医学界新聞

連載

2009.07.13

医長のためのビジネス塾

〔第6回〕企業戦略(1)理念と戦略

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

 前回までの大きなテーマは,マーケティングでした。今回からは企業戦略という新たなテーマについて,話を進めていきます。

 テーマの順番をどのように決めているのかというと,実は私が受講した講義テーマの順と同様にしています。理由は,「経営についてそれほど詳しくない受講者たちに対して,少しでも取り組みやすいように」という配慮で,その講義テーマの順番が設定されていたからです。確かに,マーケティングは私たちが消費者として接する商品・サービスの背景にある仕組みなので,皆さんも感覚的に理解しやすかったのではないかと思います。そして,そのマーケティングの上層に位置するものが,今回から紹介する企業戦略です。

 戦略とは大きな方向性や方針である,と以前(連載第3回)に述べてきましたが,それ以上の深い内容については,長い説明が必要になるために省略していました。というのも,戦略を説明しようとすると,さらにその上層に位置する経営理念にも触れる必要があったからです。今回は,この戦略そのものをテーマにして,ゆっくりと解説します。

障壁にぶつかったときこそ「経営理念」は必要

 企業活動のピラミッド
 企業活動はピラミッドのようである,と喩えられます(図)。頂上にあるのが,経営理念です。そこにはミッション(存在意義,使命),ビジョン(組織のあるべき将来像),バリュー(提供していく価値)が含まれます。これらの内容は短期間で簡単に覆されるようなものでなく,長期間にわたり組織内で共有されていくべきものです。

 ミッションとビジョンは,混同しやすい概念です。実際にいくつかの企業のホームページをみても,その区別が不明瞭なものが散見されます。しかし,これらは本来異なる意図で作られたものであることを理解しておく必要があります。

 ミッション(使命)は,その名のとおり,自分たちの存在は何のためにあるのか,という存在理由を明言したものです。例えば,航空会社A社の「世界の人々に夢と感動を与える」などがこれに当たります。医療施設であれば「地域の人々の健康と安心を支える」などが相当します。

 一方,ビジョンは,企業や組織にとって,将来のなりたい姿をイメージしたものです。「未来予想図」と呼ぶ場合もあります。どのくらいの未来予想かについては,最低5-10年単位であることが一般的です。そして,それは単なるお題目ではなく,シンプルでわかりやすくてワクワクするようなメッセージであることが望まれます。例えば,液晶テレビで有名なS社の「地球温暖化負荷ゼロ企業の実現」などは,その典型ではないでしょうか。さらには,企業サイドの視点だけではなく,顧客・生活者の視点を加味することが重要です。マーケティングの説明でも触れ...

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