医学界新聞

連載

2017.08.21



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第2回]肺炎を考える!

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 50代男性,4日前からの湿性咳嗽と38℃台の高熱を主訴に受診。基礎疾患・内服薬なし。職業は会社員でデスクワークが主体。Vital signsは血圧120/70 mmHg,呼吸数22回/分,脈拍102回/分,体温38.4℃,SpO2 90%(室内気)。聴診上は右肺で呼吸音の減弱があるが,わずかにcoarse cracklesを聴取するのみ。胸部X線で右肺を主体にair bronchogramを伴う広範なコンソリデーションを認めたことから,大葉性肺炎の疑い(図1)。

図1 X線画像

 A-DROPでは1点(SpO2 90%以下)の中等症。qSOFAでは1点(呼吸数22回/分以上)で,敗血症を疑う2点以上は満たしていない。ただちに喀痰のグラム染色を行い,グラム陽性双球菌陽性および肺炎球菌尿中抗原陽性から肺炎球菌肺炎と診断。


呼吸を診て聴く“思考の型”

 本症例は4日前からの咳嗽を主訴とする急性発症であり,若干の頻呼吸を認めますが呼吸様式は正常です。正常の呼吸は吸気時には胸郭が拳上し,横隔膜の収縮に伴い腹部は突出します。しかし,呼吸仕事量の増大に伴う呼吸筋力の低下や横隔膜機能不全などにより,奇異性呼吸(paradoxical respiration)と呼ばれる胸郭と腹部の非協調運動が生じることがあります。急性呼吸不全の症例でこういったシーソーのように動く奇異性呼吸がある場合には,呼吸不全がさらに進行する可能性が高いです。また,横隔膜機能不全を来す基礎疾患(ALSや脊髄損傷,筋疾患など)も考えられます1)。ALSや脊髄損傷に伴う横隔膜機能不全2, 3)や特発性間質性肺炎の急性増悪4)および喘息発作極期の奇異性呼吸をわれわれは報告しています5)

 本症例は聴診所見が乏しいです。無気肺や胸水貯留でも正常の呼吸音が減弱するのみでラ音が目立たない場合があります(図2)。本症例とは異なりますが,基礎疾患にCOPDがあると呼吸音そのものが聴取しづらいことが多いですね。気管支炎/気管支肺炎ではcoarse cracklesが聴取されない場合も多く,わずかなrhonchiが疾患を疑うヒントになることもあります。

図2 ラ音により考える病態(クリックで拡大)

 なお,著明なcoarse cracklesを聴取した場合,気管内にも液体貯留を引き起こすような心不全,肺炎,肺胞出血をまず考慮します。coarse cracklesの原因は気道内の分泌物の破裂に伴う音だからです。Rhonchiは喀痰の気道内への詰まりにより生じることがありますが,咳払いで喀痰が消失すれば改善します。

 聴診所見はさまざまなラ音が混在し,時間とともに変化します。肺炎では,最初は吸気全般で聴取していたcoarse cracklesが数日後には吸気途中または終末だけで聴取されるようになります。呼吸相を意識したラ音の聴取は筆者作成のwebサイトを参考にしてください。

大葉性肺炎の東西横綱:肺炎球菌 vs.レジオネラ

 胸部X線やCTでair bronchogramを伴うコンソリデーションを認める大葉性肺炎の鑑別として,感染症では肺炎球菌肺炎,レジオネラ肺炎,クレブシエラ肺炎が挙げられます。極めてまれですが市中緑膿菌肺炎も存在します6)

 肺炎球菌肺炎と画像上,治療選択の上からも,最も鑑別を要する疾患にレジオネラ肺炎があります。当院での24症例と文献的レビューを合わせた本邦の62症例の解析では,レジオネラ肺炎では肺炎球菌肺炎と比して明らかに比較的徐脈7)が多く,症状の出現から来院までの日数が短いことがわかります()。

 レジオネラ肺炎と肺炎球菌肺炎の検査データ比較(論文投稿中)(クリックで拡大)

 レジオネラ肺炎といえば...

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