医学界新聞

2009.07.27

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


外科の「常識」
素朴な疑問50

安達 洋祐 編

《評 者》白水 和雄(久留米大教授・外科学)

外科の「常識」を見直す

 私が外科医になったのは1974年であるが,当時は外科医をめざす医学生が多かった。外科医が多忙を極めていることは当時も今も変わらないが,内科医には治せない難治性の良性疾患や癌の手術を行う姿にあこがれ,外科に入局する者が多かった。私も一人前の外科医になるため先輩に厳しく指導され,知恵と技術を学んできた。35年の年月が過ぎ去った今,科学的なエビデンスが蓄積され,これまで諸先輩が築いた外科の「常識」を見直す時期にきている。

 本書は,『臨床外科』誌(医学書院)の好評連載「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問50」と,外科医が直面している最近の問題について,非常にユニークな視点から解説する[番外編]12編から構成されている。編者の安達洋祐氏は,九州大学,大分医科大学,岐阜大学の外科を勤務された後,現在,われわれと同じく久留米市でご活躍中である。

 [素朴な疑問50]では,全国の第一線で活躍中の27人の医師が,これまで外科の「常識」として慣習的に行われてきた処方,処置,検査,手術手技,術前・術後管理を徹底的に問いただし,内外の最新かつ質の高い論文を引用しながら再検証し,根拠のない「常識」を「非常識」としている。例えば,「胃腸切離断端の消毒は必要か――粘膜に消毒薬を塗って大丈夫?」という項があるが,胃腸切離断端の消毒は,私が外科医になるはるか以前から行われていた。私も疑問を持たずに,おまじないのような気分で切離断端のイソジン消毒を行ってきたが,創傷治癒をかえって障害するのであればやめなければならない。一方,「胃腸手術後のドレーンは必要か?」という疑問はいまだに解決されておらず,分担執筆者でも意見が分かれている。松股孝氏は,ドレーンには弊害もあるために不要とする立場,朔元則氏は合併症を皆無にできないことからドレーンを必要とする立場で,それぞれ根拠を挙げて述べている。私の専門は大腸外科,特に直腸外科であるが,例外なく吻合部周囲にドレーンを入れており,朔氏の“To err is human”“fail safe”の考え方に賛成の立場である。

 [番外編]では,「医師の教育はこれでよいのか」「外科医のメンタルヘルス」「外科医は単なる職人か」「外科治療とこの国のかたち」など,タイムリーで関心を引くテーマが多い。医療崩壊,勤務医離れ,外科離れが深刻な問題となっている昨今,医学教育を考え直さなければならないのと同時に外科医を取り巻く環境の改善が急務である。「EBMは絶対か」のテーマでは,近年,殴米において大規模臨床試験が盛んに行われ,得られた多くのエビデンスによるEvidence-Based Medicine(EBM)が,日本の臨床の場でもそのまま通用するかといった問題を取り上げている。朔氏は,個人がこれまでに培ってきた物語に基づいた医療Narrative-Based Medicine(NBM)もEBM同様重要で,EBM絶対主義を戒めている。「外科医は常識が欠落しているか」では,自己反省をせずに医療崩壊を社会のせいにしてしまう医師,裁量権の乱用,倫理規定違反などを問題として挙げている。

 安達氏は,現在,外科臨床の場で行われている根拠のない「常識」と医療をめぐる問題を取り上げ,どのように考えたらよいかの指針を本書で示した。本書を参考にして,「疑問を持つ外科医」「考える外科医」が増え,外科の診療や教育をリードする時代になってほしいという思いで本書を発行したのである。

 本書は,外科研修医,研修を終えた次代を担う若手外科医の必読の書といえよう。

A5・頁216 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00767-2


地域医療テキスト

自治医科大学 監修

《評 者》谷 憲治(徳島大大学院教授・地域医療学)

地域医療に携わるすべての人にとってのバイブル的なテキスト

 地域医療では,診療面で地域住民の健康を守る人々,地域医療を学問として研究に取り組む人々やその環境改善をめざす人々,さらには学生教育や若い医療従事者の研修の場と考える人々など,そのかかわり方は多様です。このたび,自治医科大学監修による『地域医療テキスト』を読んで受けた印象は,「わが国の地域医療に関する情報が診療,教育,研究,政策面などあらゆる領域において充実しており,地域医療に携わる者すべてにとってのバイブル的なテキストとなるであろう」ということでした。

 現在,全国の大学に都道府県による寄付講座が次々と誕生しており,私の所属する徳島大学にも2007年10月に徳島県との委託事業による受託講座として地域医療学分野が開設されました。私自身,これまで大学あるいは関連病院において呼吸器・膠原病内科を専門とした医師人生を歩んできたことから,本講座に移って1年半を過ぎた現在も地域医療に関する情報を得る機会が少なく大変苦労していました。

 この『地域医療テキスト』は私のような経験の浅い者にとっても地域医療の考え方を基本から理解していく上で非常に参考になりますし,数々の詳細なデータは地域医療学を専門としてきた者にとっても貴重な資料となることでしょう。医師不足に代表されるへき地の医療過疎の現状,地域医療・へき地医療を支える医師や諸制度に関する新しい疫学データも数多く盛り込まれています。また,急性期医療から在宅医療まで,総論のみでなく実際の事例を用いて地域医療を支えるさまざまな職種や施設とそのネットワークについてもわかりやすく紹介されています。

 しかも,内容は単なるデータの掲載のみにとどまらず,わが国の医療の将来を考えるなかで地域医療の果たす役割を踏まえながら,医師個人,住民,大学あるいは行政が,どのような方向性をもってお互いの連携を進めていったらよいかのヒントが示されています。今後このテキストを読まれる読者の皆さまも私と同様な感想を抱かれることを確信しています。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00805-1


標準精神医学 第4版

野村 総一郎,樋口 輝彦,尾崎 紀夫 編

《評 者》佐藤 光源(東北福祉大大学院教授・精神医学)

学びやすさと斬新さ

 これまでの精神医学の教科書はどちらかというと難解な印象の専門書が多く,医学生や研修医,一般臨床家にとって読みやすく理解しやすいものは少なかった。しかし,この『標準精神医学(第4版)』には,精神医学は難解なものという既成概念を打ち破る斬新な工夫が凝らされており,それが本書の大きな特長となっている。

 初版は1986年に医学書院「標準教科書シリーズ」として上梓されたが,特定の学問的立場に偏らない標準的な内容で,医学生・研修医の要望に応えるものであり,さらに医師国家試験の参考書として役立つことをめざして編集された。この基本方針は版を重ねた今回も変わることはないが,この第4版はかなり大幅に改訂されている。

 それは,読み物的な色彩を持たせるという基本方針が加わって,とても読みやすくなったことである。それには編者とともに執筆担当者の多くが世代交代し...

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