個別性を重視した糖尿病管理とは?(関口健二)
連載
2016.09.05
ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス
高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。
[第6回]個別性を重視した糖尿病管理とは?
関口 健二(信州大学医学部附属病院/市立大町総合病院 総合診療科)
(前回よりつづく)
症例
数年前に近医で糖尿病の気があると言われた76歳女性(身長150 cm,体重50 kg,血清Cr 0.66 mg/dL)。ADL自立で認知機能正常。尿路感染症で入院し,2型糖尿病であることが判明した(HbA1c 7.8%,空腹時血糖160 mg/dL)。尿路感染症は抗菌薬加療で速やかに改善したが,糖尿病管理を行うこととなった。
ディスカッション◎治療目標をどう立てるか?
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超高齢社会の中で,「個別性を重視した治療」の実践が叫ばれている。耳に心地良い言葉ではあるが,具体的にはどういうことか。今回は糖尿病の薬物治療に関してこの点を考えてみたい。
血糖コントロールは手段であって,目標ではない
糖尿病治療における個別性を考える際,まずは治療の目標を整理する必要がある。全ての患者に適用可能な大目標は「QOLの維持・向上」である。その大目標を達成するために,表のような項目が治療目標として挙げられる。
表 糖尿病治療の目標 | |
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糖尿病治療というと,血糖コントロールに目が向きがちである。しかし血糖コントロールは手段であって,目標ではない。目の前の患者にとって,より大切な目標は何なのか,何を目標に治療介入していくべきかを意識して,大目標であるQOLの維持・向上をめざすことが「個別性の重視」である。
治療による血管合併症抑制効果
次に考えるべきなのは,高齢者への治療介入によって表の治療目標がどの程度達成できるかという点であるが,後期高齢者を含む臨床研究は非常に少ない。ACCORD試験では低血糖リスクの上昇を理由に,試験開始早期に80歳以上の患者のリクルートは禁止された1)。われわれは限られたエビデンスを基に,最も適している(だろう)判断をしなければならない。
①大血管合併症(心筋梗塞,脳梗塞など)
厳格な血糖コントロールを行った4つのRCT(UKPDS,ACCORD,ADVANCE,VADT)で,大血管合併症発生率に有意差が出なかったことは有名である。しかし,その後の長期間観察フォローアップ研究では,理由は定かではないものの,ADVANCE以外の3つの研究では厳格な血糖コントロール群で大血管合併症の抑制効果を認めており,初期の厳格なコントロールの後,10年間の経過を経て抑制効果が現れることが示された2)。80歳以上の高齢者を含んでいないことからこの結果をそのまま適用することはできないが,治療目標を設定する上で参照したい。
抑制効果の違いはどうだろうか。現在日本には7系統もの経口血糖降下薬があるが,大血管合併症による死亡率を減らすことが示されている糖尿病薬は,メトホルミンだけである3)。
◆メトホルミン
メトホルミンの大血管合併症の抑制効果はメタ分析でも証明されている4)。75歳以下,eGFR≧45 mL/分で,大血管合併症抑制をめざすのであれば,新規導入であっても積極的(かつ慎重)に選択したい。欧米では,「禁忌が無ければ第一選択,年齢による制限の記載なし,eGFR<45 mL/分で慎重投与・減量,eGFR<30 mL/分で禁忌」としているガイドラインが多い。
「日本人と欧米人は違うから,欧米のガイドラインをそのまま適用するのはナンセン......
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