医学界新聞

連載

2014.02.03

こんな時にはこのQを!
"問診力"で見逃さない神経症状

【第5回】
頭痛

黒川 勝己(川崎医科大学附属病院神経内科准教授)


3060号よりつづく

 「難しい」「とっつきにくい」と言われる神経診察ですが,問診で的確な病歴聴取ができれば,一気に鑑別を絞り込めます。 この連載では,複雑な神経症状に切り込む「Q」を提示し,"問診力"を鍛えます。


症例 患者:53歳,男性
主訴:頭痛
3か月前から,気付くと後頭部が重く締め付けられるような頭痛があった。横になって安静にすると軽快したが,1週間して目の焦点が合わないことも自覚したため,救急外来を受診した。頭部CT,さらには頭部 MRIも施行され,異常なし。その後1か月程度で目の症状は消失したため様子をみていたが,頭痛は続いたため神経内科を受診した。

 患者は後頭部の頭重感・締め付け感といった「頭痛」を訴えています。頭痛診療で最も大切なことは,「片頭痛」や「緊張型頭痛」といった一般的 (common)な「一次性頭痛」と,危険(critical)な「二次性頭痛」をきちんと鑑別することです。

 「二次性頭痛」は,何らかの疾患の存在を背景に発生する頭痛であり,「くも膜下出血」をはじめとする危険な疾患も原因としてあり得ます。二次性頭痛を見逃さないためには,頭痛の「Red Flag」を2つ知っておくことが大切です。本患者の"病歴"からは,一次性頭痛と二次性頭痛,どちらの可能性が考えられるでしょうか。

***

 既往歴としては,高血圧と脂質異常症がある。約2か月前に施行された頭部CT およびMRIでも異常は指摘されておらず,引き続き緊張型頭痛として経過をみることになった。

 頭痛の「Red Flag」,一つ目は"突然発症"の頭痛です。突発性に起こり,1分未満で痛みの強さがピークに達する「雷鳴頭痛」のような"突然発症"の頭痛であれば,たとえ患者が歩いて外来受診していても必ず,くも膜下出血を疑わなければなりません。

 その鑑別には下記の質問が有効です。

■Qその(1)「頭痛が起こった瞬間,何をしていましたか?」

 頭痛が起こった瞬間に何をしていたかが言える場合は,"突然発症"と考えられます。実際,私の父はくも膜下出血の最初の出血発作(minor leakあるいは警告出血とも呼ばれます)のエピソードを「朝,昆布茶を飲んだ瞬間にどーんときた」と日記に記載していました。その後,二度目の出血発作(major bleeding)が生じたため亡くなってしまいましたが,もし最初の発作でかかりつけ医を受診した際「Red Flag」に気付かれていれば,救われたかもしれません。この質問は,頭痛診療において最も重要な質問だと思います。

 さて,本患者の頭痛は,「気付くと後頭部が重く締め付けられるような頭痛があり」とのことから,"突然発症"ではなかったようなので,くも膜下出血は否定的と考えられます。頭痛の性状からも,確かに「緊張型頭痛」として矛盾しないように思われます。

 ではそのまま,経過観察としてよいのでしょうか。

***

 頭痛はその後も改善せず,受診の翌日には家族が話しかけてもすぐに目を閉じるようになった。薬を飲んだことも忘れるようになり,さらに翌々日には嘔吐したため救急搬送された。血圧 170/96 mmHg,脈拍 68/分,意識レベルは JCS 2桁,右上肢に軽い麻痺が示唆された。頭部 CT (図)により両側の慢性硬膜下血腫および切迫性脳ヘルニアと診断され,直ちに脳神経外科にて緊急手術が施行された。

 頭部CT
両側に三日月状の血腫があり(右図矢印),中脳が圧排され高度に変形し(左図),切迫性脳ヘルニアと考えられた。

 患者はその後も頭痛が持続し,意識障害を来し,嘔吐したため救急搬送されています。頭部CTが施行されたところ切迫性脳ヘルニアの所見があり,今にも呼吸が止まる状況であったため,脳神経外科にて緊急手術(両側穿頭ドレナージ術)が施行されました。

 その後,頭部MRIの所見などから「特発性低髄液圧性頭痛」と診断され,硬膜外自家血注入療法(いわゆるブラッドパッチ)で治療されました。当初の頭痛も「横になって安静にしていると軽快した」ことから起立性頭痛と思われ,目の焦点が合わない複視と同様「特発性低髄液圧性頭痛」に伴うものと考えられました。

 約2か月前に施行された頭部CT・MRIでは異常なしと診断されていた今回の患者。どうすれば,画像検査など再度の検索の必要性を判断できたのでしょうか。神経内科受診時に何を聴けば,このような事態を予測できたのでしょうか?

■Qその(2)「このような頭痛は初めてですか?」

 頭痛の「Red Flag」,二つ目は"new headache"です。"new headache"というのは,患者が"こういう頭痛は初めて"と感じるもの・訴えるもの全てを指します。もともと頭痛持ちの患者にも「これまでの頭痛と同じですか?」と聴くことで"new headache"か否かを判断することが大切です。

 日本神経学会・日本頭痛学会による「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では,9パターンの頭痛を,二次性頭痛を疑うべき頭痛として記載しています()。このうち(2)-(5),さらには(6)および(9)もここで言う"new headache"に含まれるものと考えられます。

 二次性頭痛を疑う9つのパターン(「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」による)
(1)突然の頭痛
(2)今まで経験したことがない頭痛
(3)いつもと様子の異なる頭痛
(4)頻度と程度が増していく頭痛
(5)50歳以降に初発の頭痛
(6)神経脱落症状を有する頭痛
(7)癌や免疫不全の病態を有する患者の頭痛
(8)精神症状を有する患者の頭痛
(9)発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛

 本患者に聴いたところ,当初は頭痛の程度も軽く,いつも午後になると起こっていたそうです。それが神経内科に受診する4日前から痛みがひどくなり,かつ午前中から痛むようになったとのこと。これは,頭痛の程度や頻度が増していく"これまでになかった"頭痛でした。神経内科受診時に,"new headache"と判断され,緊急で頭部 CTを施行していたら,早期の慢性硬膜下血腫が見つかり,意識障害に至らずに済んだかもしれません。

***

 今回は,特発性低髄液圧性頭痛が硬膜下血腫を来して急性に憎悪し,意識障害に至ったと最終的に診断されました。ただしプライマリ・ケアの場面においては,必ずしも診断までつける必要はなく,頭痛の「Red Flag」を見極められればよいと思います。

 ここでもう一例,"new headache"の例をお示しします。14歳中学生が頭痛のため母親に連れられて受診しました。小学生のころから「片頭痛」持ちのようでしたが「これまでと同じ頭痛ですか?」と聴くと,夏休みから頭痛がひどくなっている,つまり"new headache"と考えられました。さらに「起床時に吐いたりしませんか?」と聴くと,最近朝起きたときに嘔吐した,と母親が答えました。これは頭蓋内圧亢進症状と思われ,直ちに頭部 CT を施行すると,脳腫瘍が脳脊髄液の流れを妨げて水頭症を起こし,脳幹は圧排変形してもう少しで脳ヘルニアになりそうな状態で,脳神経外科に緊急入院となりました。

 こうした場合も,プライマリ・ケア医なら"new headache"と考えた時点で専門医に紹介すればよいでしょう。くどいようですが,頭痛の確定診断をつける必要はなく,二次性頭痛を見逃さないこと,そのために必ず2つの「Red Flag」を聴くことが大切です。頭痛持ちの患者に対しても,毎回これまでの頭痛と同じであるかを聴くことに加え,もしも"これまでで初めて"の頭痛が生じたら,直ちに受診するよう,日ごろからの患者指導も重要になります。

今回の"問診力"

頭痛の「Red Flag」は、"突然発症"と"new headache"である。頭痛持ちの患者に対しても「これまでと同じ頭痛か」を聴く。違うようなら"new headache"として検索を行う。

つづく

執筆協力:園生雅弘(帝京大学医学部神経内科主任教授)

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