医学界新聞

連載

2016.08.01



ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス

高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。

[第5回]骨粗鬆症治療薬,どう選ぶ?

森 隆浩(亀田総合病院 総合内科)


前回よりつづく

症例

 高血圧の既往のある76歳女性が人間ドックで骨粗鬆症を指摘され来院となった。骨折歴はない。骨密度検査では大腿骨近位部でTスコア-3.2であった。


ディスカッション

◎治療を開始する適応は?
◎どの薬剤を選択すべき?
◎治療開始時の注意点は?
◎休薬のタイミングは?

 日本における骨粗鬆症の患者数は1280万人(男性300万人,女性980万人)1,2)と推定されており,骨折予防,生活機能とQOL維持の観点などからその予防と治療が重要になる。今回は主に薬物治療に焦点を当て,骨粗鬆症の治療について考えていきたい。

薬剤選択は,骨折の抑制というハードアウトカムに注目する

 薬剤選択に際しては,骨密度(BMD;Bone Mineral Density)の上昇というソフトアウトカムだけでなく,骨折(椎体骨,非椎体骨,大腿骨近位部)の抑制といったハードアウトカムに注目することが望ましい。

 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2)では,原発性骨粗鬆症・脆弱性骨折がない患者であっても,BMDがYAM(Young Adult Mean)の70%超80%未満であり,かつFRAX®の10年間の主要骨折の確率が15%以上,あるいは大腿骨近位部骨折の家族歴がある場合には薬物治療の対象となる()。骨粗鬆症の薬物治療の主な選択肢としては,ビスホスホネート,デノスマブ,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM),副甲状腺ホルモン製剤等が挙げられる。

 原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準2)

ビスホスホネート(アレンドロネート,リセドロネート)
 第一選択薬である経口ビスホスホネートは朝起床時に服用する,服用後30分は横にならないなど,使用に当たってはいくつか注意点がある。そのため,食道狭窄やアカラシアといった食道通過を遅延させる障害を持つ患者や,服薬後に立位または座位を30分以上保てない患者には使用を控える。また腎排泄型のため,腎不全のある患者への使用には注意が必要となる。

 主な副作用に,食道・胃腸障害,顎骨壊死,非定型大腿骨骨折が挙げられる2)。顎骨壊死は侵襲的な歯科治療後に生じることが多く,経口ビスホスホネートによる発生率は1万分の1/人・年以下と推定されている3)。口腔ケアの状態を評価するとともに,抜歯などの歯科的処置を予定している場合には,投与の延期を検討する。非定型大腿骨骨折は大腿骨転子下あるいは骨幹部骨折の発生を指し,ビスホスホネートの長期投与患者で報告されている。3~50/10万人・年と頻度が低いことから,実際の臨床で問題となることは少ない4)

 アレンドロネート,リセドロネートは椎体骨折,非椎体骨折,大腿骨近位部骨折のいずれに対しても有効性が示されている。メタアナリシスの結果では,アレンドロネートの大腿骨近位部骨折に対する相対危険度は0.47(95%CI 0.26~0.85),椎体骨折に対して0.55(95%CI 0.43~0.69),手首骨折に対して0.50(95%CI 0.34~0.73)と報告されている5)

 治療開始後にいつ効果を判定すべきかに関する明確なコンセンサスはないが,開始1~2年後に骨密度を測定するという推奨があ......

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