臨床でせん妄にどう対応する?(狩野惠彦)
連載
2017.06.05
ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス
高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。
[第15回]臨床でせん妄にどう対応する?
狩野 惠彦(厚生連高岡病院 総合診療科)
(前回よりつづく)
症例
85歳女性。軽度の認知障害,脳梗塞,高血圧,糖尿病の既往あり。転倒後の大腿骨頸部骨折のため入院し手術を施行。術後,認知障害が急速に増悪し,つじつまの合わないことを話す,点滴を抜去する,夜間に大声を出すなどの行動が出現した。
ディスカッション◎せん妄とは?
|
せん妄は高齢者の診療においてよく見られる病態であり,予後不良因子の一つとして挙げられる1)。その一方で,せん妄は,それと認識されずに適切な評価や治療を受けていないことも少なくない。一般的に70歳以上の高齢患者が入院した場合,3人に1人がせん妄を起こすと言われている。うち半数は入院時にすでにせん妄を発症しており,残りの半分は入院中に発症すると言われている2)。
一般診療医による診断・治療が重要
せん妄とは,注意力の低下を伴う急性の意識変容のことを指す。意識レベルの変化は短時間(数時間~数日)のうちに発症し,症状が日内変動する傾向がある。主たる症状としては注意力の低下が挙げられるが,他の認知領域(記憶や言語能力などの高次機能)にも影響することがある。
せん妄は精神疾患であり,専門外の病態だというイメージを持つ方もいるかもしれない。実際,せん妄の定義は米国精神医学会の『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』に定められている3)。しかし,前述のように発症頻度が高く,その30~40%は予防可能であり4),またその治療の主体が抗精神病薬などの薬物療法ではないことから,一般診療医においての診断,治療がとても重要になると考えられる。
せん妄には過活動型と活動低下型がある。過活動型は,暴れたり,徘徊したり,興奮したりとわかりやすいことが多い。しかしこのタイプのせん妄は全体の25%にすぎないと言われている2)。活動低下型は無関心,無気力といった症状が見られたり,傾眠・昏睡状態に陥ったりなど,それとわかりにくいことが多い。中には過活動型と活動低下型を行ったり来たりする患者もおり,注意深い観察が必要である。
せん妄はどのようにして起こるのか,詳細はわかっていない。現在一般に受け入れられている考え方では,素因と誘発因子(表1,2)が複合して起こると言われている。もともと持っている素因が多いほど,少ない誘発因子で発症すると考えられている。
表1 せん妄の素因2, 4) |
表2 せん妄の誘発因子2, 4) |
診断にはCAMが有用
臨床現場で診断に用いられるツールとしてはCAM(the Confusion Assessment Method)が挙げられる5)(表3)。このアセスメント法は複数の研究によって検証され,感度94%,特異度89%とも報告されている6)。
表3 CAM |
せん妄の診断で必要になるのが,患者のもともとの意識レベル,認知障害の程度などのベースラインの情報である。せん妄を疑う患者の場合,本人から問診を取ることは難しいことが多いため,家族や介護者といった周囲の人々からの情報収集が重要になる。
また,せん妄で大切なのが,注意力の評価である。ベッドサイドで使用できる簡易な評価法の一つが,数字の逆唱である。正常者では5~7桁可能と言われている。しかしせん妄患者の場合は3桁以下で......
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