医学界新聞

連載

2011.02.07

論文解釈のピットフォール

第23回
Intention to treat(ITT) 解析の持つ意味

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

 前回まで,いささかしつこく早期終了にかかわる問題点についてお話ししました。それは,研究費とスポンサーとの関連,研究のインセンティブ,結果の過大評価など,現代の臨床試験の在り方をめぐる問題点を端的に表しているからです。今回は,解析の対象が適切でない場合も結果の過大評価を招く場合があることをお話しします。

何を評価したいのか?

 以前,薬効(efficacy)を評価する研究(多くは新薬の承認申請を目的とした治験)とその薬を使った治療法の効果(effectiveness)を評価する研究は異なり,それぞれ目的と整合性を持つ研究デザインが要求される,という話をしました。例えば,「新薬Aが安全に血圧を下げる」という薬効を証明しようとするとき,解析対象は薬剤を服用した被験者に限り,服用しなかった被験者を解析対象から外したほうが,より正確に評価できますね。なぜなら,服用していない患者では薬効を評価できないからです。これはPer protocol解析と呼ばれますが,薬効評価という観点からは問題がないと考えられます。

 一方,薬効ではなく,(既に市販されている)薬剤を用いた治療法を評価する試験の場合,上記とは異なる解析手法,評価項目が用いられます。例えば,先述した新薬Aが降圧薬として承認されたのち,Aを使用する"治療法a"とこれまで長く使用されてきた薬剤Bを使用する"治療法b"を「脳卒中の発生」で比較する場合には,intention to treat(ITT)解析が用いられます。これは,例えば治療法a(A群)に割り付けられた場合,その後たとえ薬剤Aの服用を中止したり,あるいは何らかの理由で薬剤Bを服用しても,あくまでA群として解析する,ということです()。

 ITT解析とPer protocol解析
ランダム化割り付けで治療A群とB群のいずれかに割り付けられても,必ずしも全員の患者が割り付けられた治療を試験終了まで受けるわけではなく,さまざまな理由で離脱あるいは別の治療に変更されたり,別の群の治療を受けることもある。しかし通常は,治療法を比較して真のアウトカムを評価するeffectiveness評価型研究あるいはpragmatic trialでは,変更,中止にかかわらず割り付けられた治療群として解析する(ITT解析,(1)+(2)vs(3)+(4))。これに対して薬効を評価するような研究や非劣性の評価ではPer protocol解析((1)vs(3))を行うことがある。また割り付けられた群にかかわらず実際に受けた治療で比較する((1)+(4)の一部vs (3)+(2)の一部)As treated解析もある。

 私は,efficacy評価とeffectiveness評価という表現を用いましたが,Schwartzらはexplanatory trialとpragmatic trialという用語を使用しています1)。前者はより生物学的な側面が強いため,血圧のように薬物への反応を定量的に評価できる生物学的なパラメーターを使った厳密な「実験」に近く,後者はより現実的な状況,環境下における臨床試験と言えますから,ほぼ同じことを指すと考えてよいと思います。そしてpragmatic trialでは原則的にITT解析を用いるべきとされています。

 このような解析を行う意味は何でしょうか? ランダム化比較試験においてランダム化割り付けを行う理由の1つは恣意的な患者選択,すなわち選択バイアスの除去と比較可能性の保証にあるため,ランダム化された患者群は比較できますが,もしそこから何らかの患者を除外していけば比較可能性は必ずしも保証されないということです。

 また,effectivenessを評価する際やpragmatic trialを行う際に問われるのは,ある治療法を開始した患者の予後,あるいはその治療法の選択が適切と考えた患者の予後です。当然,その治療法を適切と考えて開始しても,治療が無効,アドヒアランスの問題,副作用や疾患自体の悪化により離脱することは現実の診療では多く見られます。そのような患者を含めた予後を評価するためにはITT解析が必要なのです。

ITT解析を用いる意味

 もしITT解析を行わなかったら,どのような影響があるでしょうか? はIT......

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