医学界新聞

連載

2009.09.07

レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【9回】認知症患者へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 今回は認知症(Dementia)におけるアプローチや薬物療法に関して学びます。治療可能な認知症を見逃さないようにルーチンのワークアップをきちんとやること,またどのタイミングで薬物療法を開始するのかを知ることは重要です。患者の入院を取るとき,外来で開始されたと思われる認知症に対する治療を漫然と継続しないで,なぜ投与されているのか,本当にその投薬は妥当なのか,他の疾患を見逃していないかを考えることは内科の重要なトレーニングです。

■Case

 58歳の男性。2年前より疲労感,物忘れが出現してきて生活に支障が出てきた。近医にてアルツハイマー病と診断され,ドネペジルを服用開始。病状は進行し,会社で仕事ができなくなり帰宅を命じられることも出てきた。うつ症状も見られ始めた。食欲低下に伴い,体重10Kg減少。幻覚など出現し,頻回に転倒するようになった。精査のため入院となる。

Clinical Discussion

 認知症は軽視されがちである。認知症のために入院してくる患者は比較的病状が進行しており,診断がつきやすいかもしれない。しかし,外来においてわずかな所見から積極的に軽度の認知症を診断するという姿勢も重要である。内科・精神科的疾患のために認知症を呈しており治療により改善するものもある。ここでは全般的な診断,治療に関して触れる。

マネジメントの基本

 認知症といえば何を思い浮かべるだろうか? アルツハイマー病,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭葉型認知症,パーキンソン病などだろうか。患者を診察していて何かおかしいという感覚をつかむことが重要である。何か引っかかれば,積極的にスクリーニングしたい。

まずはスクリーニング
  MMSE(Mini Mental State Examination)が世界的に使用されているが,日本では「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)が広く利用されている。うつ病を疑わせるような患者なら,簡単に9つの質問でスクリーニングできるPHQ-9(J Gen Intern Med. 2007;22(11):1596-602. [PMID:17874169])などを利用するのがよい(各施設で使用しているスクリーニングテストを利用してください)。

除外すべき,重要な内科・精神科的疾患
 以下の疾患はまず除外しなければならない。

*甲状腺疾患……甲状腺機能亢進症/低下症の両方とも認知症を起こしうる。
*神経梅毒
*ビタミンB12欠乏症
*うつ病
*アルコール依存症
*薬物性……高齢の患者は多くの薬剤を服用していることがある。その中に認知症を来す薬物が含まれる可能性がある。
*血管炎(SLEなど)
*感染症(HIV,ウイルス性脳炎など)

認知症のワークアップで必要な検査
*血算,電解質,腎機能,肝機能,甲状腺刺激ホルモン,ビタミンB12,RPRもしくはVDRLなど梅毒のスクリーニング検査(陽性ならばFTA-ABSなどで確認を)。
*その他必要に応じて,HIV,薬物検査,血沈,重金属のスクリーニング,葉酸,胸部X線,一般尿検査。
*一般的に認知症が認められ始めてから3年以内の場合,脳血管障害,腫瘍,水頭症などを除外するためにCTスキャンもしくはMRIを行う。

 アルツハイマー病,レビー小体型認知症,血管性認知症などの治療は現時点では非常に限られている。

薬物療法
 外来で投薬が開始される場合が多いが,どのようなタイミングで薬物療法が開始されるかなどの臨床研究...

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