腫瘍マーカー(前川真人)
連載
2012.01.09
学ぼう!! 検査の使い分け 【シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)】 | |
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。 | |
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前川 真人(浜松医科大学教授・臨床検査医学) |
(前回からつづく)
腫瘍マーカーは,癌細胞もしくは非癌細胞が癌細胞に反応して生成される物質のなかで,腫瘍の存在や癌細胞の種類とその量を反映する指標となる物質を指します。理想的には癌細胞のみから生成される物質が最適ですが,残念ながらそのような物質は今日まで発見されておらず,正常細胞や良性疾患でも作られている物質ばかりです。マーカーには,ある程度癌種特異的なものと幅広く種々の癌で陽性となるものがあります。今回は,比較的特異性の高いAFP(α-fetoprotein)とPIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)-IIの2つの腫瘍マーカーを取り上げます。
AFPとPIVKA-II
AFPは,1本のN結合型糖鎖を有する分子量約70kDa(アミノ酸590個)の糖蛋白質です。胎生期に胎児肝および卵黄嚢で産生されているため,出生時には15-30 μg/mLと高値ですが,出生後は減少し1歳未満で成人値に落ち着きます。妊婦では,妊娠6週ごろから上昇し32週ごろピークに達し(約200 ng/mL),分娩後は約2週間で正常値に戻ります。
カットオフ値は10 ng/mLです。肝細胞癌のほか,ヨークサック腫瘍や精巣腫瘍でも陽性となり,さらにAFP産生胃癌をはじめ,種々の癌でAFP高値を示す症例が報告されています。また再生肝細胞でも産生されるため,肝硬変や肝炎でも高値を示し,この検査値だけでは肝細胞癌との鑑別が困難なのが実際です。
PIVKAは,ビタミンK欠乏またはビタミンK拮抗薬の投与によって生じる異常な血液凝固因子の総称です。ビタミンK依存凝固因子であるII,VII,IX,Xの因子のうち,第II因子(プロトロンビン)をPIVKA-IIと呼びます。構造からDes-γ-carboxy prothrombin(DCP)とも呼ばれます。これはプロトロンビンのグルタミン酸(Glu)がγグルタミルカルボキシラーゼによってγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)に変換するところ,ビタミンKが減少すると,その反応が阻害されγ-カルボキシル化されないGluのままとなるからです。
カットオフ値は40 mAU/mL未満です。肝細胞癌の50-60%で陽性を示し,特異度が94%と非常に高いのが特徴です。すなわち,肝硬変でもAFPはある程度の高値を示しますが,PIVKA-IIが陽性を示す症例は数%に過ぎないということです。
PIVKA-IIの注意点としては,ビタミンK欠乏状態で上昇することが挙げられます。すなわち,ワルファリンやセフェム系抗菌薬,抗結核薬は,ビタミンKに拮抗したりビタミンKサイクルを阻害するため,PIVKA-IIが上昇します。肝外性閉塞性黄疸(陽性率25%),肝内胆汁うっ滞(陽性率35%)など,ビリルビン排泄障害時にも高値を示すことがあります。これは胆汁うっ滞によってビタミンKの吸収が低下するためです。アルコール性肝障害やヘパトーマ様...
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学ぼう!! 検査の使い分け(終了)
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