医学界新聞

連載

2014.11.03



診断推論
キーワードからの攻略

広く,奥深い診断推論の世界。臨床現場で光る「キーワード」を活かすことができるか,否か。それが診断における分かれ道。

■第11回……泣き叫ぶ女性,その真相は!?

山中 克郎(藤田保健衛生大学救急総合内科教授)=監修
田口 瑞希(藤田保健衛生大学救急総合内科)=執筆


3095号よりつづく

【症例】

 36歳,女性。「数時間前から,急に訳のわからないことを言って泣き叫んでいる」と,家族が救急要請。救急隊の接触時,意味不明のことを言って泣き叫んでおり,意思疎通困難。バイタル測定もままならず,何とか身体を抑えてストレッチャーに固定した上,救急車に収容したという。

 当院搬入時も意味不明な言動があり,意思疎通ができない状態。診察,検査もままならなかったため,何とか抑えつけるようにして静脈路を確保し,ミダゾラムで鎮静。患者が落ち着いたところで診察を開始した。

 身体所見,神経学的所見,採血,X線,心電図,頭部-骨盤部CTを施行するも,明らかな異常を認めなかった。妊娠反応も陰性。脳炎も疑い,髄液検査,頭部MRIを施行したが,ここでも異常所見を認めなかった。鎮静が浅くなると再びせん妄状態になってしまうため,鎮静は継続。経過観察目的に入院となった。

 家族から話を聞くと,3年ほど前からよく腹痛を訴えるようになり,近くの病院の内科,外科,婦人科などを受診しており,いずれも「検査では異常がない」「原因不明」と言われていたようだ。大学病院にも紹介され,受診していたが,そこでも原因はわかっていなかった。

 2年前には激しい腹痛の訴えがあり,救命センターに搬送。諸検査を施行した結果から明らかな異常は認めなかったものの,痛みの訴えがあまりにも激しいため,試験開腹術を受けた。しかし,開腹所見でも異常を認めなかったという。その後もたびたび腹痛を認め,近くの病院を転々としたがいずれにおいても「異常がない」と言われていた。当院にも何度か腹痛を主訴に受診歴があった……。

[既往歴]不安神経症,2年前に原因不明の急性腹症で開腹歴あり,妊娠・分娩歴なし
[内服薬]ソラナックス® 0.4 mg 不安時頓服
[生活歴]たばこ(-),酒 機会飲酒
[来院時バイタルサイン]体温36.2℃, 血圧146/82 mmHg,心拍数110回/分,呼吸数32回/分,SpO2100%(room air)
[来院時意識レベル]せん妄状態
[来院時身体所見]眼瞼結膜:貧血(-) 黄染(-),顔面:苦悶様,頸部:圧痛(-) 甲状腺腫大(-),頸部リンパ節触知(-)項部硬直(-),肺野:呼吸音 清,心音:雑音(-)整,腹部:下腹部正中に手術痕あり 平坦/板状硬 圧痛の局在はっきりしない,四肢:浮腫(-) チアノーゼ(-) 皮疹(-)

……………{可能性の高い鑑別診断は何だろうか?}……………


キーワードの発見⇒キーワードからの展開

 患者が意味不明のことを言って泣き叫んでいる――。誰しも好んで遭遇したくはない場面であろう。本症例の患者は,不安神経症の診断を受けているようだが,それ以前にこうしたせん妄状態になったことはないようだ。経過としては急性の発症であるため,「急性な意識の変容」ととらえることができるだろう。その際に想起すべき疾患をに挙げる。本症例では,これらの疾患を想起しながら検査を進めるも,特に異常を認めなかった。そうなると,やはり「(7)精神疾患」ということになるのだろうか……。精神疾患と診断する前にもう一度病歴を振り返ってみたい。

  「急性な意識の変容」から導くべき鑑別診断リスト
(1)脳血管障害……「片側の麻痺+意識の変容」を認めた場合に疑う。痙攣後のTodd麻痺のこともあるので要注意   
(2)代謝障害……糖原病,アミロイドーシスなど,代謝産物の蓄積により意識の変容を認める。さまざまな代謝障害があるため,救急外来で診断することが困難なことも多い   
(3)てんかん……痙攣後に一過性に意識の変容を認める。痙攣が確認されていれば診断に近付けるが,確認されていない場合には診断に苦慮するかもしれない
(4)髄膜炎・脳炎……「比較的急性の意識の変容+発熱」を認めた場合には疑うべき疾患
(5)肝性脳症・尿毒症……肝疾患,腎疾患の既往がある場合に疑う
(6)薬物中毒……あらゆる薬剤で,意識の変容を認める恐れがあるため注意する
(7)精神疾患……身体疾患の可能性を排除したら,精神疾患を疑ってみる

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