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取材記事

2025.04.09

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第89回日本循環器学会学術集会(会長=名古屋大学・室原豊明氏:右写真)が3月28~30日,「私たちは循環器が好き ――We Love Cardiovascular (CV)Science」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。

『医学界新聞プラス』では,本学術集会にて初披露された循環器関連の各種ガイドラインの改訂内容を解説するプログラム「ガイドラインに学ぶ1」(座長=高知大学・北岡裕章氏)の模様を報告する。



◆2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
8年ぶりに全面改訂された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』の要点を解説したのは国立循環器病研究センターの北井豪氏だ。日本社会の実情を踏まえ高齢者心不全診療にも目を向けたほか,日本発のエビデンスを重視してより実臨床に即した内容をめざしたとする今回の改訂の狙いを説明。「エビデンスが必ずしも十分でない領域であっても,臨床上重要な課題は積極的に取り上げた」と,現場を意識した改訂であることを強調した。

今回の改訂では,心不全診療における急性期からの切れ目のない治療の重要性と,急性期と慢性期の明確な区別が困難であることが考慮され,ガイドラインの名称がこれまでの『急性・慢性心不全診療ガイドライン』から『心不全診療ガイドライン』へと変更されている。また,心不全の定義・分類も2021年に日米欧の3つの心不全学会から合同で提唱された「Universal definitionand classification of heart failure」1)に基づいて見直された。定義においては心不全の症状・徴候に加えてうっ血の客観的所見もしくはナトリウム利尿ペプチドの上昇が採用され,分類では心不全リスク状態を指すステージAに慢性腎臓病(CKD)が追加されている。

薬物治療では,SGLT2阻害薬がHFmrEF,HFpEFの治療いずれにおいてもクラス1(手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがある,または見解が広く一致している),エビデンスレベルA(複数の無作為化臨床試験またはメタ解析で実証されたもの)での推奨とされ,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)はスピロノラクトンおよびエプレレノンと非ステロイド系のフィネレノンとで推奨クラスが分かれるなどのアップデートがなされた。

◆2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン
これまで心臓移植治療実践のための診療指針は,国内における心臓移植の件数が少ないことを背景に「提言」の形でまとめられていたところ,移植総数や実施施設数の増加を受け,『2025年改訂版 心臓移植に関するガイドライン』 として今回初めてガイドライン化されるに至った。

齋木佳克氏(東北大学大学院医学系研究科心臓血管外科学分野)は,日本の心臓移植の現状および改訂の意義を次のように説明する。「実施件数は欧米に比べ少ないが,移植後の累積生存率は国際的に見て非常に良好である。ガイドラインの内容検討に当たっては単に海外のガイドラインをなぞるのではなく,日本の実態により即した内容とすることを意識した」。

本ガイドラインではレシピエント選択基準に関して,発刊直前に厚労省から発表された最新版の基準2)を反映。また欧米での移植医療システムの一つである心停止ドナーの心臓移植についても,日本ではまだ実現が難しいとしながらもその可能性に言及している。

今後の課題には,移植に携わる内科医の必要性や市民・患者への情報提供の重要性を挙げる。その上で,「本ガイドラインの役割は心臓移植に関係する医療現場での判断の参考となることを期し,最新の医学情報を提供することに他ならない。具体的な患者の治療や管理に関する最終的判断は,担当医師や医療スタッフが個別事情を踏まえて患者中心の治療を設定し,共有しながら形成されていくべきものと考える」と締めくくった。

◆2025年ガイドラインフォーカスアップデート版――末梢動脈疾患
最後に登壇したのは国際医療福祉大学三田病院の重松邦広氏である。2022年改訂版から新たな知見をまとめフォーカスアップデート版として作成された『末梢動脈疾患ガイドライン』について解説した。今回は,末梢動脈疾患(PAD)治療に関連した変化の中で2022年版の発行後に報告があった下記4項目についてアップデートが行われた。

・急性動脈閉塞の薬物治療に用いられてきたウロキナーゼの供給停止
・包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)・重症下肢虚血(CLI)の血行再建に関する大規模RCTの報告
・PADに対する血行再建術後の抗凝固療法について,欧米を中心にアジアを含めた大規模RCTの報告
・CLTI・CLIの症例に一定数認められる血行再建不能症例に対する深部静脈動脈化(DVA)に関する多施設前向き研究の報告

前回の改訂から3年と短期間ではあるものの,これらはいずれもPAD治療に変化をもたらす報告であるとし,安全な治療実施のためには継続的な知識のアップデートが必要であると参加者に呼びかけ,発表を終えた。

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1)モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会.医学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版.2022.
2)厚生労働省.心臓移植希望者(レシピエント)選択基準(一部改正,令和7年3月7日.健生発0307第6号).

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