専門職者としての自己統制に基づく欧米の医学教育・4(ゴードン・ノエル,大滝純司,松村真司)
連載
2009.12.07
ノエル先生と考える日本の医学教育
【第7回】専門職者としての自己統制に基づく
欧米の医学教育・4
ゴードン・ノエル(オレゴン健康科学大学 内科教授)
大滝純司(東京医科大学 医学教育学講座教授) 松村真司(松村医院院長) |
(2854号よりつづく)
わが国の医学教育は大きな転換期を迎えています。医療安全への関心が高まり,プライマリ・ケアを主体とした教育に注目が集まる一方で,よりよい医療に向けて試行錯誤が続いている状況です。
本連載では,各国の医学教育に造詣が深く,また日本の医学教育のさまざまな問題について関心を持たれているゴードン・ノエル先生と,医師の偏在の問題や,専門医教育制度といったマクロの問題から,問題ある学習者への対応方法,効果的なフィードバックの方法などのミクロの問題まで,医学教育にまつわるさまざまな問題を取り上げていきたいと思います。
専門医の養成方法は?
松村 日本では,多くの研修医は初期臨床研修の後,専門研修に入りますが,その規制は厳密には行われていません。ジェネラルな研修から各専門科研修への移行は,米国やカナダではどのように行われているのでしょうか。
ノエル 米国とカナダのほとんどの医学生は,医学部卒業後3-5年間の初期臨床研修プログラムに入ります。ジェネラルな分野(総合内科,総合小児科,家庭医療など)の研修プログラムの多くは3年間(註1)で,認定試験(Board Certification)を終えた後Subspecialtyの研修(循環器科,腫瘍内科など)に入ります。なお家庭医の多くはSubspecialtyの研修には進みません。
また,一般外科は5年間の研修プログラムで,研修修了後,血管外科,胸部外科などの専門外科研修に入る研修医もいます。なお,米国の医学部を卒業して2009年7月に研修を開始した1万4566人のうち,総合内科,総合小児科,家庭医療の研修に進んだのは5385人(37%)でした。
麻酔科(註2),産婦人科,精神科,泌尿器科,耳鼻咽喉科,眼科,皮膚科,放射線科,神経科といった多くの専門科では,卒業とともに専門研修が始まります。欧米の医学生は卒業前の2年間に患者の治療に直接かかわる臨床実習を行ってきているため,卒後すぐでも既に日本の3年目研修医と同等以上の知識と手技を持ち合わせています。
松村 Subspecialtyの研修先はどのように決めるのですか。
ノエル 初期研修先と同じマッチングプログラムで,大半のSubspecialtyの研修先が振り分けられます。こうしたSubspecialtyの研修先の多くが研修2年目の中間期に応募を受け付けるため,研修医は研修終了の1年半前にマッチングを受けることになります。またこうした決断を研修3年目に延ばし,ジェネラルな研修の修了後の1年をホスピタリストやチーフレジデントとして過ごす研修医も多くいます。
松村 研修期間はどれくらいですか。
ノエル 小児科や内科のSubspecialtyの研修期間は大抵2-3年です。さらにSubspecialtyの中の専門領域もあります。例えば,不整脈専門医になるには,総合内科研修を3年,循環器科研修を3年,不整脈のフェローシップを1年やらないといけません(註3)。
松村 Subspecialtyの研修の条件にはどのようなものがあるのでしょうか。
ノエル 米国では,Subspecialtyの研修を提供するのにも厳格な条件が求められ,Subspecialty研修を実施する病院には次の事項が求められます。
・一定の数の研修医を確保し,専門科の研修の修了時に受ける認定試験の初回合格率が8割に達していること。
・指導医が十分な研究歴を持ち,また研修に適した十分な症例数と臨床経験を積む機会があり,評価とフィードバックが効果的に行われていること。
Subspecialty研修は,担当のRRC(Residency Review Committees:レジデンシー評価委員会)によってジェネラルな研修と同じ綿密さと頻度で調査が行われています(連載第5回参照)。また米国では,Subspecialtyの研修を実施するには,その分野の診療や教育をする上で重要な他の専門科の研修もその研修病院で行っていることが前提条件です。例えば,総合内科や麻酔科の研修を行っていない病院では外科の研修を提供することはできず,総合内科の研修を行っていなければ循環器科(卒後4-6年目)の研修はあり得ません。ここで医師たちが関連する他分野の医師と協力して診療することを学べる環境を保証しているのです。
学会からは独立した専門医認定審査機関
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