片側性胸水の鑑別(皿谷健)
連載
2017.09.11
身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療
肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。
[第3回]片側性胸水の鑑別
皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)
(前回からつづく)
CASE 80歳男性がここ5日間の右胸痛と38℃台の発熱を主訴に独歩で来院。基礎疾患なし。胸部X線で肺野には異常はないが,右胸水を認めた。Vital signsは発熱以外の問題なし。
胸水貯留は一般内科の外来でしばしば遭遇する病態です。さて,どのように診断していくのでしょうか?
慢性経過で貯留した胸水は,さほど呼吸困難感が生じない傾向にあります。一方,急速な胸水貯留の場合は無気肺などによる換気血流ミスマッチも影響し,低酸素血症や呼吸困難を伴うことが多いです。一般的に両側胸水は心不全や低アルブミン血症を考慮しますが,片側胸水は肺炎随伴性胸水/膿胸,悪性胸水,結核性胸膜炎が鑑別疾患の代表として挙げられます(図1)。いずれも滲出性胸水です。
図1 片側性胸水貯留の鑑別診断(クリックで拡大) |
身体所見や体位も重要な手掛かり
胸水貯留の程度(水位)のアセスメントは座位での胸郭振盪,打診,auscultatory percussion test,声音聴診でも可能です。
大量の胸水が貯留した患者は,健側肺を下にした側臥位の姿勢をとることが比較的多く,これは健側での換気血流を増やすためとされています。ただし,胸痛を伴う胸膜炎では,胸痛の軽減のために患側を下にした側臥位の姿勢をとることが多いとされています。筆者の印象では,胸痛(主に吸気時)の頻度は肺炎随伴性胸水/膿胸>結核性胸膜炎>>悪性胸水であることが多いです。身体所見や体位も重要な手掛かりなのですね。
胸水診断の神様,Lightに学ぶ
滲出性胸水と漏出性胸水は表のLightの基準で診断します1)。しかし,心不全における利尿薬の使用によって胸水の濃縮が起こり,臨床的には明らかな漏出性胸水を滲出性胸水と診断してしまうことがあります。こうしたエラーを防ぐために,滲出性胸水の診断では必ず血清と胸水のT-cho,Albを測定し,補助診断も使用する必要があります(表)。皆さんの周りではきちんと使用されているでしょうか?
表 滲出性胸水 vs. 漏出性胸水の鑑別(文献1より) |
ちなみに,この胸水のLightの基準で知られるRichard W. Light教授はご存命であり,名著の『Pleural Diseases』(LWW)は第6版まで世界中で愛読されています。さらにさらに……“Lightの裏の基準”とわれわれが呼んでいるClass 1からClass 7までの胸水分類2)を一度は確認しておきましょう。Class 4以上は胸腔ドレナージが必要な状態であることを示唆し,予後不良を見分けるACCP(米国胸部医学会)の胸水分類(Category 1~4)3)とは一線を画した分類となっています。
Light教授のお人柄はThe story behind Light's criteria(http://www.toraks.org.tr/uploadFiles/book/file/2422011163357-1718.pdf)で垣間見えます。物事をシンプルに考える重要性,協力者にも価値のあると思える仕事をする,自分の主張が受け入れられなくてもnever give upの精神を持つ,など重要な指針をわれわれに与えてくれます。
Split signを見たら膿胸を疑え!
本症例の胸部CTを示します(図2)。このsplit signが見えたら,もうけものです。このsplit signは肥厚した臓側胸膜と壁側胸膜により被包化された胸水がラグビーボールのように見える状態です。肺炎随伴性胸水/膿胸を疑う症例に関するわれわれの検討では,split signを認めた場合,膿胸のハザード比は6.70 (95%CI,1.91-23.5,p=0.003......
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