医学界新聞

連載

2012.04.09

ノエル先生と考える日本の医学教育

【第24回】 新しい医学教育のパラダイム(2)

ゴードン・ノエル(オレゴン健康科学大学 内科教授)
大滝純司(北海道大学医学教育推進センター 教授)
松村真司(松村医院院長)


本連載の執筆陣がご意見・ご質問に答えます!!


2968号よりつづく

 わが国の医学教育は大きな転換期を迎えています。医療安全への関心が高まり,プライマリ・ケアを主体とした教育に注目が集まる一方で,よりよい医療に向けて試行錯誤が続いている状況です。

 本連載では,各国の医学教育に造詣が深く,また日本の医学教育のさまざまな問題について関心を持たれているゴードン・ノエル先生と,マクロの問題からミクロの問題まで,医学教育にまつわるさまざまな課題を取り上げていきます。


前回のあらすじ:「変化を避けることはできない」と語るノエル先生。社会の変化とともに,新しい医学教育のパラダイムが日本にも求められている。

日本の医療の“強み”をさらに伸ばすために

松村 日本の医学教育にも,良い点はたくさんあります。医学生や研修医は,国民が医療にアクセスしやすい恵まれた環境のなかで学べます。科学技術水準も高く,高度な検査機器を用いた診断もほとんどの地域で可能です。また,医学書も母国語で手に入ります。これらは,世界でもトップクラスの環境だと思います。

 モラルが高く,献身的に働く医療人が数多く存在し,その診療スキルを次世代に伝えてきたのも強みです。ただし,これらの教育は体系的ではなく,個人の努力に頼ってきました。また,教育体制が既に確立されていることで,時代の変化に対応する動きが鈍い一面があるのかもしれません。

ノエル これまで私は,日本の医学教育や医療現場の在り方について助言をするとき,常に慎重な態度をとってきました。なぜなら日本の医療や医学教育は,松村先生が述べた通り諸外国と大きく異なるからです。一方,日本のヘルスケアアウトカムは(寿命という指標において)世界一で,国民1人当たりの医療費は米国の3分の2です。このような状況で,医学教育の変化がヘルスケアアウトカムをさらに向上させる根拠を見いだすのが難しいのは当然でしょう。

 日本人の長寿について,多くの研究者は4つの要因を挙げます。それは,(1)医療への良好なアクセス,(2)民族的にほぼ均一な国民,(3)患者の従順性,(4)日本食の影響,です。ただ将来,日本人の食事はより高カロリー・高脂肪で,栄養価が低いファストフード型へと変化していくと思われます。喫煙率の低下は鈍く,肥満者も増加しています。そして諸外国と同様,現代の生活ストレスは健康に確かな影響を及ぼしています。日本が将来もヘルスケアの先進国であり続けるためには,医学教育と医療提供体制の改善を行っている諸外国と同様,日本でも何らかの変化が必要だと私は思うのです。

 私が日本の医療で変化が必要と思うことをもう一度まとめてみます。

*継続して新しい知識と臨床手法を採り入れるためには,「ハイブリッド化」が不可欠。海外で学ぶ日本人医師や日本で学ぶ海外の医師が増えれば増えるほど,全世界に知識が広がっていくでしょう。
*EBMは,個人・集団にかかわらず医療を改善するという強い裏付けがあります。一方,経験に基づく医療には,効果が乏しく,患者に害を与えることもある臨床手段が数多くあります。医師がそれぞれ最良と信じる医療に固執し,その是非に関するエビデンスが得られなければ,日本全体の医療は向上しないでしょう。したがってEBMをより推進する必要があります。
*医師の診療技術について客観的な評価手法を採用する必要があります。医師が医療現場に入る時点でその力量を客観的に保証し,医師免許取得後も継続的に臨床能力の維持をモニターし,また臨床研修に明確な基準を作ることで医師の能力の向上を図り,技術が伴わない医師を特定します。
*患者が適切な治療を受ける機会を逃さないよう,プライマリ・ケア医と専門医の人数や配置をコントロールすることでへき地や医療資源の乏しい地域の医療を改善することが必要です。

 日本の医療を知る教育者なら,私を含め,日本の医療が現在持つ多くの強みに異を唱える人はいないでしょう。しかしそれ...

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