胃瘻を適切に使うには?(玉井杏奈)
連載
2017.05.08
ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス
高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。
[第14回]胃瘻を適切に使うには?
玉井 杏奈(台東区立台東病院 総合診療科)
(前回よりつづく)
症例
79歳男性,脳梗塞により右不全麻痺,嚥下障害,認知機能低下を来して入院中。経鼻栄養をしながらリハビリ中だが,経口摂取を確立できるほどの状態ではないまま2週間が経過した。そろそろ胃瘻を検討する時期かと考えている。
ディスカッション◎高齢者に胃瘻を造設した場合のメリット,デメリットは?
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胃瘻造設の目的は大別して長期的な経腸栄養と胃内の減圧である。同様の目的で用いられる経鼻胃管は胃瘻と比較して潰瘍形成や鼻出血などのリスクが高いため,30日未満の使用が望ましい1)。
医療者が胃瘻に期待するメリットは,栄養状態の改善,余命の延長,投薬ルートの確保,褥瘡の予防・治療,消化管通過障害による症状の軽減などであるが,実状は適応疾患により異なると言える1)。例えば嚥下障害に対しての胃瘻栄養を経鼻栄養と比較すると,致死率,体重増加量,上腕周囲径などのベースラインからの変化量に違いはないが,胃瘻栄養のほうが介入を継続できる率が高く,QOLへの影響が少ないことがわかっている2)。
デメリットについては,手技による痛み,感染症や皮膚トラブルといった合併症,逆流や自己抜去のリスク,メンテナンスのための身体的・経済的負担,介護負担に加え,経鼻栄養よりは少ないもののQOLへの影響が挙げられる1)。
各疾患群における胃瘻の位置付け
◆高度認知症
高度認知症患者の嚥下障害に対する胃瘻栄養は,その後1年以内に約半数が亡くなり,余命の延長効果はない3)。一方で自己抜去の危険性があり,その場合は胃瘻の再挿入,再造設のために新たに病院を受診する必要性や,身体的・経済的負担が生じることとなる。身体的・化学的拘束が行われ,結果としてさらなる廃用や褥瘡につながることもある。また,患者の同意が得られないままに手技が行われがちである1, 3)。米国のChoosing Wiselyキャンペーンでも,老年医学会をはじめとした複数の学会が「高度認知症において胃瘻は推奨されず,少量でも慎重な食事介助による経口摂取の継続のほうが望まれる」としている4)。
◆脳血管疾患
虚血性脳梗塞の場合,高齢,中大脳動脈領域,大きな病巣,意識障害などがあると,胃瘻造設が必要となるリスクが高くなる5)。出血性脳梗塞の場合も高齢,出血量>30 mL,意識障害が胃瘻造設の予測因子である6)。
脳梗塞後の嚥下障害に対しての胃瘻栄養は,経鼻栄養と比較して治療を継続できる率が高く,消化管出血が少なく,アルブミン値が保たれるが,致死率には差がない7)。脳梗塞による嚥下障害を生じた患者のうち75%は発症後3か月以内に嚥下機能が回復することも留意すべきである8)。経時的に嚥下機能の再評価を行い,可能であれば経口摂取に切り替えていくと良いだろう。若年でADL改善のスピードが速く,急性期病院入院中にADLが改善している場合,経口摂取が再開できる見込みが高い9)。
◆悪性腫瘍
頭頸部腫瘍や消化管腫瘍の治療に当たり,栄養の確保や通過障害による症状緩和のために,一時的に,あるいは永久的に造設するケースがある1)。ステージや治療方針により意味合いが大きく異なり,十二指腸瘻などの選択肢も存在することから,今回は詳しくは触れない。
◆神経難病
ALSやパーキンソン病等の神経難病に対する胃瘻は,特に判断の難しいところであろう。疾患が進行性であることから,基本的には不可逆的な医療介入になると想定される。観察研究の結果からは,胃瘻栄養......
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