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[第6回]DESIGN-R®2020を使ってみよう➂
写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」創傷編
連載 間宮直子
2025.11.05
WOCドリルを担当するマミヤです。私は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として,WOCNが在籍していない施設へケアの技術・知見を共有してきました。こうした経験を通して得たことを基に,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。
一緒に学習する臨床3年目看護師のさくらです。私が所属する病院にはWOCNはおらず,学生時代に学んだ方法や,代々引き継がれてきた病院独自の方法で皮膚・排泄ケアを行っています。患者さんのことを想うと,本当にこの方法で正しいのか自信がありません……。
前回は,褥瘡評価スケール「DESIGN-R®2020」を使いながら,「DTI(深部損傷褥瘡)疑い」について学びました。2020年にこのDTIとともに追加された項目に『臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)疑い』(I3C)があります。これも褥瘡を評価するうえで見極めが難しいと感じています。
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)とは,「感染の明確な臨床徴候を示さないにもかかわらず,創傷治癒を妨げ始めるレベルまで細菌負荷が増加した状態」を指します1)。さまざまな臨床でのサインがありますので,今回はこの状態について理解を深めてみましょう。 問題 「I3C」と評価される褥瘡はどれ?
さまざまな部位の褥瘡が並んでいます。「臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)」の状態である褥瘡を探してみましょう。
① 浅い損傷の尾骨と仙骨部(滲出液少量,創周囲の発赤はあるが熱感はない)
② 排膿がある仙骨部(悪臭が強く全身的な発熱がある)
③ 創面が赤色の右大転子(滲出液は中等量,臭いや創面のぬめりはない)
④ 滲出液が多量な仙骨部(サイズの縮小は停滞,悪臭があり創面にぬめりがある)
解説
今回学んでもらうクリティカルコロナイゼーションとは,「創傷に細菌が増殖して治癒を妨げているが,明らかな感染徴候はまだ出ていない状態」を指します。この段階では,「バイオフィルム」と呼ばれる「細菌が作る膜状の構造物」が形成されていることが多く,洗浄や抗菌薬などではなかなか除去できず,創傷治癒が遅延しやすくなります。
きれいに見える褥瘡なのに,なかなか治癒しない,滲出液が多い,創面にぬめりや灰白色の膜などがあればこの状態を疑います。また,臭気や肉芽が浮腫状や脆弱,易出血などを認めることがあります。
DESIGN‐R®2020(表)では「感染」のところに「臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)疑い」がありますね。『I3C』と記載され,3点で計算されます。 今回も臨界的定着を探しながら,余裕があればDESIGN-R®2020で評価してみましょう。
①浅い損傷の尾骨と仙骨部 (尾骨部の褥瘡サイズ:3.5×1.4㎝,仙骨部の褥瘡サイズ:2.5×1.8㎝)
周囲発赤があり「i1」と判定します。
☞ ×
炎症・感染の『I』の項目の「局所の炎症徴候」とは「創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛」を指します。この褥瘡は入院時に発見され,過度な圧迫によるものというより,おむつ環境が十分でなく蒸れがあり,そこに摩擦・ずれが生じたことが原因と推察されました。周囲皮膚の発赤はありますが,腫脹・熱感はありませんでした。除圧とともにおむつ環境を整えたことにより,10日間で治癒しました。
この尾骨部褥瘡の評価は,滲出液が少なく,欠損している大きさ3.5×1.4㎝(長径×それに直交する最大径),周囲の発赤を局所の炎症徴候ありで評価し,肉芽組織は評価できず(d2の時はg0で評価する),壊死組織はありません。したがってDESIGN-R®2020は「d2‐e1s6i1g0n0p0:8 点」と評価しました。 仙骨部褥瘡の評価も同様に「d2‐e1s6i1g0n0p0:8 点」としました。
②排膿がある仙骨部 (褥瘡サイズ:6.4×4.5㎝,ポケット7.2×5.0㎝)
膿・悪臭があり,明らかな感染徴候を認めました。全身的発熱もあったことから「I9」と判定します。
☞ ×
局所の明らかな感染徴候とは,創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛(局所の炎症徴候),膿,悪臭が見られることをいいます。画像は黒色壊死組織を除去して排膿した直後のものです。炎症データも高値であり,十分な洗浄,デブリードマン,全身的な抗菌薬投与などが必須となります。発熱がなく,深部の感染部位が限局していた場合は「I3」で評価できます。
この褥瘡の評価は,創底の確認ができず,滲出液は多く,大きさ6.4×4.5㎝(長径×それに直交する最大径),明らかな感染徴候と発熱があり,良性肉芽は全くなく,固着した壊死組織が残存し,ポケットがあります(ポケットサイズから潰瘍サイズを差し引く)。したがってDESIGN-R®2020は「DU‐E6s8I9G6N6P9:44点」と評価しました。
③創面が赤色の右大転子 (褥瘡サイズ:2.0×1.5㎝)
局所の炎症徴候はなく「i0」になります。
☞ ×
この褥瘡は,創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛はありません。滲出液は多くなく,創面はきれいな褥瘡です。炎症徴候がなくても,圧迫の持続や,被覆したドレッシングの交換回数が不適切などがあれば治癒は遷延します。創縁の1~3時方向(頭側を12時と考えます)が軽く内側に反り返えろうとしているため,創縁に異物が残留しないようきちんと洗浄します。
この褥瘡の評価は,滲出液は中等量,大きさ2.0×1.5㎝(長径×それに直交する最大径),局所の炎症徴候はなく,良性肉芽は8割程度であり,壊死組織はありません。したがってDESIGN-R®2020は「D3‐e3s3i0g3n0p0:9 点」と評価します。
④滲出液が多量な仙骨部(褥瘡サイズ:3.5×2.8㎝,ポケットサイズ:3.8×3.0㎝)
創面にぬめりがあり,肉芽は浮腫状で易出血のため「I3C」と判定しました。
☞ 〇
「I3C」の特徴である滲出液多量,創面のぬめり,悪臭,肉芽が浮腫状,易出血状態でした。これらのサインがある場合は,臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)を疑います。医師の指示のもと鋭匙で除去すると灰白色の膜が除去できました(写真) 。これが創面を覆うバイオフィルムであり,創傷治癒を遷延させています。定期的な機械的デブリードマン(ガーゼで擦るなど),抗菌外用薬などで対処します2)。

写真 バイオフィルム除去の様子
この褥瘡の評価は,滲出液は多量,大きさ3.5×2.8㎝(長径×それに直交する最大径),臨界的定着が疑われ,全面浮腫状の肉芽であり,壊死組織はなく,ポケットがありました。したがってDESIGN-R®2020は「D4‐E6s6I3CG6n0P6:27点」と評価します。
答え ④ 滲出液が多量な仙骨部
褥瘡の経過がなかなかよくならない褥瘡は,バイオフィルムが形成されていた可能性があるということですね。
そうですね。バイオフィルムが形成された創傷の特徴は,外見上は感染とはっきり区別しにくいものの,いくつかの典型的な臨床的サインがあります。それを見逃さないようにしましょう。臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)から感染(インフェクション)に移行させないためには,十分な洗浄と壊死組織やバイオフィルムの除去,さらにはガーゼ交換時に肉芽・滲出液・臭気などが改善しているかの観察が重要となります。
今回のポイント
✓ クリティカルコロナイゼーションはバイオフィルムが関与している
✓ 滲出液多量,創面のぬめり,悪臭,肉芽が浮腫状・脆弱,易出血等の臨床上のサインがある
✓ クリティカルコロナイゼーションは 創傷治癒の遅延にも関与している
✓ 感染に移行させないためにもバイオフィルムは適宜除去する必要がある
参考文献
1)Ostomy Wound Manage. 2006[PMID:17146118]
2) 菅野恵美他.Critical colonization. 市岡滋(監).創傷のすべて——傷をもつすべての人のために.克誠堂出版;2012;256-257
間宮 直子(まみや・なおこ)氏
1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。
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間宮 直子(まみや・なおこ)氏 済生会吹田病院副看護部長/皮膚・排泄ケア認定看護師
1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。
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