Boys Be Conservative! 虚弱高齢者の薬物療法(大蔵暢)
連載
2012.05.07
高齢者を包括的に診る
老年医学のエッセンス
【その17】
Boys Be Conservative!――虚弱高齢者の薬物療法
大蔵暢(医療法人社団愛和会 馬事公苑クリニック)
(前回よりつづく)
高齢化が急速に進む日本社会。慢性疾患や老年症候群が複雑に絡み合って虚弱化した高齢者の診療には,幅広い知識と臨床推論能力,患者や家族とのコミュニケーション能力,さらにはチーム医療におけるリーダーシップなど,医師としての総合力が求められます。不可逆的な「老衰」プロセスをたどる高齢者の身体を継続的・包括的に評価し,より楽しく充実した毎日を過ごせるようマネジメントする――そんな老年医学の魅力を,本連載でお伝えしていきます。
虚弱高齢者への薬物療法の方針
虚弱高齢者に薬を投与したとき,効果の大きさにはばらつきがあり,一般的に副作用が出現しやすい。筆者の個人的な実感ではあるが,同調する方は多いのではないだろうか。老年医学の教科書には「加齢や疾患による循環,代謝,排泄機能の低下や筋肉量・体水分量の減少に個人差が大きいため,薬を服用したときの薬物動態や薬理作用にばらつきが生じる」と書かれており,実地臨床での観察を裏付けている。複数の慢性疾患や高齢者に特有の問題(老年症候群)を抱える虚弱高齢者は,通常多くの薬を服用しており,その服用目的は,痛みや便秘など現状での問題を改善することと,虚血性心疾患や脳血管障害など将来発生しうるイベントを予防することに大別できる。
筆者は,特に虚弱高齢者に対して,必要最少限の薬をシンプルに服用する方針を打ち出して日常診療を行っている。その主な目的としては,(1)多剤服用による相互作用・副作用の出現リスクの最小化,(2)認知機能が低下している(可能性のある)高齢者の薬剤管理能力への適応,(3)新しい症状出現時の鑑別診断の簡素化,が挙げられる。
薬との関係の多様性
(1)や(2)に関しては多くの報告があり多言を要さないであろう。(3)に関しては,例えば10種類以上の薬を服用している虚弱高齢者が食欲低下やめまいを訴えて受診してきても,それらの症状が薬の副作用によるものか,それ以外の原因によるものかの鑑別は限りなく困難である。逆に解熱鎮痛薬と便秘薬しか服用していない高齢者であれば,最初から薬の影響が除外でき,それだけで鑑別診断が容易となる。また,必要があって新たに薬を追加する場合や一時的に風邪薬などを服用する場合も,もともとの服用薬数が少なければ,相互作用や副作用の発現率が低いことは想像に難くない。
高齢患者や家族の中には必要最少限の薬をシンプルに服用する方針に強く賛同してくれる方もいれば,多剤服用そのものに依存していたり,特定の薬にこだわりが強い人もいて,薬に対する思いの多様性が見てとれる。日常診療場面では,患者と薬との距離感を常に意識しておくことで,診療活動がよりスムーズになるだろう。
若年者と異なり余命が限られている虚弱高齢者への薬の適正服用に関しては,テキサス大学のHolmesの論説(Arch Intern Med. 2006[PMID:16567597])がよくまとまっているため,私見を交えながら概説する。
その薬の服用によるベネフィットは?
通常,臨床試験で検出された薬の効果は統計学的有意差を持たないと医学雑誌に掲載されにくい。製薬会社や研究者が主張する薬の効果が臨床的に意味があるかどうか,臨床医にはその結果を自分自身で吟味する姿勢が常に求められる。
例えば,アルツハイマー病の治療薬であるコリンエス...
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