量的研究の魅力(加藤憲司)
連載
2015.04.27
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第16回(最終回):量的研究の魅力
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3118号よりつづく)
長らくご愛読いただいてきた本連載も,今回が最終回となります。第1回(第3061号)に述べたように,本連載の目的は「読者の皆さんの,量的研究に対する心理的ハードルを下げること」でした。でも,いくらハードルが下がったとしても,皆さんに「跳ぼう」という気持ちがなければ,何にもなりません。そこで最後にもうひと押し,皆さんの背中を押してみたいと思います。
量的研究は単純明快
第4回(第3073号)で説明に用いたスポーツの例えを思い出してください。冬季オリンピックのフィギュアスケートや夏季オリンピックの体操,新体操,シンクロナイズドスイミングなどは,審査員の採点によって優劣が決まる競技です。これらの競技をただ眺めて楽しむことはもちろんできますが,優劣を評価できるようになるためには,一定程度以上の知識と経験を必要とします。言い換えれば,採点形式の競技は玄人判断に任されているのです。しかも,審査員によって評価は大なり小なり異なりますね。そういうところがとっつきにくいと感じる人もいるでしょう。
それに対して,スピードスケートやスキージャンプ,陸上100メートル走やマラソン,走り幅跳び,競泳などは,優劣の決め方がシンプルです。すなわち,いちばん速くゴールに到達した人,いちばん遠くまで跳んだ人が勝ちというわけです。これなら,そうした競技の経験がまったくない人,つまり素人であっても容易に優劣を判断できます。また,1位・2位・3位といった順位は,誰が見ても同じですね。そういう単純明快な競技を見ると,筆者はとてもスカッとします。たぶん,同じように感じている人は少なくないでしょう。
今挙げた,玄人判断が必要な競技と素人でもわかるシンプルな競技の違いは,研究における質的研究法と量的研究法の違いと相通じるものがある,と筆者は考えます。質的研究法の個々の手法はそれぞれの手法ごとに知識や経験の蓄積が要求されます。それは例えば,「フィギュアの審査技術を身につけたらシンクロの審査もできるようになる」ということがないのと似ています。一方,量的研究法はちょうど,「スタートと同時に計測を始めて,ゴールまでのタイムを競う」という,共通のルールで機械的に結果が出るのと似ています。実際,0コンマ何秒のタイムを争うような競技の計時は機械が行いますね。量的研究法の場合は,データが同じならば誰がやっても結論は同じです。こうした両研究法の特徴の違いを,筆者は連載第1回で「質的研究法はheterogeneous」,「量的研究法はhomogeneous」と表現しました。これらはどちらが良いとか悪いという問題ではありません。かつては「量的研究法でなければ科学的とは言えない」といった風潮がありましたが,それは「タイムを競わなければスポーツじゃない」と主張するぐらいにナンセンスなことだと言えます。フィギュアスケート選手とスピードスケート選手との間に何の対立もないように,質的研究者と量的研究者との...
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