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医学界新聞プラス
[第14回]手術イラストを描いてみよう
外科研修のトリセツ
連載 畑中勇治
2025.05.19


手術記録にイラストは必要?
手術記録は,医師法に基づいて記載・保存が義務付けられた診療録の一部で,術後の診療や医療安全に欠かせない重要な診療情報です。文書だけでも十分に手術記録として成り立ちますが,それだけでは読み手に手術内容を十分に伝えることは難しい場合があります。文章では伝わりにくい箇所を視覚的に伝える手段として,手術イラストや術中写真を添えることが,日本の多くの外科医にとっての慣習となっています(図1)。

まずはとにかく描いてみよう
「イラストを描くのがそもそも苦手」「何を描けばいいかわからない」と,作成に抵抗感のある方も多いのではないでしょうか。私自身も外科医になるまではイラストを描いたり学んだりした経験がなく,全く自信がありませんでした。術後カンファレンスで提示しても恥ずかしくないイラストを描けるようになりたくて当時の先輩に相談したところ,「手術と一緒で最初からうまい絵が描けるわけではないからね。他の人が描いたイラストの写しでもいいから,まずは一度描いてみることが大事だぞ」と,もっともなアドバイスを受けました。先輩の手術イラスト,手術書のシェーマ,手術ビデオのワンシーンなどを基に,まずは「トレース」から始め,少しずつ慣れていき,イラストに自信がついたことを覚えています(図2)。描けば描くほど手術への理解が進み,より良いイラストが描けるようになるものです。自信がない方も,必ずうまくなると信じてゆっくりじっくり取り組んでみましょう。

a:手術ビデオのスクリーンショットの透過性を調整,b:新規レイヤー作成→臓器や構造の輪郭をトレース,c:術中写真のレイヤーを削除し,線画を基に着色。
手術イラストが外科医の成長にもたらす効果
手術イラストの作成には,ただ手術記録がわかりやすくなるだけでなく,さまざまな副次的な効果があると言われています。
自己研鑽の一環
手術の記憶を整理し,解剖構造や手術操作を自分の言葉とイラストで表現するプロセスそのものが,非常に優れたセルフフィードバックになります。手術のプロセスを「なんとなく覚えている」状態から「要点を言語化・図示できる」状態に変えることは,確かな成長の証です。手術記録の一環としてイラストを描くことが,自然な形で反省と学びを促してくれます。
解剖・手技の理解度の指標
「描けないところは理解が不十分なところ」と言えます。自らの理解の浅さや曖昧な点を浮き彫りにし,次回以降の手術への課題が明確になるはずです。また,上級医は研修医・専攻医の描いたイラストを見て理解度を把握し,的確な指導につなげることも可能です。さらに,手術イラストが手術技能の指標として扱われることがあり,肝胆膵外科領域における高度技能医資格の審査では,自身の執刀症例の手術イラストの提出が求められます。
自身の手術への熱意や姿勢を伝える手段
描いたイラストは上司へ添削を依頼したり,カンファレンスで提示したりしてみましょう。イラストから,皆さんの手術への熱意や真摯な姿勢が自然と伝わるものです。手術イラストの習熟が認められれば,次なる手術へのステップアップも期待できるかもしれません。
手術イラスト作成の実際
ただし,漫然と同じ手術を題材に同じイラストを描いているだけでは,手術イラストの効果は得られません。手術での反省点や学びをイラストとして描き起こし,次の手術へ生かすことが大切です。手術上達をめざして私自身が取り組み続けている手術イラストの作成手順を以下で紹介をしていきます。皆さんのイラスト作成の参考になれば幸いです。
手術直後にラフスケッチを描く
記憶が鮮明なうちにメモや下書きを残すことが重要です。術後に余力があればそのまま描ききってしまうのが理想ですが,簡単な構図だけでも残しておくと,後での作成が楽になります。私は手術室にメモ帳やiPadを持ち込んで,手術直後に忘れたくない術野や反省点などを殴り書きするように心がけています(図3a)。
ラフスケッチから線画を描く
ラフスケッチを基に線画を描き込んでいきます。線画はなるべくシンプルに,臓器や構造物の輪郭をとらえることが重要です。臓器の大きさや周辺臓器との位置関係,......
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