医学界新聞

連載

2009.11.09

ノエル先生と考える日本の医学教育

【第6回】専門職者としての自己統制に基づく
欧米の医学教育・3

ゴードン・ノエル(オレゴン健康科学大学 内科教授)
大滝純司(東京医科大学 医学教育学講座教授)
松村真司(松村医院院長)


2850号よりつづく

 わが国の医学教育は大きな転換期を迎えています。医療安全への関心が高まり,プライマリ・ケアを主体とした教育に注目が集まる一方で,よりよい医療に向けて試行錯誤が続いている状況です。

 本連載では,各国の医学教育に造詣が深く,また日本の医学教育のさまざまな問題について関心を持たれているゴードン・ノエル先生と,医師の偏在の問題や,専門医教育制度といったマクロの問題から,問題ある学習者への対応方法,効果的なフィードバックの方法などのミクロの問題まで,医学教育にまつわるさまざまな問題を取り上げていきたいと思います。


米国臨床研修プログラムの評価法とは?

松村 米国では,RRC(Residency Review Committees:レジデンシー評価委員会)が定めるすべての基準を臨床研修プログラムが満たす必要があるとのことですが,それはどのように評価されているのでしょうか。

ノエル 臨床研修プログラムの評価も,臨床研修病院の認定基準を定めるACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認可評議会)と各診療科のRRCが担当しています。調査には次の3つのレベルがあります。

●研修病院は,まずACGMEの「施設調査プログラム」(註1)によって評価される。これは研修プログラムごとに行われる内部調査で,研修病院の卒後臨床教育管理者によって,プログラム見直しの中間期である3-5年ごとに実施される。指導医,研修医,運営担当者が内部調査委員となるが,多くは当該科以外の研修プログラムの人である。研修プログラムに関しては,共通事項からそのプログラム特有の事項まで,非常に綿密な調査がなされ,その報告書がACGMEに提出される(註2)。研修医は内部調査委員会から秘密裡に面接調査を受け,そこで問題点が明らかになった場合,その病院の卒後教育委員会はその研修プログラムの問題を解決するよう指導を受ける。
●各診療科のRRCは,オンライン調査を1-2年ごとに行い,各研修プログラムに回答を求める。そこには研修医が答える事項も含まれ,問題点が明らかになった場合,外部調査が早めに実施されることもある。
●RRCはすべての研修プログラムに3-5年おきに外部調査員を派遣する。この外部調査に向け,プログラム管理者と研修医,教員は,より広範囲な調査を実施する。調査員はこの調査の報告書を事前に読み,懸念される個別の事柄や,法律上の問題(例えば労働時間の規定違反)などに焦点を絞り込む。

 研修医全員を対象に秘密裡に行われるアンケート調査,外部調査員の訪問時にやはり秘密を守りながら行われる(研修医個人あるいはグループとの)面接調査,そして研修医は誰でも何か問題があれば相談できるACGMEの“ホットライン”が,研修プログラムや組織から研修医を守る上で重要です。ACGMEの立場からいえば,彼らのミッションは患者と研修医を守ることであり,基準を下回る研修病院を守ることではありません。

松村 そのような研修病院の個々の研修プログラムを評価するための費用は,誰が負担しているのでしょうか。

ノエル 「研修医を受け入れてよい」という承認を得るために,臨床研修病院と研修医のいる診療科は,ACGMEに高額な会費を支払い認定・評価のための活動全般を支援しています。この会費の一部は公的健康保険(65歳以上と障害者を対象とした医療保険「メディケア」や低所得者層向け医療扶助「メディケイド」)を通じて補てんされます。つまり,これらの公的健康保険から支払われる診療報酬支払い額の基準が,研修病院はそれ以外の病院よりも若干高めになっているのです。

 それ以外にも,研修病院には卒後医療教育スタッフの人件費や,プログラム管理者や運営スタッフが研修の管理・運営に費やした労働時間への報酬といった追加の出費があります。例えば,研修医が40人いる内科研修プログラムには,プログラム管理者と副管理者が1人ずつ必要で,いずれも週2......

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