オバマケア合憲判決の「想定外」(2)(李啓充)
連載
2012.09.03
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第229回
オバマケア合憲判決の「想定外」(2)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(2990号よりつづく)
前回のあらすじ:2012年6月28日,2010年に成立した医療保険制度改革法(通称「オバマケア」)を葬り去るべく共和党・保守派が起こした「違憲訴訟」に対し,最高裁判決が下された。判決文の朗読が始まった直後,ニュースTV局2局が「オバマケアに違憲判決」とする速報を流した。
誤報の理由
なぜ,CNNとFOX Newsの2局が「違憲判決」の誤報を流したのか,その理由をご理解いただくために,判決文の流れに沿って,今回の判決内容を振り返ろう。
判決文の大半を執筆したのは,最高裁長官ジョン・G・ロバーツだった。2005年,ブッシュ政権下で指名されて長官に就任したことでもわかるようにもともと「保守派」と目されてきた上,3月に行われた審理の際にも,オバマ政権を代表する法務長官に対して厳しく批判する内容の質問を繰り返した。誤報を流したTV局の担当者が,執筆者の名を見ただけで,「違憲判決だ」とする予断を抱いたとしても不思議はなかったのである。
しかも,今回の訴訟で最大の争点となった「インディビデュアル・マンデート」(保険加入義務付け条項)は,憲法の「通商条項」(連邦政府が複数の州にまたがる通商行為を規制する権限)をめぐって争われたのだが,ロバーツが執筆した判決文は,「インディビデュアル・マンデートは通商条項で認められる権限を越え,憲法違反」と断じていた。誤報を流したTV局の担当者は,どうやら,判決文のこの部分までを読んだ時点で,「違憲判決」と信じ込んでしまったようなのである(註1)。
「通商条項の観点から見たら違憲」と裁定したのは,ロバーツを含めた保守派の判事5人であったが,ロバーツの判決文には,このすぐ後,「でも,インディビデュアル・マンデートはやっぱり合憲」とする「どんでん返し」が用意されていた。
「インディビデュアル・マンデートは,具体的には,保険に加入しなかった人に対し国税当局が罰則金を課すという仕組み...
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