心血管領域(隈丸加奈子)
連載
2017.07.10
賢く使う画像検査
本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。[第3回]心血管領域
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)
(前回からつづく)
症例変形性膝関節症に対する人工膝関節置換術後の61歳女性。術後の状態は良好で,特に大きな問題なく経過。研修医Aが離床・リハビリを開始しようとしたところ,指導医より,その前にとりあえず深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症がないことを造影CTで確認するよう指示された。 |
現在,肺血栓塞栓症(Pulmonary embolism,以下PE)診断のゴールドスタンダードは造影CTです。禁忌(高度腎障害,ヨードアレルギーなど)がない限り,PEを疑った場合には造影CTを行いますが,その場合,ヨード造影剤を上肢の皮静脈から急速注入し,肺動脈内に濃い造影剤が存在するタイミングで撮影します。肺動脈内に血栓や塞栓が存在した場合,造影剤により高濃度を示す肺動脈内に造影効果がみられない「欠損」部位が認められ,それが診断の決め手となります(図)。
図 胸部造影CT画像 |
左右の肺動脈にまたがるような造影欠損域がある。肺血栓塞栓症(サドル型)の診断。 |
PEの重症例は致死的であるため,早急に的確な診断を下し,一刻も早く抗凝固療法を開始することが肝要です。一方で,PEの症状は胸痛,呼吸困難など非特異的なものが多く,診断に苦慮することは少なくありません。CTへのアクセスが良い本邦のみならず,欧米でもPEのための造影CTは,施行閾値が下がりやすい検査の一つとして知られています。
CT装置やソフトウェアの進歩により,最近では比較的低被ばくでの撮影が可能になったものの,PE診断のためのCT検査では5~10 mSv程度の被ばくを伴います。女性においては曝射範囲内に乳腺が含まれることも懸念事項の一つです。また,PEの原因のほとんどが深部静脈血栓症であり,下肢まで含めた広い範囲の静脈相撮影が追加されることがあるため,その場合はさらに被ばく線量が増加することになります。ヨード造影剤に対する副作用のリスクもあり,PEが疑わしい患者には確実に造影CTを施行して早期診断・治療をめざしつつも,疑わしくない患者には施行しないという「賢い選択」が必要になってきます。
どの程度の大きさの塞栓から治療するか
CTの高性能化により,非常に小さな塞栓まで検出可能となりました。それによって「どの血栓サイズまでが治療対象となるのか?」という新たな問題が生じています。一般的な治療法は抗凝固療法ですが,出血リスクが上昇するため安易な施行は勧められません。現在,確立したエビデンスは存在しないものの,2016年に米国胸部疾患学会(ACCP)から出されたガイドライン1)では,「区域動脈より末梢の塞栓で,それよりも中枢の肺動脈に塞栓がなく,近位深部静脈血栓もなく,かつ深部静脈血栓の再発リスクも低い場合は,抗凝固薬よりも経過観察を勧める」がグレード2C(低いエビデンスに基づく低い推奨)とされています。症状・兆候がない患者に造影CTを行い,積極的治療を要さない小さな塞栓に対して抗凝固療法を施行すると,治療によって得られる利益よりもリスクのほうが大きくなってしまう可能性があります。
検査前確率を推定する
PEの検査前確率の評価方法は比較的......
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。