CGA+EBM=Pain? or Pleasure?(大蔵暢)
連載
2011.09.05
高齢者を包括的に診る
老年医学のエッセンス
【その9】
CGA+EBM=Pain? or Pleasure?――虚弱高齢者の骨粗しょう症診療
大蔵暢(医療法人社団愛和会 馬事公苑クリニック)
(前回よりつづく)
高齢化が急速に進む日本社会。慢性疾患や老年症候群が複雑に絡み合って虚弱化した高齢者の診療には,幅広い知識と臨床推論能力,患者や家族とのコミュニケーション能力,さらにはチーム医療におけるリーダーシップなど,医師としての総合力が求められます。不可逆的な「老衰」プロセスをたどる高齢者の身体を継続的・包括的に評価し,より楽しく充実した毎日を過ごせるようマネジメントする――そんな老年医学の魅力を,本連載でお伝えしていきます。
【症例1】 75歳の高齢女性Yさんは30代後半から関節リウマチを患い,長期間ステロイドを服用している。その他,高血圧や不安神経症,めまい,慢性胃炎の持病があるが,近ごろの体調は比較的良好である。最近4歳年上の姉が転倒し左大腿骨頸部を骨折したらしく,Yさんも骨粗しょう症が心配になった。骨密度を測定したところ,腰椎,大腿骨頸部のT scoreはそれぞれ-1.8,-2.0であり,その対応について相談するため筆者の外来を受診した。 |
高齢化社会における脅威
加齢と深く関連し,骨密度が低下することによって骨折の危険が増加する病態である骨粗しょう症は,高齢化が進行する先進国を中心に非常に大きな脅威となっている。わが国でも大腿骨頸部骨折は年間に12万件を超えると推定され,患者のうち約10%は1年以内に死亡し,約30%は日常生活動作能力が低下する。また,椎体骨折による二次的な骨格変形は,寝たきり状態や慢性腰痛の原因となり,円背,身長低下などにより生活動作を障害し,介護の必要性が増す原因となっている。
整形外科医やリウマチ膠原病専門医が,骨関節疾患診療の大半を担う日本では,より多くの国民が受診する家庭医や総合内科医など一般医の骨粗しょう症診療への興味は低く,スクリーニングや治療が十分に行われていない可能性が高い。これには女性医学や老年医学教育の遅れも影響しているだろう。一般高齢者の骨粗しょう症はその高い罹患頻度を考慮すると,糖尿病や高血圧などと同様に一般医によって診療されるべきである。
FRAX®を用いたリスク評価
日本や欧米のガイドラインを見比べても,特別な場合を除いて「65歳以上の女性・危険因子を持つ男性や若年女性を,骨密度測定による骨粗しょう症スクリーニングの対象とする」ことは共通している(註1)。
ガイドラインはDEXA(Dual-Energy X-ray Absorptiometry)法による骨量測定を推奨しており,筆者は近くのリウマチクリニックに骨密度検査をお願いしてT scoreとZ score(註2)を計算した報告書をもらっている。椎体か大腿骨頸部のT scoreが-2.5以下ならば骨粗しょう症と診断し,患者と治療について相談する。T scoreが-1.0から-2.4であれば,WHOが提唱する骨折リスク評価ツールであるFRAX®を用い,さらに他の危険因子を加味して総合評価を行う。
症例1では,T scoreは骨粗しょう症の診断基準を満たさなかったが,他の危険因子(関節リウマチとステロイド服用)があったためFRAX®を用いたところ,10年間の主要骨折リスクと大腿骨頸部骨折リスクはそれぞれ18%と5.8%だった。日本のガイドラインは2006年に作成されたため,2008年に紹介されたFRAX®を用いた場合の評価については記載されていないが,最近の総説では主要骨折リスク20%以上か大腿骨頸部骨折リスク3%以上の場合に治療を検討するよう勧められている(Ann Intern Med. 2011[PMID : 21727287])。ビスフォスフォネートやカルシウム,ビタミンDによる薬物療法と,体重負荷運動や日光浴,体重管理などの非薬物治療などについてYさんと相談した。
【症例2】 81歳の虚弱高齢女性のMさんは心臓弁膜症によるうっ血性心不全と軽度の認知機能低下(MMSEスコア22点),両下肢筋力低下があり,室内外の移動には車椅子を使用している。腰椎単純X線上では第4,5腰椎に軽度の圧迫骨折像を |
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