医学界新聞

連載

2011.10.03

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第207回

全米が注目するバーモント州の実験

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2945号よりつづく

 米国医療制度が抱える最大の問題は,無保険者増と医療費支出増の二つである。無保険者が約4800万人(国民の6人に1人)に達する一方で,医療費支出はGDPの18%弱。世界一高い医療費を払っているにもかかわらず無保険者が増え続けるという,なんとも情けない状況を打開すべく,オバマ政権が2010年3月に医療制度改革法を成立させたことは,これまで何度も述べてきた通りである。しかし,同法は,無保険者を減らすことについては一定の成果を上げると期待されているものの,医療費支出を抑制する効果については疑問視されている。

 しかも,効果が疑問視されている医療制度改革法が全面的に施行されるのは2014年。同法廃止を公約する共和党が,2012年の選挙で上下両院・ホワイトハウスを制した場合,全面施行される前に廃止されてしまうかもしれないのである。さらに,選挙結果とは別に,同法をめぐる「憲法違反訴訟」の行方も不安視されており,最高裁が「違憲」と判断した場合,施行されない可能性さえあるのである。

米国医療制度の二大問題を解決する「手品の種」とは

 と,医療制度改革をめぐる連邦レベルの状況は混沌としているのだが,いま,米北東部の小州,バーモント州(人口約62万5千人)で,無保険者を根絶して皆保険制(ユニバーサル・カバレージ)を実現した上に,医療費支出も大幅に減らすという,「手品」のような医療制度改革が実現されようとしている。米医療制度が抱える二大問題を一挙に解決する「手品の種」は何かというと,それは,「シングル・ペイヤー」制の採用。全州民を被保険者とする公的保険制度を創設することで皆保険制は自動的に実現されるし,シングル・ペイヤーとすればさまざまな無駄をそぎ落とすことができるので,医療費支出抑制も達成されるというのである。

 シングル・ペイヤー創設を決めたのは,5月末に成立した「州法202」。州議会は上下院とも民主党が多数派を占める上に,州知事のピーター・シャムリンは「シングル・ペイヤー制導入」を公約して当選した。オバマ政権が,医療制度改革に当たって民主党内保守派との妥協を強いられて,...

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