医学界新聞

連載

2010.06.14

医師と製薬会社がクリアな関係を築き,
患者により大きな利益をもたらすためのヒントを,
短期集中連載でお届けします。

ともに考える
医師と製薬会社の適切な関係

【第1回】製薬会社と,どのようにかかわっていますか?

宮田靖志(北海道大学病院・地域医療指導医支援センター/卒後臨床研修センター副センター長・特任准教授)


連載開始にあたって

尾藤誠司・大生定義(日本内科学会専門医部会 プロフェッショナリズムワーキンググループ(WG)共同世話人)

 昨今,医療が持つ公共性や,患者の利益を中心に考えるという医療の本質的な目的が揺らいでいます。北米においては医療の市場化が問題となり,わが国でも,医療専門職の患者に対するスタンスや,自らの職務に臨む姿勢について考えさせられる状況が多数みられるようになってきました。学会レベルでは内科系学会が本年4月,利益相反に関する共通指針を発表し,企業などからの研究費や講演料を開示する流れが本格化してきました(http://www.naika.or.jp/coi/coi_top.html)。

 こうした社会背景のなか,日本内科学会専門医部会は,高い専門職意識を持って職務,そして患者ケアを行う医師を増やすこと,もしくはそのような労務環境を提言するため,教育を中心としていくつかの活動を行うことを目的に,筆者両名を共同世話人として「プロフェッショナリズムWG」を2008年度より立ち上げています。本WGの主な事業は,内科医を対象とした「臨床倫理」そして「患者安全」に関する生涯教育カリキュラム作りであり,多くの総合内科専門医が本事業にかかわっています。またそのほかにも,内科医の喫煙行動減少のための事業や,病院における主治医制度を見直す企画なども検討されています。

 そうした事業のひとつに「医師と製薬会社との適切な関係」を考える企画があり,この企画のメンバーが本連載の執筆陣です。執筆者の方々は,これまでも内科学会の内外でさまざまな活動を展開されていますが,本連載を通じ,この大切なテーマについて建設的な議論がさらに活発になされるよう,祈念しています。


どのような関係が適切なのか,議論を深めたい

 以前より,医師と製薬会社との関係については社会問題化することが繰り返されてきました。ガイドラインの策定や新薬の販売促進(米国の製薬企業の新薬開発の実態は連載第3回に掲載)に,製薬会社から多額の研究費などの利益供与を受けた高名な医師がかかわっていることがわかると,ガイドラインや新薬そのもののエビデンスに強い疑念が抱かれるようになり,大きな議論を巻き起こすことがあったのは,多くの読者がご存じの通りです。

 このような医師と製薬会社との関係は,「エビデンスに基づく医療=公的な(患者の)利益」と,「製薬会社のマーケティング戦略上使用されるさまざまなギフト・サービス=私的な(医師の)利益」が相反する,あるいは後者により前者が不当な影響を受けることから,“利益相反(conflict of interest)”と呼ばれるもののひとつであり,医療におけるプロフェッショナリズムにおいて関心の高い領域です。

 米国では特に最近,製薬会社との関係について,医師側からの自主規制の動きが相次いで出てきています(連載第4回)。米国は日本に比べて,より多額の利益供与が製薬会社から医師へされていると言われ,例えば,医師の生涯教育には年間12億ドルもの資金が製薬会社から注がれています。また,このような製薬会社によって支援される生涯教育によって,医師の臨床判断が知らず知らずのうちに歪められてしまう可能性が,多くの研究によって明らかにされつつあります(連載第2回)。このような状況に危機感を抱いた各種学会や医学関連団体が,自主規制の声明を発表するようになってきているのです。

 日本でも私たち臨床医の生涯教育には,多くの製薬会社がかかわっています。製薬会社主催または後援の医療講演会,各種学会のランチョン/イブニングセミナー,ガイドライン冊子の無料配布など,私たちはこれまで製薬会社から多くのサポートを受けてきており,今やそのサポートなしには生涯教育が成り立たない可能性があることは,紛れもない事...

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