口演スライドの作成では,まず何をする?(新美三由紀)
連載
2013.01.28
なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!
【第4回】
口演スライドの作成では,まず何をする?
スッキリしたスライドでしっかり伝えよう!
新美 三由紀(佐久総合病院看護部)
(3007号よりつづく)
この連載では,みなさんに「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と少しでも思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。
口演発表が決まった。スライドを作らなくちゃ……。ちょっと待って! いきなりPCに向かわないで。
今回から2回にわけ,スライド作成の方法を解説します。
口演発表の成功と安心のコツ――PCを立ち上げる前に
まず,学会の発表規定を確認しましょう。フォントや動画,ソフトのバージョン等はもちろんですが,「発表時間」の確認が重要です。
初めて参加する学会であれば,その学会の雰囲気や発表の特徴,会場の大きさなども先輩や医師に教えてもらいましょう。映写された文字が予想外に小さかったり,下部が聴衆の頭で見えなかったり,扱いにくいポインタで上手く指示ができないと焦ってしまうので,事前にスライドを工夫しておくためです。
口演発表では,教室くらいの小さな会場や,体育館のような会場を区切って行うこともあります。スライド作成時から,「想定外」を少しでも減らすための準備をすることが,安心と成功のコツです。
コンテ・アウトラインの作成
次に行うのは,「コンテ」作りです。紙と鉛筆を準備して全体のスライド構成を検討しましょう。「紙に書くよりタイプするほうが早い!」という方は,例えばPowerPointの「アウトライン」機能を使っても構いません。しかし紙には,どこでも進められ,かつ思いついた図表を大まかな絵として残すこともできる利点があると考えています。
この段階で,「表紙」「背景」「目的」「対象と方法」「結果」「結論」など全体の枚数配分を決めておくとよいでしょう。発表時間によってスライド構成や枚数は変わるので,この作業を大切にしてください。いきなり1枚1枚のスライドを作り始めると,後で分量調整が大変ですし,無駄な時間も費やしてしまいます。
スライドの枚数は,「1分1スライド」の原則にまずは従ってください。発表時間が8分なら8-10枚程度。表紙はこの枚数に含まなくてもよいですが,表紙を映写しながら背景を話すなら,表紙も1枚に含めましょう。10秒程度しか写さないスライドは,聴衆にはストレスになります。聴く立場から言えば,内容のあるスライドならせめて30秒は見せてほしいです。一方で,1枚を3分以上見せられてずっと話を聞くのも辛いものがあるので,「1分1スライド」はそれなりに納得のいく原則だと思います。もし情報量が非常に少ないスライドがあれば,その分枚数を増やす等,対応してください。
コンテには各スライドの「タイトル」と「簡単な内容」を書きます。このとき,発表のストーリーを意識してください。ここまで完成したら,本格的にスライド作りに移りましょう。
「伝える」ためのわかりやすいスライド作成
いよいよスライド作成です。ここでの注意点は,スライドはあくまで発表の補助であり「脇役」ということです。できる限り同時にスライドと発表原稿を作成しましょう。同時に書けない場合でも,発表原稿を意識してスライド作りをしてください。
最初にスライドの基本色とフォントを決めます。色とフォントが統一されていないと,内容的にも一貫性なく見えますし,粗雑な感じがします。フォントはゴシック系が良いでしょう。一般的に明朝体は論文など,文章で表現する書類で多く使われ,ゴシック体は図表や調査票等,箇条書きや枠内に言葉を入れるときに使われます。図によく使われるフォントを並べてみました。同じサイズでも文字の幅や見やすさがかなり違うのがわかるでしょう。
図 よく使われるフォント(文字サイズは同じ) |
フォントは,日本語と英語のバランスも意識して組み合わせるとよいでしょう。なお,英語表記に日本語フォント(MSゴシック等)を使うと,半角の英数字はやせ細って見えます。これを嫌って英数字を全角にする方がいますが,学会場のPCと設定が合わないと単語や数値データの途中で勝手に改行されてしまうことがあります。これは英数字を半角に統一すれば解決します。また,特殊なフォントも上手く表示されないことがあるため,標準的なフォントをお勧めします。
配色は,会場が明るい場合は白系背景で濃色の文字が,暗い会場の場合は黒・青系背景で文字は白や黄色が見やすいです。色を多用すると聴衆は混乱するので,以下のように基本を決めて統一するとよいでしょう。
背景を白系にする場合
文字:黒,強調文字:赤, 図表の文字:黒・赤・濃青・濃緑・濃ピンク 背景を黒・青系にする場合 文字:白,強調文字:黄, 図表の文字:白・黄・明るい赤・明るい緑・明るいピンク |
スライド1枚当たりの分量については,1枚に「これでもか!」と情報が詰まっているいわゆる“お役所スライド”は,研究発表では百害あって一利なしです。そのようなスライドはさまざまな人がいろいろな場で使用できるよう,多くの情報が記載されています。一方,研究発表は研究結果を伝えるという明快な目的があり,スライドも原則としてその時しか使わないため,伝えたいことだけが明確に書かれたスライドでなくてはなりません。話さない内容は,聴衆には結局伝わらないのです。
今回はスライド作成時の7つのポイントを最後にまとめました。学会直前でも,これらのポイントにしたがって少し手を入れるだけでスライドはグッと良くなります。
看護研究発表のスライドにもう一つ必要なこと
看護研究のスライドでもうひとつ気になることがあります。内容が“文章”で5行以上,時に10行以上書かれているスライドです。このようなスライドでさらに話す内容も異なっている場合,聴衆はまず理解できません。
私たちは“読む”“聴く”の一方しか集中できないので,聴衆を意識したスライド作りを心掛けてください。そのためには,できる限り箇条書きにする努力が重要です。どうしても文章で書かなければ伝えられない情報なら,原則としてスライドと同じ内容を話しましょう。
そのためにも,スライドと発表原稿を一緒に作ることが重要なのです。海外の学会では,実にシンプルなスライドで上手に話す演者をよくみかけます。主役は演者でありスライドは脇役,この関係がうまく働いているのですね。
良い研究は結果もシンプルです。タイトルと結論のスライド1枚だけで,何を言いたいかがわかります。スッキリしたスライドなら,伝えたい内容をシンプルに表現できるでしょう。そうすれば,その研究結果は聴衆の記憶に残ります。
研究発表の主役はスライドでなく“演者”! |
わかりやすいスライドを作るための“7つのポイント” (1)原則は,1分1スライド!
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(つづく)
COLUMN 研究発表と講演・講義でのスライドの違い
研究発表の目的は,研究結果を伝えることです。しかし,シンポジウム等の講演は,世の中の動向をレビューして演者の考えを述べ,討議することが目的です。またセミナーや講義では,その領域の知識や技術を偏りなく伝授することが求められます。めざすところはそれぞれで違うため,スライド内容も異なります。研究発表では,自分たちの研究成果のみ話せばよく,他人の研究成果を混在させてはいけません。比較対照として考察したい場合でも,明確に分離する必要があります。さまざまな場所で発表する機会が増えてきたナースにこそ,意識してほしいポイントです。 |
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