医学界新聞

連載

2009.08.31

医長のためのビジネス塾

〔第7回〕企業戦略(2)戦略的思考のフレームワーク

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

戦略の必要性

 戦略はどうして必要になってきたのでしょうか。マーケティングが必要になった理由と同様に,人々が必要とするものを,単に作って売るだけではうまくいかなくなったからです。それはどうしてでしょうか。特殊な技術を必要としない製品の提供については,一部のメーカーだけで独占することができず,その製品の需要が多いことがわかれば,他のメーカーがその市場に容易に参入し,競争が発生するからです。

 競争は,提供される製品やサービスの改良につながっていきます。また,提供体制も改善されることによって,迅速な品ぞろえも可能になります。このように,競争の発生は私たち利用者にとっては便利な状況なのですが,提供側にとっては,競争に生き残るための努力が必要になってきます。そして,その努力の方向性を定めなければ,人,モノ,財政,時間,情報という貴重な資源を無駄に消耗することになります。それを回避するために,組織全体として大きな方向性を適切に判断・決断していく戦略を重視するようになったのです。

医長と戦略

 筆者が受けた社内経営研修において戦略の必要性は理解できたとしても,新たに湧いてきたのは,「戦略は,私のような診療科長にとって,どのような意義があるのだろうか」という疑問でした。現在,その疑問に対しては,「医長は,所属診療科内部の改善だけでなく,外部も見渡した上での判断を要求されることが多い。戦略の思考とツールは,その目的に活用できる」という認識に至っています。

 診療科内部の改善が意図するところは,方向性の定まった目標を効率よく達成していくためのHowを洗練することであり,部分の最適化を図ることです。一方,戦略とは,何が必要か(What),なぜ必要か(Why)を考え定めることです。診療科の医局員ならば,前者を理解し各々の努力をするだけでも組織への十分な貢献が可能です。しかし医長職になれば,後者のように,外部の状況や環境を見定めながら自分たちの方向性を決定する意識を持っていなければなりません。当該診療科に降りかかってくる課題は,内部の改善だけで解決できないことがたくさんあるからです。

 では,医長が外部を見ようとしたときに,何が外部に相当するのでしょうか。他職種,他の診療科,所属する病院全体,病院が存在している市町村,市町村のある自治体,日本全体,さらにはアジア,そして世界へと,あたかも自分自身の視点がだんだんと遠隔していくように考えてみてください。課題の内容や大きさによって,どこまで拡大すべきかを決めればいいのです。

 例えば,所属科の医師が退職した後も,その欠員が長期間にわたって補えない場合があります。そのときには,医師派遣の依頼および自前の医師雇用が,一般的な方法として挙げられます。こういった方法でうまく解決するならば,戦略的思考の必要性は生じません。しかし,いずれの方法を用...

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