行動科学とは?(松下 明)
連載
2010.04.05
研修医イマイチ先生の成長日誌
行動科学で学ぶメディカルインタビュー
[第1回]
■行動科学とは?
松下 明(奈義ファミリークリニック・所長 岡山大学大学院・客員教授/三重大学・臨床准教授)僕の名はイマイチ,25歳独身。地元の国立大学医学部を卒業し,県立病院で初期臨床研修2年目を迎えた。病態の理解には自信があるが,患者・家族とのコミュニケーションはちょっと苦手。救急外来で救急車が続くときに,特に軽症の夜間外来患者を診るとイライラしてしまうことがある。
学生時代に医療面接は勉強したが,実際に患者さんを診るとどうも勝手が違う。そこで,研修2年目に入った今,地域医療研修を利用して何とかコミュニケーション能力を高めたいと考えている。今回は地域医療研修と選択研修を合わせて,5週間の予定で○×クリニックにやってきた。
さあ,今日からいよいよ地域医療研修の開始だ。頑張るぞ!
イマイチ 院長先生,これからよろしくお願いします!
院長先生 イマイチ先生は,将来は小児科希望だったよね?
イマイチ ええ。子どもがとても好きなんです。ただ,母親とのコミュニケーションで難しいことが時々あって……。本当に小児科に進んでよいのか,ちょっと悩んでいるんです。
院長先生 そうか……。まあ,5週間あるので,コミュニケーションについて見違えるようになって病院へ帰れるよう一緒にがんばろうか。
イマイチ はい。よろしくお願いします。
院長先生 今日は初日だから,まずは外来を見学してもらおう。
午前中の外来25人,往診3人,午後の外来15人と1日中院長先生の診療を見せてもらった。午前の外来は高齢者が多いが,皆笑顔でよくしゃべる患者さんばかりだ。医師も患者もストレスを感じないようにみえる診療の秘訣はどこにあるのか?
午後の診療では眉間にしわを寄せた母親が,子供の熱が続くのを激しく訴えていた。苦手なパターンだが,たった10分間の診療の間に母親の表情はみるみる和らぎ,穏やかな表情で「ありがとうございました!」と帰っていく。何か「技」があるのか必死に観察したが,よくわからなかった。
院長先生 イマイチ先生,それじゃあ,今日の振り返りをしようか? 印象に残ったことは何かある?
イマイチ 午前中の高齢者の方々が皆,笑顔でよくしゃべっていました。
院長先生 そうだったね。今日もかなり混雑してたよね。ほかには?
イマイチ 夕方の患者さんで怒った感じの母親がいて,まくし立てていたのに,10分後には笑顔で帰ったのでちょっとびっくりしました。
院長先生 そうだね。イマイチ先生が苦手とするパターンだったよね。ポイントは何かな?
イマイチ ポイントは……。「信頼関係」とか「聴く技術」とかかなあ?
院長先生 おっ,いいことを言うね。では,ミニレクチャーをしようか。
行動科学とは?
実際の診療現場では,患者さんとコミュニケーションを行う能力がかなり要求されます。コミュニケーションを学ぶ上で,米国・カナダの臨床研修では医師と患者・家族関係を良好なものとするため“行動科学”が教育されています。これは日本の医学教育には組み込まれていませんが,米国の医師国家試験であるUSMLEの試験科目にもなっているものです。
日本では心療内科で行うような患者とのかかわり方を,米国では臨床心理の専門家が家庭医や一般内科医,小児科医といったプライマリ・ケアを担う医師(後期研修医)に教育しています1)。行動科学を学ぶことで,精神領域の専門家でなくても患者と良好なコミュニケーションを取れるようなスキルを身に付けることができます。
患者と信頼関係を築くには何が重要か?
行動科学によるアプローチを学ぶ前に信頼関係について考えてみましょう。どんなときに人は医師を信頼するのでしょうか? Thomらが行った質的研究2)で,患者医師間の信頼関係に影響を及ぼす因子が報告されています。表1はその要点ですが,生物医学的側面で解決できる因子は表の1,4のみで,そのほかは患者心理に対する医師側の対応です。つまり,医学的に腕の立つ医師であるだけでは,患者からの信頼は十分得られないのです。
表1 医師患者関係で重要となる因子(文献2より) | |
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