地域医療テキスト

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医学部のコアカリ改訂で新設された「地域医療」をテーマにした、本邦初の地域医療学のテキスト。監修はこの分野で実績を積み重ねてきた自治医科大学。本書では、地域医療の役割と実践のための方法論について、要点を押さえて解説。総合医を主人公にした最終章は、地域医療の息づかいと面白さが伝わってくる医学生必読のライトノベル。講義にも、実習前の準備にもお勧めの1冊。
監修 自治医科大学
発行 2009年03月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-00805-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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(高久史麿)/刊行のことば(梶井英治)


 今回,自治医科大学監修による『地域医療テキスト』が刊行されることとなった.自治医科大学が1972年にわが国のへき地医療に従事する医師を養成することを目的として,47の都道府県によって設立されたことは周知のごとくである.
 上記の目的を達成するべく,自治医科大学はその創立以来,教職員全員が一丸となって努力してきた.その結果,自治医科大学は高い医師国家試験合格率,高い義務年限達成率を果たし,義務年限終了後も出身都道府県にとどまって地域医療に従事している卒業生は7割を超えている.またさまざまな事情から出身都道府県を離れた卒業生の多くは,新しい場所で地域医療に従事している.
 卒業生の地域における活動を支援するために,自治医科大学はさまざまな事業を展開してきたが,その1つとして1981年に地域医療学の講座を開設したことがあげられる.地域医療学教室は医学部学生が自治医大の卒業生が勤務する病院や診療所で一定期間の臨床実習を行う院外実習,地域医療の後期研修制度,地域医療学社会人大学院制度等,自治医科大学の地域医療に関する卒前・卒後の教育に直接関与するとともに,地域医療白書を定期的に刊行し,自治医科大学のシンボルである地域医療の教育・研究・実践において中心的な役割を果たしてきた.地域医療学教室は,2004年に公衆衛生学,衛生学,法医学等,関連する教室とともに大講座制を採用し,その名称も地域医療学センターと改め,さらなる発展を目指している.
 このたび,その地域医療学センターが中心となって『地域医療テキスト』が刊行されることとなった.執筆は,自治医科大学の卒業生,教職員,かつて勤務していた方々を中心に,地域医療に直接,あるいは間接的に関わってこられた人たちである.したがってその内容も極めて具体的かつ実践的なものとなっている.近年の地域医療に対する社会の関心の高まりに呼応し,また実際に地域医療に関心を持つ医師の増加を目指して,都道府県からの寄附講座のような形で地域医療学の研究,教育を目的とした講座を新たに設ける医学部・医科大学が増加している.今回刊行される『地域医療テキスト』はわが国で刊行される地域医療学に関する最初のテキストであり,上記の各大学における地域医療学講座の教員の方々,ならびに地域医療を学ぶ医学生にとって極めて有用なテキストとなることと信じている.

 2009年3月
 自治医科大学学長 高久史麿


刊行のことば
 自然科学の発展とそれに基づく技術文明は,医学の分野に,人類が夢にまでみた多くの知識や技術をもたらしてくれた.そして,高度に自然科学化し,技術化した近代医学は,高度先進医療を発展させた.この高度先進医療により医療の細分化が進み,医療の現場では,人から病気,臓器へと目が向けられ,人を診るという視点が希薄になってきた.
 一方,わが国の国民を取り巻く健康問題をみると,急速に高齢化が進み,急性疾患から慢性疾患へと疾病構造の変化がもたらされ,わが国の医療は,「病気を治す」ことから,「健康を増進する,病気を予防する,病気を管理する」ことへと診療の主軸の転換を求められている.人々の関心は改めて自然科学では解決しえない,生きていくという本質の部分に向けられるようになり,生きがい感や幸福感,そして満足感に重きが置かれるようになってきた.このような国民の期待に応えうる医療として,今,地域医療に注目が集まり,同時に地域医療を担う医師の育成にも熱い期待が寄せられている.私たちは,この地域医療を担う医師のことを総合医と呼んでいる.
 地域医療は,住民の健康問題のみならず,生活の質にも注目しながら,住民1人ひとりに寄り添って支援していく医療活動である.この地域医療は,高齢化をいち早く迎え,しかも医療資源に乏しいへき地などの地域のなかから発展してきた.現在,地域医療のモデルが全国あちらこちらに誕生している.
 モデル地域では,住民,医療関係者,および行政が一体となり,地域医療を守り育てている.これらの地域では,総合医がコーディネーター役となり,保健・医療・福祉の連携による地域包括ケアを根付かせ,限られた医療資源が有効に活用されている.この地域医療モデルを全国に広めていくことこそが,医療崩壊とまでいわれているわが国の医療を救う最善策のように思われる.
 このような状況のなかで,医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂され,新たに「地域医療」が導入されることになった.そのなかでは,「地域医療の在り方と現状および課題を理解し,地域医療に貢献するための能力を身に付ける」ことが目標として示されている.以前から,地域医療学の学問体系を一冊の教科書にまとめる必要性を感じていたので,今回のコア・カリキュラム改訂を1つの契機に,『地域医療テキスト』の出版を企画した.
 本書では,地域医療の役割と実践のための方法論を示すとともに,これまでの取り組みと成果,ならびに現状と課題についても紹介した.さらに,地域医療の充実と発展へ向けた今後の取り組みや展望についても論じた.なお,地域医療とそれを担う総合医の活動をわかりやすくお伝えするために,ある家族に起こったさまざまな健康問題への対応を最終章で物語風に書き上げた.この物語を読んでいただくと,地域医療の全体像と総合医が人々のライフサイクルに関わり,さらに家族や職場,そして地域にも深く関わっている様子を具体的に思い描いていただけると思う.
 本書の刊行に際し,わが国のこれからの医療を担っていく医学生の皆様や研修医の皆様にぜひ読んでいただき,地域医療への理解を深め,そして興味を抱いていただくことを心から願っている.また,医学教育に携わっておられる教員の皆様,地域医療に従事しておられる皆様をはじめ,多くの医療関係者の方々に本書をお読みいただき,忌憚のないご意見をお寄せいただければ,望外の幸せである.

 2009年3月
 自治医科大学教授・地域医療学センター長 梶井英治

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ある地域医師の1日

I 地域医療学総論
 1 医療の現状と地域医療
 2 地域医療の歴史と医師の偏在
 3 地域社会と地域医療
 4 地域医療の概念と地域医療学
 5 地域医療の現状分析

II 地域医療システム論
 6 システムとしての地域医療
 7 地域医療システムを構成する人的要素
 8 医療機関
 9 介護と保健
 10 自治体(都道府県,市町村)
 11 NPO
 12 外来診療
 13 入院診療
 14 在宅医療
 15 保健活動と健康増進
 16 福祉活動
 17 都道府県の事例(島根県)
 18 市町村の事例Part 1(島根県隠岐郡西ノ島町ほか)
 19 市町村の事例Part 2(岩手県東磐井郡藤沢町)

III 地域医療を支える人材
 20 医師
 21 看護職
 22 コ・メディカル
 23 持続可能な地域医療機関(中小病院,診療所)の経営

IV 人々のライフサイクルに関わる地域医療
 24 ある家族に関わった経験から

索引

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地域医療の実際とその魅力が凝縮された実践的な指導書
書評者: 前田 隆浩 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座 教授)
 本書は,実際の地域医療業務についてわかりやすく解説し,従事する際に理解しておくべきことや注意点などを見事にまとめた,まさに実践的な指導書である。医療に関する内容だけではなく,保健や福祉はもちろん,わが国の地域医療の歴史や思想的な背景,地域の文化,そして関連する法律など幅広い分野について具体的に記載されている点が興味深い。また,巻頭の「ある地域医師の1日」と最終章の「人々のライフサイクルに関わる地域医療」は,写真やイラストを交えた平易な表現でありながら地域医療人としての役割や業務が実にリアルに描かれており,自分の経験と重ね合わせて思わず引き込まれてしまった。

 さまざまな人たちが指摘しているように,地域医療に必要な要素は多岐にわたる。もちろん充実した医療の提供は不可欠であるが,地域に溶け込み地域で活動していくためには,地域社会のシステムや文化を踏まえた社会学的な視点など,医学的ではないが欠かせない要点がある。本来,この多くは地域医療に従事するようになって初めて気付き,その都度学んでいくようなことである。地域医療教育を担当する立場になって,学生や若い医師にぜひ伝えたいと感じながらも,整理することができずに日ごろから説明の方策を模索していた。本書にはこうした要素についても簡潔に論及されており,ようやく出会えたという思いである。

 全国各地で医師不足と地域医療崩壊が叫ばれている中,多くの大学が入学者選抜に地域枠を設けるようになった。地域枠の学生に対しては地域医療に従事するモチベーションを高めていくような教育が求められるが,一方で全体的な地域医療に対する理解を深める教育もまた重要である。そのためには地域医療の実際とその魅力を伝えていくことが欠かせない。本書にはそのノウハウが凝縮されており,地域医療を志す学生や若い医師はもちろん,何よりも地域医療教育や臨床教育を担当する指導者にぜひ一読をお勧めしたい。
「地域医療」を正面からとらえた待望のテキスト
書評者: 武田 裕子 (三重大教授・地域医療学)
 「『地域医療』があるのはわかるけど,『地域医療学』なんて学問,本当にあるんですか?」と質問されたのは,私が三重県の寄附講座に着任した直後であった。確かに,見わたすと教科書がない。地域医療連携や地域保健・福祉などに関する本はあるものの,「地域医療」を正面からとらえて一冊にまとめた書物はなかった。しかし,実際に地域医療に従事している仲間と会話すると,実践に役立つ知識や方法論,そして日々の悩みやジレンマにも確かに共通のものがある。何よりも,「うんうん,そうそう」と大きくうなずいてしまう患者さんやご家族とのエピソード,病院の中にとどまらない地域を挙げての活動には,伝えずにはいられない楽しさと感動満載である。これを言語化,理論化できれば,「地域医療」のテキストになるのでは…と思い続けていたところ,ついに出た。自治医科大学監修『地域医療テキスト』である。

 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂で新たに「地域医療」が導入されたため,大学の講義に用いる学生向けのテキストとして作成されたと聞いている。しかし申し訳ないが,この本を学生にだけ読ませておくのはもったいない。医師,大学教員に限らず,全国の地域医療関係者にもぜひお勧めしたい一冊である。特に行政の方々には,優れた入門書であると同時に問題解決のヒントが得られる本となっている。さらに言うと,地域の中で活動した経験があって初めて,この本の行間にあふれる熱い思いが心の底から理解できるのだと思う。

 実習前の学生の皆さんには,まず,冒頭の「ある地域医師の1日」と「12. 外来診療」,最終章「24. ある家族に関わった経験から」を読んでほしい。個人的には最後の劇画調の挿絵にちょっと引いてしまったけれど,そこには地域医療ワールドが展開している。いよいよ地域に出かけていくことになったら,「13. 入院診療」「14. 在宅医療」「15. 保健活動と健康増進」は読んでおこう。地域では,心の眼を開き,耳を澄まして直接に学んでほしい。書いたものでは伝えきれないのも「地域医療」なのである。現場で疑問や矛盾を感じたら,この教科書の別の章が理解を助けてくれるだろう。そして将来,いよいよ医師として地域の健康課題に取り組むようになったら,きっとこの本が頼りになる。さまざまなデータや解説,具体的な実践例が,多方面から考える枠組みを与えてくれるに違いない。
地域医療に携わるすべての人にとってのバイブル的なテキスト
書評者: 谷 憲治 (徳島大大学院教授・地域医療学)
 地域医療では,診療面で地域住民の健康を守る人々,地域医療を学問として研究に取り組む人々やその環境改善をめざす人々,さらには学生教育や若い医療従事者の研修の場と考える人々など,その関わり方は多様です。このたび,自治医科大学監修による『地域医療テキスト』を読んで受けた印象は,「わが国の地域医療に関する情報が診療,教育,研究,政策面などあらゆる領域において充実しており,地域医療に携わる者すべてにとってのバイブル的なテキストとなるであろう」ということでした。

 現在,全国の大学に都道府県による寄付講座が次々と誕生しており,私の所属する徳島大学にも2007年10月に徳島県との委託事業による受託講座として地域医療学分野が開設されました。私自身,これまで大学あるいは関連病院において呼吸器・膠原病内科を専門とした医師人生を歩んできたことから,本講座に移って1年半を過ぎた現在も地域医療に関する情報を得る機会が少なく大変苦労していました。

 この『地域医療テキスト』は私のような経験の浅い者にとっても地域医療の考え方を基本から理解していく上で非常に参考になりますし,数々の詳細なデータは地域医療学を専門としてきた者にとっても貴重な資料となることでしょう。医師不足に代表されるへき地の医療過疎の現状,地域医療・へき地医療を支える医師や諸制度に関する新しい疫学データも数多く盛り込まれています。また,急性期医療から在宅医療まで,総論のみでなく実際の事例を用いて地域医療を支えるさまざまな職種や施設とそのネットワークについてもわかりやすく紹介されています。

 しかも,内容は単なるデータの掲載のみにとどまっておらず,わが国の医療の将来を考える中で地域医療の果たす役割を踏まえながら,医師個人,住民,大学あるいは行政が,どのような方向性をもってお互いの連携を進めていったらよいかのヒントが示されています。今後このテキストを読まれる読者の皆さまも私と同様な感想を抱かれることを確信しています。

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