医学界新聞

連載

2011.10.17

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第208回

共和党大統領候補たちの医療政策(1)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2947号よりつづく

 経済停滞が長引き,失業率も高止まりした状況が続く米国では,民主党オバマ政権に対する失望が広がるとともに,国民の意識は大きく右傾化している。

 2008年の金融危機に端を発した「大不況」は,保守・リベラルを問わず,誰が政権の座に就いていたとしても舵取りが容易でない難局であったのとは裏腹に,「米国が不況から抜け出せずにいるのはオバマの失政のせいだ」と信じる米国民は多いのである。

保守派国民に不人気な政策の「三点セット」

 政権全般に対する不満が広がる中,この間,保守派の国民に最も嫌われてきた政策の「三点セット」があるのだが,その第一が金融機関救済のための「公費投入(ベイルアウト)」。「政府は,個々の労働者が失業したり,中小企業が潰れたりしても知らんぷりのくせに,大銀行や自動車メーカーだったら助けるのか」と怒った米国民は多く,不公平感がまん延するとともに政治一般に対する不信感が増大したのである(実際には,金融機関のベイルアウトを実施したのはブッシュ政権だったのだが,いま,「オバマ政権がしたこと」と記憶違いしている米国民は多い)。

 不人気三点セットの第二は,「経済刺激策(スティミュラス)」。保守派からは「財政赤字を拡大させる」,リベラル派からは「規模が小さくて効果が望めない。もっと出せ」と,右からも左からも批判されながら実施した施策だったが,結果は,効果が不十分なまま財政赤字だけが拡大。オバマ政権にとっては最悪の結果となった(註1)。

 保守派国民に不人気な政策の第三が医療制度改革。オバマ政権は,「逆選択」(註2)を防ぐために国民の医療保険加入を義務化したり,保険加入を促進するために各州に「保険交換所(エクスチェンジ)」(註3)を設置したり,もともとは保守派が提唱してきた政策を大幅に採用したのだが,経済「失政」に対する保守派国民の不満が広がり,「オバマのすることは何でも悪いに決まっている」という風潮の下,医療制度改革に対する嫌悪感...

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