医学界新聞

連載

2017.01.09



臨床医ならCASE REPORTを書きなさい

臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。

水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)

■第10回 Editorial officeのお仕事


前回よりつづく

 趣向を変えて,今回はEditorial office(編集室)についてご紹介します。Editorial officeには,第5回(3186号)第6回(3190号)で少し触れました。皆さんが頑張って書いた論文を受け付け,担当Editorに送付する前に,投稿規定に照らし合わせて不備がないかのチェックを行い,Acceptされた論文の英文校正(の手配),文献表記の確認やその他のこまごまとした修正について著者とやりとりし,論文の公表をお手伝いする部署です。

 いろいろな書籍やJournalでEditor in Chief(編集長)からのコメントは読めますが,Editorial officeの方の率直なコメントを聞く機会はなかなかありません。聞いてみたいと思いませんか? 聞いてみたいはずです。というわけで,日本内科学会英文誌『Internal Medicine』Editorial officeの小笠原功明さんにお話を伺いました!

よくある不備は?

小笠原功明氏
 Editorial officeの現場にはさまざまな苦労があります。読者の皆さんは大丈夫だと思いますが,「明らかに投稿規定を読んでいない」先生が非常に多いとのことです。投稿規定は読んでほしい……。そんな切実な声を聞きました。私もささっとしか読んでいないので,耳が痛いです。

 よくある不備は以下の3つ。

・Title pageがない
・Abstractの文字数が多い
・連絡先がない
(Corresponding authorの連絡先がない)

 Title pageについて,本連載ではまだ触れていませんでしたね。Title pageには,通常以下の1~8を記載します。さらに9まで必要なこともあります。

1. タイトル(文字通り論文のタイトル)
2. 著者名
3. 所属
4. Corresponding author名
5. Corresponding authorの所属と連絡先
6. Brief title(短いタイトル)
7. Word count(abstractも)
8. Key word
9. COI/Fundingなど

 多くの場合,論文の1ページ目をTitle pageにして2ページ目からAbstractや本文を書き始めます。Journalによっては,本文とは別のファイルでTitle pageを提出することもあります(分けて提出するJournalはブラインドで査読をしてくれそうな気がして,個人的には良いイメージがあります)。

 Abstractの文字数は,Accept後でも調節できるだろうと思いがちですが,真っ先に差し戻しの原因になるそうです。要注意です。

 Corresponding authorは,日本語では単に“連絡先”と表記されていることが多いですが,Editorial officeとのやりとり,さらには論文公表後に問い合わせがあったときに責任が取れる人を記載しましょう。意外に知られていないのですが,重要なポジションです(1st,2nd,3rdの著者が重要という話は皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが,Corresponding authorも非常に重要なのです)。

 ただし,私の経験から一つ注意があります。Corresponding authorの連絡先(メールアドレス)にはOpen access journalから本当にどうでもよいメールが毎日大量に来るということです。1日に100件はくだらないと思います。これだけがデメリットです。ただ,世界の先生方と連絡を取り合うのもこの連絡先になるので,ある程度許容せざるを得ません……。

よくある問い合わせ

 「私の論文どうなってますか?」と査読がどこまで進んでいるのか,査読者は決まっているのかといったことまで聞かれて困ることがあるそうです。さらに,「次のJournalに出したいから,現在の査読のニュアンスを教えてくれ」という問い合わせもあるとか。気持ちはわかりますが,まぁ教えられませんよね。

 なぜそんな問い合わせがあるのか? 事情を伺うと,一番多いのはやはり専門医取得に必要だからだそうです。専門医取得に論文掲載が必要な場合,ギリギリではなくできる限り早めに出しましょう。私の感覚では,論文を書いて投稿してAcceptされるまで,初めての論文は1年。その後も少なくとも6~8か月くらいは掛かります。『Internal Medicine』では大体半年とのことです。専門医取得に必要なら,この連載を読み終わったら今すぐ出すくらいの気持ちでいてください。

苦情もあれこれ……

 第8回(3199号)で紹介したように,Editorial officeでも英文校正をしてくれます。私は非常に助かっていますが,英文校正への怒りの声も年に2~3件あるそうです。

・僕は英語ができるのになぜ直されるんだ!
・自分で費用を払って英文校正に出してあるのに,なぜ直すのか?

 両方とも正しい主張なのかもしれません。英文校正には好みもあるでしょう。しかし,編集室は板挟みです。英文校正者や編集室の苦労も考え,ただ怒るよりは,落としどころを見つけてより良い論文に仕上げるのが良いと思います。ちなみに『Internal Medicine』では,Acceptした全論文をMedical Englishを専門とするブライアン・クイン先生(Japan Medical Communication総合編集長)が英文校正しているとのことでした。私にとってはうれしいことですが,10人いれば10の考え方があるのでしょうね。

Authorshipには要注意

 共著者全員へのメールに関しての苦情も年1回ぐらいあるそうです。『Internal Medicine』では,投稿した時点で共著者全員に投稿確認のメールが行きます。もしRejectされたら嫌だなぁ,こっそり出して結果を知りたい,という1st authorの気持ちもわかりますが,編集室の方針だから仕方がないですよね。個人的にはAuthorshipの問題を考えれば,全部Openでも良いような気がしますが,メールアドレス登録が面倒だという側面には同意します。

 ちなみに編集室側はまた違った観点からも見ていて,連絡先が全てフリーメールだと少し心配されるようです。私もGmailを利用していますが,大学などには送付できないことがありますよね。信頼性という点で要注意です。

 その他,「共著者の追加・削除に関する騒動に巻き込まれた……」という苦情の話は,小笠原さんに伺っていて大変そうでした。共著者の追加・削除は基本的にできません。論文作成した時点でしっかりと誰を共著者にするか考えておいてください。Authorshipは,医局や病院の上司とも事前にしっかり相談しておくことが大切です。

絶対にしてはいけない!

 最後に,著者の信頼性に関する話です。論文投稿で注意してほしいことは多々ありますが,これだけは本当にしてはいけないこと,それは

剽窃・盗用
・二重投稿

です。『Internal Medicine』でも,実際にあったそうです。

 剽窃・盗用に関しては,本連載でも何回か話題に出していますよね。どこかの教科書からコピーやスキャンしたものをそのままImagingに出してきたという驚くべきツワモノから,他の論文のコピペまで,幅広くあるそうです。完コピではなくとも,He/sheといった主語を変えたり,内容を少し変更したりしただけのものも剽窃になります。

 二重投稿は,文字だけ見るとそりゃあ悪いことだろうとわかるのですが,背景にはさまざまな物語があるようです。例えば,和文で投稿したものを英訳して別のJournalに提出するといった,言語を変更しての二重投稿。最初はOpen access journalに投稿したものの,あまりにも費用が高かったためにretraction(掲載辞退)の連絡をし,そのまま他のJournalに投稿したところ,掲載辞退の連絡をしたはずのOpen access journalに掲載されてしまったという二重投稿。悪気はないのかもしれませんが,事情があってもダメなものはダメ。注意しましょう。

 ちなみに,なぜこれらがわかったかというと,Reviewerが発見するそうです。すごくしっかりと調べてくれていますね。感動しました。私がReviewerをしたときには文章一つひとつを確認したりはしませんでした。質の高いReviewer,しっかり読んでくれている人がいることに姿勢を正す必要性を感じます。

Editorial officeと良い関係を

 顔の見えない相手との人間関係は,得てして相手を思いやらない関係になりがちです。Editorial officeにも人がいて,その協力があってこそ多くの論文が発表されているということへの感謝の気持ちを持ちましょう。その上で自分の論文がAcceptされれば,これほど素晴らしいことはありません。論文を書くこと自体も個人の成長にとってもちろん大事ですが,掲載までの過程でかかわる方々のことも考えられるような人間性の成長が加われば,本連載の意義を感じます。

 

つづく

謝辞
今回貴重なお話をご教示くださった小笠原さんはもちろん,前Editor in Chiefの山科章先生,現Editor in Chiefの赤水尚史先生,および日本内科学会の関係者の方々に深く御礼申し上げます。

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