急性腎傷害へのアプローチ(谷口俊文)
連載
2010.08.02
レジデントのための 【20回】 急性腎傷害へのアプローチ 谷口俊文 |
(前回よりつづく)
入院中の患者でクレアチニン値が上昇してくるのはよくあることです。症状が進行していると腎臓内科医が診る必要がありますが,ジェネラリストとして基本的なアプローチとマネジメントは知っておく必要があります。ここではそのほかにも,急性腎傷害の定義,マネジメント,予防の仕方などを学びます。
■Case
78歳の男性。既往歴に高血圧,糖尿病がある。腹痛にて救急外来受診。38.4℃の発熱と右季肋部痛を認める。血圧90/60 mmHg,心拍数115回/分である。腹部CTスキャンと身体所見より急性胆管炎と診断される。輸液投与,抗菌薬投与による保存的療法にてバイタルは安定。血清クレアチニン値は1.2 mg/dLであったが,翌日には2.6 mg/dLまで上昇した。
Clinical Discussion
ここでは急性腎傷害に焦点を当てる。まずはこの患者の腎機能不全のワークアップはどのように行うべきであろうか? 急性腎傷害を起こすリスクファクターは何があるだろうか? 予防のためにはどのようなマネジメントを行っていればよかったのだろうか? 治療はどのようにすればよいのだろうか?
マネジメントの基本
以前は急性腎不全(ARF : Acute Renal Failure)と呼ばれていたが,ARFの定義に一貫性がないために,2004年以降は急性腎傷害(AKI : Acute Kidney Injury)という言葉の使用が推奨されている。RIFLEと,RIFLEに変更を加えたAKINという分類を知っておこう(表1)。
表1 RIFLEおよびAKINによる分類 |
AKIを起こしたとしても決定的な治療法は存在しない。過去にはフロセミドや低用量ドパミンなどが研究されたが,どれも予後に影響がないことがわかり使用は推奨されていない。ジェネラリストとしては急性腎傷害が発生した場合の緊急対応や透析の適応,腎臓内科医へのコンサルテーションのタイミング,AKIの予防とマネジメントの基本を知っておく必要がある。
AKIへのアプローチ
腎機能が低下していく入院患者をみたら,腎前性,腎性,腎後性と分類してアプローチする。基本的な診断のアルゴリズムは表2を参照。AKIの主な原因に関する疫学はコホート(Kidney Int. 1996[PMID : 8872955],Kidney Int. 2004[PMID : 15458458])によってまちまちだが,急性尿細管壊死(ATN),次いで腎前性腎不全(Pre-renal azotemia)が最も多く,全体の7割を占める。しかしながら入院中の患者にみられるAKIは,複数の要因が重なって起こることが多いためにはっきりと分類できないこともある。
表2 AKI診断アルゴリズムの一例 |
高齢,腎灌流の減少,薬剤性,造影剤,敗血症,術後などが主なリスクになる。CTスキャンや血管の造影剤のみでなく,MRIにて使用されるガドリニウムも腎性全身性線維症のリスクを増加させること(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2007[PMID : 17318112])がわかり,腎傷害を来している患者への使用は推奨されない。
AKIの予防
腎灌流量の低下を防ぐためにも,血管内水分量を不足させない。腎毒性のある薬剤や造影剤の使用をなるべく控える。敗血症は早期認識が鍵であり,治療が早いに越したことはない。敗血症性のショックは相対的に血管内水分量減少を招くので,体液量のバランスをなるべく維持する。
近年話題になったのが,造影剤による腎傷害(CI-AKI : Contras......
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