医学界新聞

連載

2011.09.12

連載
臨床医学航海術

第68回

生活力

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

 臨床医学は疾風怒濤の海。この大海原を安全に航海するためには卓越した航海術が必要となる。本連載では,この臨床医学航海術の土台となる「人間としての基礎的技能」を示すことにする。もっとも,これらの技能は,臨床医学に限らず人生という大海原の航海術なのかもしれないが……。


 前回は人間としての基礎的技能の第9番目である「気力と体力」について述べた。今回は引き続き人間としての基礎的技能の第10番目である「生活力」について考える。

 人間,仕事も大切であるが,日々の生活も大切である。なぜなら日々の生活が安定・充実していなければ,仕事も安定・充実しないからである。この生活を安定・充実させる力こそが「生活力」である。

 人間としての基礎的技能
(1)読解力-読む
(2)記述力-書く
(3)視覚認識力-みる
(4)聴覚理解力-きく
(5)言語発表力-話す,プレゼンテーション力
(6)英語力-外国語力
(7)論理的思考能力-考える
(8)芸術的感性-感じる
(9)気力と体力
(10)生活力
(11)IT力
(12)心

自炊

 人間が1人で自立して生活するにはさまざまなことができなければならない。その中でも最も大切なのは「自炊」であると思う。自炊は「自ら炊く」と書くが,もちろん単に自動炊飯器でご飯を炊くだけのことを言うわけではない。栄養のバランスなどを考え,自らさまざまな料理を作ることだ。現在はコンビニや総菜屋があるので,1人分の食事を買うことは容易になった。それでもなお自炊することが重要と述べるのは,それによってのみ学べるものがあるからである。

 その第1のものとして,「ありがたみ」が挙げられる。子どものころは家にいれば当たり前のように3食が出てきた。しかし,1人暮らしとなれば当たり前に3食が出てくることはない。自分で料理を作ってみると,いかに料理が手間暇のかかるものであるかがわかるだろう。子どものころは,ほかの誰かが手間暇をかけてこの3食分もの料理を作ってくれていたということだ。毎食のご飯と味噌汁に加え,さまざまな食材を使ったおかずが準備され,さらに味覚と栄養のバランスまで考えられた温かい食事が出てくる。なんという奇跡であろう!

 そして,自炊によって学ぶことができる第2のものは,「バランスのよい料理を作る難しさ」であろう。家庭料理やコンビニ弁当には,少なくとも数種類の惣菜が入っており,肉や魚に偏ることなく野菜もとることができる。これを実際に自分で作ろうと思うと大変な労力である。こんなことを1日3回もやっていたら働けないのではないかと思うほどだ。

 以上のように,これらの大事なことを学ぶことができるのだから,男女にかかわらず誰もが料理をできるようになるべきである。し...

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