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写真を見て・解いて・わかる皮膚排泄ケア「WOCドリル」創傷編

連載 間宮直子

2025.08.06

Example ImageWOCドリルを担当するマミヤです。私は皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)として,WOCNが在籍していない施設へケアの技術・知見を共有してきました。こうした経験を通して得たことを基に,皮膚・排泄ケアで間違いやすいポイントを中心に,適切なケアをドリル形式で解説していきます。
Example Image一緒に学習する臨床3年目看護師のさくらです。私が所属する病院にはWOCNはおらず,学生時代に学んだ方法や,代々引き継がれてきた病院独自の方法で皮膚・排泄ケアを行っています。患者さんのことを想うと,本当にこの方法で正しいのか自信がありません……。

Example Image前回,褥瘡の形状から発生要因を推察できること,そして主に「圧迫」が関与する褥瘡の形状を学びました。また,湿潤や摩擦・ずれ,得手体位や麻痺など,全身をアセスメントすることが重要であることも教えていただきましたが,まだまだ自信が持てません。
Example Image形状だけでアセスメントするのはやはり難しいですね。褥瘡の発生要因である「圧迫」や「摩擦・ずれ」,皮膚の「湿潤」を可能な限り避けることが予防になります。よって,褥瘡を発見した場合は,発生要因をいち早くアセスメントして,それを排除できれば重症化予防につながりますので頑張りましょう。

問題 「摩擦・ずれ」が主な要因の褥瘡はどれ?

Example Image仙骨部のいろいろな形状の褥瘡が並んでいます。 今回は主な要因が「摩擦・ずれ」である褥瘡を探してみましょう。

解説

褥瘡の発生要因のひとつである「摩擦・ずれ」は,繰り返されることで組織のダメージが起こります。もちろん健常な皮膚であれば多少の摩擦・ずれが生じても問題はないのですが,殿部の湿潤(蒸れ)や低栄養などが加われば,組織は脆弱となり褥瘡は発生しやすくなます。                            

Example Image図1を参考にそれぞれの発生要因を考え,「摩擦・ずれ」が主に関与している褥瘡を探してみましょう。
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WOCドリル_第3回_図1.jpg
図1 創部形状の観察から始まる仙骨部褥瘡ケア(文献1を参考に作成)
Example Image「摩擦・ずれ」が主な発生要因の褥瘡は,辺縁が不整形であることが多いのですね。
辺縁が整形の小さな褥瘡
 

①辺縁が整形の小さな褥瘡

これは仰臥位での「圧迫」が大きく関与した褥瘡です。
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自宅で硬いマットに寝ていましたが,介護者が病気となり,おむつ交換や体位変換ができませんでした。この画像は,発生してから2か月後の状態で,すでにきれいな肉芽になっています。褥瘡部位に一致して骨突出がありました。

辺縁が不整形の大きな褥瘡
 

②辺縁が不整形の大きな褥瘡

これが主に「摩擦・ずれ」が関与している褥瘡です。失禁汚染による皮膚の湿潤も大きく関与しています。

大きな褥瘡の辺縁は不整形で,中央の一部に黒色壊死組織が残存し,周囲皮膚にはびらんや皮膚の浸軟(特に右側)がみられます。おむつ交換がされておらず,湿潤する殿部のなかで行われる強引なおむつの抜き差し,車いすの仙骨座りや姿勢の横くずれ、これにより生じた摩擦・ずれが主な要因と推察されました。

辺縁が整形の大きな褥瘡
 

③辺縁が整形の大きな褥瘡

これも仰臥位での「圧迫」が大きく関与した褥瘡です。
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自宅のフローリングの上で倒れていた独居の高齢者です。倒れてから4日後に発見され,病院に搬送されたときには,仙骨部に巨大な褥瘡が発生していました。画像は,入院7日目(倒れてから11日経過)で,固着した黒色壊死組織に覆われています。褥瘡の形状や位置から仰臥位で倒れていたことがわかります。

コルセット装着患者に見られた辺縁が不整形な褥瘡
 

④コルセット装着患者に見られた辺縁が不整形な褥瘡

これは,判断に迷う形状ですね。コルセットを装着して臥床していたため,その辺縁の圧迫によって発生したものです(図2)。 着脱を忘れたのかもしれませんが,医療関連機器褥瘡(medical device related pressure ulcer: MDRPU )であるともいえます。
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MDRPUの定義は,医療関連機器による圧迫で生じる皮膚ないし下床(内部組織)の組織損傷です。厳密には従来の褥瘡すなわち自重関連褥瘡(self load related pressure ulcer)と区別され,ともに圧迫創傷であることから広い意味では褥瘡の範疇に属します。なお尿道,消化管,気道等の粘膜に発生する創傷は含めないとされています2)

図2 コルセットを装着して臥床していた様子

答え ②辺縁が不整形の大きな褥瘡

Example Image形状をしっかり観察すると,発生要因がみえてくることがわかりました。これもアセスメントですね。
Example Imageそうです。前回も言いましたが,形状だけでなく,そのときの環境や全身をみてアセスメントすることが重要です。 発生要因が把握できれば,的確で適切なケアの提供がいち早く行えます。

褥瘡の辺縁が整形な場合は「圧迫」の関与が多い辺縁が不整形な場合は「摩擦・ずれ」や「汚染」の関与が多いMDRPUは医療関連機器によって発生した褥瘡である​​​​​​​発生要因を把握できれば要因を除去するケアを行う​​​​​​​​​​​​​​


参考文献

1)真田弘美,他(編).実践に基づく最新褥瘡看護技術.照林社;2007.pp116.
2)日本褥瘡学会(編). MDRPUベストプラクティス.日本褥瘡学会;2016.p6.

 

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済生会吹田病院副看護部長/皮膚・排泄ケア認定看護師

 1997年に大阪府済生会吹田病院に入職。皮膚・排泄領域のケアを専門とし,04年に皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得する。その後,16年に創傷管理関連の特定行為研修修了,17年に滋慶医療科学大大学院医療安全管理学修士課程修了。11年より現職。
 「高度な急性期病院でありつつ、医療・介護をトータルに支える地域密着型の病院機能も担う“二刀流の病院”を目指す」という病院のミッションの下,同じ医療法人グループの中にある高齢者施設,訪問看護のみならず多くの施設・機関にアウトリーチ活動を行っている。
 所属学会は,日本創傷・オストミー・失禁管理学会(評議員),日本褥瘡学会(評議員・褥瘡認定師) ,日本フットケア・足病医学会(理事・学会認定師) ,日本認知症ケア学会(認知症ケア専門士) ほか。

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