目的別量的研究ガイド(4)問いのモデル化(加藤憲司)
連載
2015.02.23
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第14回:目的別量的研究ガイド (4)問いのモデル化
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3110号よりつづく)
前回,予測をしたい場面において,モデルの考え方を紹介しました。モデルを作ることは統計の基本です。そこで,モデルの考え方を用いて,量的研究のポイントをあらためて説明します。
あなたの問いをモデル化しよう
本連載で何度も強調してきたように,量的研究で最も重要なポイントは「研究上の問い」です。問いはあなたが研究を進めるにあたっての大切な道しるべであり,また研究に関して指導者や他の研究者と議論する際の土台になるものです。この時,問いの内容をわかりやすく示した図があれば,研究計画を立てたり他者と情報を共有したりする上でとても役立ちます。そのため,研究の全過程にわたって,問いをモデル化したものを用いて考えることを強くお勧めします。
図Aを見てください。研究上の問いはこのように,2つの概念(X,Y)同士の関係性が柱となります。ここで言う概念とは,研究対象の持つ特性や要因,現象,あるいは介入の内容や効果などを総称したものと考えてください。また矢印は,影響する,されるという関係の方向を示します。単純なモデルですが,ここにはあなたの問いが仮説として表されています。すなわち,「Xという要因が存在すると,Yという結果がもたらされる」「XはYに影響する」「XはYを予測する」といった仮説がこの図に込められていることになります。また,第11,12回(第3101,3105号)で述べたように,量的研究では比較対照を置くことが必須です。したがってこの図は,「要因Xが存在しない場合(=比較対照),結果Yがもたらされない」ということも合わせて示していると言えます。
モデルにおいて,矢印の向きを決めることはそう簡単ではありません1)。例えば,ある調査で「過去3か月間にどれくらい運動をしましたか?」「過去3か月間で風邪を何回ひきましたか?」という質問をしたとします。その結果,運動の量が多い人ほど風邪の回数が少なかったとしましょう。でもこれだけの結果から,「運動をすれば風邪をひきにくくなる」とは言えませんね。風邪をひいたから運動できなかったのかもしれませんから。こうした「因果の逆転」すなわち原因と結果がひっくり返ることは珍しくありません。問いを立てるときには,矢印の向きに思い込みがないかどうか注意しましょう。
図 第3の因子の作用を想定したモデルを作る |
第3の因子をモデルに含める
さて,話がXとYだけで済めばモデルを作ることは難しくないのですが,なかなかそうはいきません。なぜなら,XとYの関係性が,それら以外の「第3の因子」によってゆがめられている可能性があるからです2)。図Bを見てください。ここでは先ほどの運動と風邪の例を再び用いています。仮に「運動→風邪」の矢印の向きが正しいとしても,これらの間の関係が真実とは限りません。例えば,所得などの社会経済状態が恵まれた人ほど運動する余裕があり,なおかつ健康にも気を配るから風邪をひきにくい,という可能性が考えられるからです。この場合,社会経済状態が第3の因子として作用していることになります。あるいはもっと単純に,年齢が若い人ほど運動の量が多くて風邪をひきにくい,ということだってあるでしょう。
このような第3の因子として作用するものはたくさんあり得ますから,研究計画を立てる際には,自分の仮説をゆがめる可能性のあるものをできるだけ排除する必要があります。そしてこうした第3の因子を検討する上で...
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