医学界新聞

連載

2011.09.12

循環器で必要なことはすべて心電図で学んだ

【第17回】
心電図のレッドゾーン“ST上昇”(その5)
もしすべての誘導でSTが上がっていたら(前編)

香坂 俊(慶應義塾大学医学部循環器内科)


前回からつづく

 循環器疾患に切っても切れないのが心電図。でも,実際の波形は教科書とは違うものばかりで,何がなんだかわからない。

 そこで本連載では,知っておきたい心電図の“ナマの知識”をお届けいたします。あなたも心電図を入り口に循環器疾患の世界に飛び込んでみませんか?


 残暑厳しき折,皆様いかがお過ごしでしょうか?

 さてこれまでの稿では,心電図でSTが上がっていたらカテーテルで詰まったところをすぐに開けましょうと強調し(Open Artery Theory),やれTime is Muscleだ,Door-to-Balloon Timeは90分以下だ,というところをつらつらと書いてきました。今回と次回では,多少季節外れかも知れませんが“循環器版の夏の怪談”として「もしすべての誘導でSTが上がっていたら」というところを取り上げたいと思います。どうですか? 背筋が冷えませんか? 想像力は豊かに持ちましょう。

ST上昇の局在

 まず基本知識の確認ですが,通常STの上昇をみたときには梗塞の局在について考えます。三本の主要な冠動脈のうちどこが詰まったかによってSTが上昇するパターンは異なり,(1)右冠動脈(RCA)が詰まればII-III-aVF,(2)前下行枝(LAD)が詰まればV1-3,(3)左回旋枝(LCX)が詰まればI-aVLと,それぞれ下壁,前壁,側壁を反映する誘導でSTが上昇すると考えられています。医師国試でも出題される内容なので,すでにご存じの方も多いのではないかと思います。

 しかし,このように梗塞部位を正しく認識することは診断リスク評価,双方の面からとても大事です。一般的に前壁梗塞は他の部位の梗塞より合併症が多く危険ですし,それぞれの部位を別々にみても,血管の近位部が詰まっているか遠位部が詰まっているかで梗塞巣の大きさが違ってきます。リスクが高ければ冠動脈のインターベンションなどの処置を急ぐ必要性も出てくるでしょう。

 そこで,ここではもう一歩局在についての読みを深めてみましょう。21世紀の循環器診療では,(1)-(3)のような大雑把な読みでとどめるのではなく,もっと深く梗塞の局在を読み込む必要があります(文献1)。以下,部位別診断の深読みです。

II-III-aVFの場合

 下壁を反映する誘導,と言われていますが厳密には後下行枝(posterior descending artery ; PDA)が支配する領域を反映しています。このPDAはRCAかLCXのいずれかから派生するのですが(図1),その割合が約8:1でRCA優勢なので,

II-III-aVFのST上昇 = RCAの梗塞

と信じられているわけです。しかし,中にはLCXが原因の症例も混ざっていることもあります。最近の追跡調査によるとこれが結構大切で,LCXからPDAが派生している患者さんのほうが予後は悪いようです(文献2)。

図1 後下行枝(PDA)の模式図
心臓の裏のPDAは右冠動脈(RCA)もしくは左

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