医学界新聞

連載

2011.12.05

学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第10回
炎症マーカー

CRP

血清蛋白分画

白血球分画

赤沈

高木 康(昭和大学教授・医学教育推進室)


前回からつづく

 従来,炎症のマーカーとしては,「赤沈(赤血球沈降速度)」「白血球数と白血球分画」が一般的に用いられてきました。最近では,急性期蛋白である「CRP(C-reactive protein;C反応性蛋白)」や「血清蛋白分画」が迅速に測定可能となったため,利用される頻度が高くなっています。今回は,これらの炎症マーカーの使い分けについて考えてみたいと思います。


炎症と炎症マーカー

 細胞や組織の障害・壊死に伴い生体内で炎症が起こった場合,血清中のある蛋白成分が変動することが明らかになっています。その蛋白は,大きく急性炎症マーカーと,慢性炎症を引き起こす自己抗原や環境抗原に反応する抗体に大きく分けることができます。

 一般に急性炎症マーカーと呼ばれ,測定されている物質は急性期蛋白(急性相反応物質)です。急性炎症が発症すると組織の傷害・壊死や病原体成分に反応して,マクロファージや肥満細胞が活性化され,これらの細胞から腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン1(IL-1)が産生されます。このTNFやIL-1はマクロファージや周囲の間質の細胞に働きかけ,IL-6を産生させます。このIL-6が肝細胞に作用して,CRPに代表される急性期蛋白の合成・分泌を増加させ,その血中濃度が上昇します。

 急性期蛋白にはに示すような蛋白があります。増加する蛋白の多くは,血清蛋白電気泳動のα1-グロブリン分画とα2-グロブリン分画に存在するため,炎症所見のある場合,正常時と比べアルブミンが減少して,この両分画が増加するパターンとなります。これは“急性炎症パターン”と呼ばれています。

 主な急性期蛋白
増加する蛋白
 α1-アンチトリプシン,α1-アンチキモトリプシン,α1-酸性糖蛋白,SAA(以上,α1-グロブリン分画),ハプトグロビン,セルロプラスミン(以上,α2-グロブリン分画),CRP(β-グロブリン分画)
増加するが消費する病態もあり一定しない蛋白
 補体成分(C3,C4),フィブリノゲン(β-グロブリン分画)
減少する蛋白
 アルブミン,トランスサイレチン(プレアルブミン分画),トランスフェリン(β-グロブリン分画)

 感染症などに伴い血中の白血球数は増加しますが,これは炎症ストレスにより副腎皮質ホルモンが増加し,これが骨髄やリンパ性組織の白血球プールから流血中へ白血球を急速に動員させることで起こります。白血球のなかでも好中球分画が増加し,これらは最も早い炎症マーカーとして日常的に測定されています。

 赤沈は,試験管内で赤血球が塊を形成して沈降する速度を表します。α1-グロブリンやα2-グロブリン,フィブリノゲンが増加すると塊を形成しやすくなり,赤沈は亢進します。抗体が増加するとさらに塊を形成しやすくなり,一層亢進します。このため,赤沈は急性炎症より慢性炎症での臨床的意義が高いマーカーです。

炎症マーカーを測定するとき

 生体内での炎症・組織の破壊が疑われるときに検査されます。感染症,膠原病,悪性腫瘍,(心筋)梗塞,外傷・骨折などで,主に病態の重症度判定には有用な指標となります。

症例1
 50歳男性。発熱と咳を主訴に来院した。4日前から咳嗽と喀痰が出現し,徐々に増悪してきた。昨日からは39℃台の発熱が加わり,全身倦怠感も出現。意識は清明。身長172 cm,体重65 kg。体温39.4℃。血圧134/80 mmHg。血液所見:赤血球数442万/μL,Hb 14.3 g/dL,白血球数14800/μL(後骨髄球3%,桿状核好中球21%,分葉核好中球46%,好酸球2%,単球5%,リンパ球23%),血小板数25.3万/μL。血液生化学所見:総蛋白7.0 g/dL,クレアチニン1.2 mg/dL,総ビリルビン0.8 mg/dL,AST 40 U/L,ALT 38 U/L,CRP 24.4 mg/dL。

症例2
 48歳女性。両側の手首と手指の関節の腫脹を主訴に来院した。4か月前から手首や手指の腫れ,関節の痛みが出現。1週間前から痛みが増強し,朝起きてから手足を動かしにくくなった。身長154 cm,体重46 kg。左手関節に腫脹と圧痛がある。血液所見:赤沈48 mm/時,赤血球数314万/μL,Hb 9.5 g/dL,Ht 25.9%,白血球数11200/μL,血小板数44万/μL。血液生化学所見:総蛋白7.1 g/dL,クレアチニン0.8 mg/dL,尿酸6.4 mg/dL,AST 28 U/L,ALT 30 U/L,CRP 6.4 mg/dL。免疫学所見:リウマトイド因子86 U/mL(基準:15 U/mL未満)。

 症例1は症状と血液所見(白血球増多,好中球の核の左方移動,CRP高値)から,細菌感染症が疑われます。さらに詳細な医療面接を行うと,「喀痰は黄色で膿性」であり,「胸痛や呼吸困難はない」ことがわかり,呼吸器細菌感染症が強く示唆されました。確定診断に当たっては,身体診察では胸部診察で右下肺野にcoarse crackleを聴取し,喀痰の微生物検査(塗抹染色)から原因菌の検索を行うのが一般的な診療経過です。CRPがかなりの高値ですから,広範囲の炎症であることが推測できます。

 症例2は症状と検査所見(リウマトイド因子陽性)から関節リウマチが強く疑われます。関節リウマチの活動性は,朝のこわばりの持続時間や筋力低下などの症状のほかに,検査として赤沈の亢進が挙げられます。関節リウマチでは20 mm/時以上の赤沈の亢進が認められる症例が多く,これは多クローン性γ-グロブリンの上昇,フィブリノゲンの増加,貧血などに起因すると考えられています。また,CRPがそれほど上昇していないのに赤沈が亢進している症例では,長期的な病勢の評価のために,赤沈を定期的に測定しています。

 なお,関節リウマチ治療症例での疼痛腫脹関節数と赤沈,CRPとの関係では,治療により疼痛腫脹関節数が少なくなるに従い,CRP,赤沈ともに正常化の傾向にあり,CRPと赤沈はほぼ相関して変動します。

CRP上昇の考え方

 CRPは急性期蛋白の代表的な成分で,肺炎球菌感染症患者の血清中から発見され,Ca2+の存在下で肺炎球菌の菌体C多糖体と沈殿反応を起こすことから,この名前が付きました。CRPは体内に炎症または組織壊死がある病態では,発症後6時間で上昇し始め,2-3日でピークとなり,1週間から10日で正常化します。炎症病巣が強ければ必ずCRPが上昇するわけではなく,免疫異常を伴う病態,例えばSLEや白血病などでは必ずしも病勢と相関した上昇は認められません。これらの病態で,CRPが明らかに上昇した場合には,細菌感染の合併を疑わなければなりません。

 最近,CRPの極低値での変動が急性冠症候群発症のリスク因子であることが明らかとなりました。CRPの微少な上昇は慢性局所性炎症の存在を示唆し,これが冠動脈プラーク形成に関与するためです。

まとめ

 現在,炎症マーカーとしてはCRP,血清蛋白分画,白血球数と分画および赤沈が提唱されています。急性炎症の病勢の判定にはCRPの臨床的意義が高く,炎症後迅速に血中に上昇して,回復後は迅速に下降・減少します。血清蛋白分画は急性期蛋白の変動を総合的に観察できる長所があり,白血球数と分画は最も早い炎症マーカーとして有用です。赤沈は急性炎症では,必ずしも鋭敏ではありませんが,慢性炎症での経過観察には有用性が高いマーカーです。

 笠間毅准教授(昭和大学医学部リウマチ膠原病内科部門)のご助言に感謝します。

ショートコラム

 CRPと同様な性質を持つ急性期蛋白として,最近SAA(血清アミロイドA蛋白)の有用性が論じられています。SAAはCRPと同様な機序と経過で上昇しますが,CRPの上昇程度が低いウイルス感染症やSLE,シェーグレン症候群,あるいは副腎皮質ホルモン治療時でも中等度に上昇するため,病勢の判定指標として用いられています。

つづく

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