」ということが外せません。同様に,教育のプライスでは「給与・福利厚生・待遇面が妥当なものなのか」,教育のプロモーションでは「ホームページや院内・院外セミナーで行う広報活動は研修医のニーズに訴えるものになっているか」,教育のプレイス・チャネルでは,「病院の各部署・部門での教育姿勢が十分にあるか」,などと分解してみることで,問題の焦点がずいぶんと絞られるのではないでしょうか。

図1 枠組みを使い論点を整理する

 これが正解というものはないので,個々の施設での現状を踏まえながら検討課題を考える必要があることは言うまでもありませんが,まず手始めにこの4点に分解してみることで,その他の分解すべき論点の要素の発見にもつながりそうです。上手に分解するための技術については,論理的思考の重要な骨子なので,次回以降で詳しく説明します。

論理展開の基本を理解しておく
 論点がしっかりと押さえられ,分解された構造に整合性があっても,結論と根拠の間のロジックがあやふやでは,聞き手に「どうしてそう言えるのか?」という疑問を抱かせ,説得力のないものとして認識される危険性が高くなります。そのような事態を避けるには,根拠から結論への論理展開の基本パターンを押さえておく必要があります(図2)。

図2 演繹的思考と帰納的思考

*演繹法:すでに確定している原則や一般論などがあり,観察事項がそれに当てはまるならば,観察事項もその原則に従っている,と考える三段論法的な思考方法です。例えば,「特別な理由がない限り,日本の8歳児は小学生である」という一般的原則があるので,「救急外来で今診察している男の子は8歳である」という観察事項から,「その子は小学生である」という結論が導かれます(この例の内容などは,常識に照らし合わせての判断という形で,無意識に活用していますが……)。

*帰納法:前者と異なるのは,事実や観察事項からどのようなことが言えるのかという解釈を加えることで結論を導きだす,という点です。糖尿病の家族歴,生活習慣歴,体型,採血結果から,糖尿病という診断を結論づけることと同様です。実際の診断においては,帰納法と併行して仮説・検証も実施しているという点が少し異なりますが,論理の基本構造としては帰納型に属するものです。

因果関係の確認をする
 前述の論理展開が正しく行われていても,論理が正しいとは限りません。原因と結果の間に存在する因果関係の確認が必要です。「因果関係がある」というためには,次の3つの条件を満たしておく必要があります。

 まず,「原因と結果や結論と根拠の関係が相関」していなければなりません。観察的臨床研究のデザインをするときにも気をつけておくべき事項ですから,皆さんには馴染みがあることだと思います。ひと言でいうと,「偶然ではない関係である」ということになります。

 次に,「原因が結果よりも時間的に先立っている」ということです。鶏と卵の議論のように,どちらが先かわからないということではなく,原因が先行していて結果があるという時間の方向性を確認できることが必要です。

 最後に,「第三因子が存在していない」ことです。第三因子の具体的例として,肺がんとライターの関係を考えてみましょう。「ライターを持っている人が肺がんになりやすい」という仮説は,相関性はありそうですが,誰も因果関係はあるとは思いません。喫煙がライターにも肺がんにも相関しているのです。喫煙という真の原因を発見することができずに,ライターと肺がんの関係だけに焦点を当ててしまうと,「ライターを持っていると肺がんになりやすい」という誤った結論を導いてしまいます。この場合,本当に原因・結果の関係があるのは喫煙と肺がんだけで,ライターが第三因子になります。

 

 今回は,意識して内容を論理的に整理・構成しました。気づいていただけたでしょうか? 意識することで,論理展開の弱い箇所をいくつか発見し補強したつもりです。そうする過程で,「どこまで論理的に詰めて提示するか」という新たな疑問も生じましたが,「読者の方々に何をどのくらい理解してもらいたいか,という観点で判断する」という原則を思い出して活用しました。このように,意識して活用する機会を持ってみるだけでも,論理的思考技術の自主トレは可能になります。

つづく

連載一覧