目的別量的研究ガイド(5) 尺度を使いたい(加藤憲司)
連載
2015.03.23
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第15回:目的別量的研究ガイド (5)尺度を使いたい
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3114号よりつづく)
「目的別量的研究ガイド」の最後に,尺度を使って研究する場合のポイントについて解説します。看護学分野ではさまざまな尺度が開発され,かつ利用されていますから,尺度について学んでおくことは量的研究にとって,とても重要です。
測れないものを測ろうとする物差し
第4回(第3073号)で述べたように,量的研究では世の中の現象を数値化して表し,それに基づいてあれこれ調べたり判断したりします。世の中の現象のうち,温度・濃度・圧力などは,測定機器さえあればどこでも誰でも測定可能です。でも,私たちが学問的に知りたい現象の中には,そういった便利な測定器具が存在していないものが少なくありません。例えば抑うつ・痛み・人生満足度などの主観的・心理社会的な抽象概念が代表例です。
看護学において研究対象としたい現象には,そうした抽象概念が多く含まれています。そこで,測れないものを何とかして測ろうという目的で作られた物差しが尺度です。そして,尺度を使って測定しようとしている心理社会的な抽象概念を「構成概念」と呼びます1)。
構成概念は目で見たり手で触れたりできないものなので,それを測定することは容易ではありません。通常,先行研究を踏まえた理論的な検討を行った上で,複数の測定項目をひとまとまりにして,尺度が構成されます。このように測れないものを測れるようにすることで,心理社会的な現象に関する多様な研究が可能となり,人間に対する理解が飛躍的に高まりました。後述するように,尺度を新たに作ることは難事業であり,有用な尺度を開発することの学術的な価値は極めて高いと言えます2)。
尺度開発に飛び付く前に
さて,あなたが自分の研究上の問いを立て,それに答えるために,ある抽象的な概念を測りたいと考えたとします。そのとき,あなたが最初にすべきことは,広範かつ詳細にわたる先行研究の文献検討です。まず,自分が測りたいと考えている現象を測るのに使えそうな既存の尺度がないか,くまなく探しましょう。それらしき文献が見つかったら,その中身を詳しく検討し,その尺度が何を測ろうとするものなのか,その尺度を使うための基準や条件が,自分の研究目的と合致しているかを見極めます。その結果,既存のどの尺度も自分の研究に適していないと結論づけられたら,あなた自身が尺度を開発するしかありません。
実際,心理学分野ではおびただしい数の尺度が次々と開発されています。でもその実態は,よく似た構成概念について多くの尺度が乱立している状況だとも言われています2)。尺度が乱立することの最大の問題点は,ある研究で尺度を用いて得られた知見と,それに似た尺度を用いた別の研究の知見とを比較したり,それらの知見を統合したりすることがどこまで可能であるかがわからない点です。異なる研究同士を比較可能にすることが量的研究の大きなメリットですから(第4回参照),尺度の乱立はそのメリットを大きく損ねることになります。
では,なぜ尺度が乱立してしまうのでしょうか? 理由の一つは,研究者というものは,他人が作った尺度の欠陥を過大評価しがちな半面,自分が新たな尺度を作る際の苦労については過小評価して楽観的にとらえがちだからです3)。一つの尺度を開発するには実に3-6年もの年数がかかり,それだけで博士論文の研究となり得るものだと言われています4)...
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