医学界新聞

連載

2017.06.12



賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第2回]小児領域

田波 穣(埼玉県立小児医療センター放射線科)
岡部 哲彦(横浜市立大学放射線科)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 1歳3か月の児が母親と共に救急外来受診。コンクリートの階段3段目から,頭を下にして落ちたとのこと。前額部の血腫以外,外傷所見なし。明らかな神経学的異常所見なし。落下直後より激しく泣いていたが,現在は母親の膝の上でおとなしくおもちゃを眺めている。

CT検査の放射線被ばく

 CT検査は小児においても画像診断の標準モダリティになりつつあります。日本では2014年度の1年間に,15歳未満の小児に対して合計55万件のCT検査が行われています1)。装置やソフトウェアの進歩により低線量撮影が容易になってきましたが,CT検査は依然として小児の医療放射線被ばくの主要因です。

 小児の被ばくに関しては,①一部の放射線誘発性がんに対し,小児は成人よりも2~3倍脆弱である2),②平均余命が長く,小児期の放射線暴露に関連する発がんにより寿命に影響を与える可能性がある,③放射線誘発性がんは長い潜伏期を有する可能性を持ち,腫瘍の種類および被ばく線量によって変化する,という特徴があります。小児では特に適応の正当化と線量の最適化が重要です。前者は主に検査依頼側が,後者は主に撮影側(放射線科医や放射線技師)が検討しますが,いずれも主治医,放射線科医,放射線技師,そして児の家族がベネフィットとリスクを理解した上で議論することが大事です。

 CT検査の適応が正当化される(検査が必要な)場合であっても,例えば非造影と造影の併用,もしくは造影CTを複数回行うような多相撮影の「盲目的な」依頼は避けるべきです。多相撮影の被ばく線量は,複数回CT検査を行った場合と同じです。

 撮影側の留意点としては,小児は成人と同じ撮影条件を適応すると,体格が小さいことから臓器当たりの被ばく線量が著しく高くなること,撮影対象でない臓器の被ばく線量(女児の胸部CTにおける乳腺の被ばくなど)に配慮することなどが挙げられます。

 被ばく線量と画質はトレードオフの関係です。撮影側はパラメータを調整し,検査プロトコルを最適化する必要があります。線量を高くし過ぎないことは重要ですが,あまりに線量を低くし,診断困難となってしまっては本末転倒です。主治医,放射線科医,放射線技師の三者が診断のためにどの程度の画質が必要か検討していくことが求められます。

MRI検査での鎮静の危険性

 MRI検査では,激しい騒音が長時間継続します。その間安静を保つことができない小児患者に検査を行うためには,鎮静状態を維持しなければなりません。しかし,2010年の日本小児科学会医療安全委員会の報告によると,416施設中35%が鎮静に伴う合併症を経験しており,呼吸停止や心停止といった非常に重篤な合併症も,それぞれ73施設,3施設で見られています。

 MRI検査では,構造的に医師は患児から離れざるを得ず,検査中に患児を直接観察することは困難です。室内には磁性体の機器を持ち込むことができず,さまざまな診察器具や治療機器の使用が制限される状況では,患児の状態を適切に把握し,状態が悪化した場合に速やかに治療するのは難しいことです。

 日本小児科学会,日本小児麻酔学会,......

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